No.529(Web版179号)3
三度藤子・F・不二雄SF短編ドラマが
中村達彦
「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ」が、今年もNHKで放送され、全話視聴した。
昨年もPMで取り上げたが、また紹介する。
藤子・F・不二雄が1968年から95年に描いた短編SFマンガから選びドラマ化。2023年、2024年と続き、3度目だ。6月に4本、8月末から9月初めに7本(うち1本は前後編)が放送された。
平凡な生活を過ごしていた主人公が、奇妙な出来事に囚われる展開。
私は中学時代から、原作を読み、大体のストーリーは知っていた。SFを含んだ、爽快な結末が多い。品がある。世にも奇妙な物語と言ったところか。
2023年の第1シリーズから、楽しませてもらった。面白い。こう言うことが未来に起きるんじゃないか、もしかしたら本当にこうなんじゃないかと一抹の恐怖を匂わせた話もある。
SFアイデアは古い感は特にない。入門書として適している。
多くの作品は、既にストーリーはわかっていたが、映像化したらどうなるか楽しみだった(第1シーズンに放送された「流血鬼」は昔小中和哉に映画化の話があり、企画倒れに終わり残念に思ったものだ)。
「えっこの人が」と何度も起用に驚かされた俳優の演技と、苦労して制作したVFXやアニメーションを取り入れ仕上がった。作り物と感じない。
3度目11本のうち、後半の7本を取り上げる。
最も楽しみにしたエピソードは「みどりの守り神」。前後編だ。
旅客機の墜落事故に遭った少女みどりは、父母を失い、雪山で眼を覚ました時、かなり時間が経過していたが、どうなっているのかわからない。
同じ生存者の坂口青年と山を下る。
行けども行けども、人はおろか、鳥や獣、魚や虫の姿も無い。草木が生い茂るばかり。
慣れぬ行程に。みどりは傷つき、遅れるばかり。一見親切な坂口もイライラを募らせる。
無人の集落で過ごした後、急造した筏で川を下るが、生きるものの姿は無く、濃い緑が続くばかり。やがて筏は廃船と衝突、2人は投げ出されてしまう。
しかし蔦に絡まり岸に打ちあげられていた。その前にお腹が空いた時、木の実があったり、怪我をした足が一晩経つと治っていた。
陸路を進む2人の前に、やがてジャングルに呑み込まれたビル群が。事故から100年が経過した東京だった。
残されていた新聞から、細菌兵器が漏洩し、人類を含む生物が死滅してしまったことが明らかに。
坂口はショックで発狂、行方不明となる。
1人残されたみどりは、自分の住まいへ向かう。緑に覆われていたが、墜落事故の前と同じ状態で残っていた家、何も希望が無くみどりは自殺する。だがその後……。
救いのある結末。作品タイトルに秘密が隠されており、唸ってしまう。
緑に包まれた東京は、CGで描かれた。機体に違わぬ映像化。昔は、ここまで作れなかっただろう。少年ドラマシリーズの匂いを感じたと言う声も。
みどりは藤崎ゆみあ(新人のモデル出身)、坂口は大河ドラマ「べらぼう」で好演したばかりの宮沢氷魚、最後に出演する人物を仲村トオルが演じる。
脚本・演出・VFXを手がけたキムラケイサクは、東映特撮のCGデザインを長く務め、昨年のシーズン2でも、「鉄人をひろったよ」を担当した。
「みどりの守り神」は34年前にアニメ化され、YOUTUBEでも視聴可能。
映画「復活の日」とあちこち重なる。
「みどりの守り神」マンガが描かれたのは1976年。「復活の日」映画は1980年で、小松左京の原作が書かれたのは1964年。藤子・F・不二雄は原作を読んだのか?
他にも、藤子・F・不二雄ならではの、宇宙人と少年の心温まる交流「宇宙(そら)からのオトシダマ」、石をペット替わりに売る営業マンがタイムマシンと出会う「オヤジ・ロック」がある。
続いて「マイロボット」「分岐点」は、ハッピーエンドと言い難いラスト。伝説の虫を巡るひと夏の体験「ユメカゲロウ」は夏の終わりに相応しい幻想的な物語。「異人アンドロ氏」は不思議な能力を持つ隣人に巻き込まれた、大人向けのドラえもん的な話。
「異人アンドロ氏」。本来は連作のエピソードであったが、本作発表の翌年、藤子・F・不二雄は逝去、絶筆となる。
藤子・F・不二雄も石ノ森章太郎も手塚治虫も60歳で逝去。天命とは言えあと2、3年生きて、作品を遺してもらいたかった。
基本的には原作に忠実だが、あちこち改変されている。
「みどりの守り神」では、みどりが自殺する前に、川で裸になり沐浴するが、NHKドラマでは、さすがにそれは……。
第2シーズンの「じじぬき」は、死後の世界で、老人が妻を殴るシーンが原作であったが、泉谷しげると原田美枝子のドラマではカットされた。
藤子・F・不二雄SF短編ドラマは沢山ある。ヌードやDVのシーンがあり、「これはちょっと」と思うものもあるが、「幸運児」「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」「ポストの中の明日」「倍速」など面白い話がまだまだある。
来年シーズン4をやらないだろうか?
前に言ったように星雲賞で「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ」を取り上げた企画があってもと思う。
そう言えば、浅田次郎原作の小説「母の待つ里」がNHKでドラマ化された。岩手の山里を舞台にした人情ものだが、これもSFと言えるのでは無いか?


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