No.516(Web版166号)2

 名探偵登場(前編)

 中村達彦

 今回は、推理小説について、私個人を含め、あんな話やこんな話を書いてみたい。実は推理小説の大家は、SF小説も書いている。
 エドガ・アラン・ポーは推理小説とSF小説の原型を手がけているし、コナン・ドイルは「失われた世界」などで知られる。シャーロキアン(熱烈なホームズファン)で推理作家の北原尚彦は、日本SF作家クラブ会員で、スペースオペラを書いたことがある。
 私は小学校3年生の時、学研ムック本名探偵登場を読み、続いて世界少年少女名作文学全集と言う世界中の小説を収録した本があり、シャーロック・ホームズを知った。少し前、アメリカのエドガ・アラン・ポーが推理小説を何本か書いて原形を確立し、フランスで探偵シリーズ「ルコック探偵」があり、ホームズ前に、探偵小説の面白さを見せてくれた。
 難事件が発生し、ベーカー街の下宿でパイプをくゆらせ、退屈さを嘆いていた変人のホームズは行動を開始、犯罪真相を暴いていく。
 ホームズの活躍は、1887年から、「緋色の研究」「四人の署名」「まだらの紐」など60本の長編・短編小説があり、イギリスのみならず他国でも人気を博す。
 コナン・ドイルは、医者として開業するがうまくいかず、続いて歴史小説を書くが見向きもされず、それで若い人向けにホームズを書いたら大ヒット。
 ドイルはホームズに思い入れを持たず、大人向けの歴史小説で認められたかった。
 高まるホームズ人気にうんざりして、1893年に「最後の事件」でホームズを殺して、シリーズを終了させるも、多くのファンからの恐喝に近い抗議(昔からよくいるんだ)や出版社が高い原稿料を積んだことに、10年後ホームズを復活させる。(その前に書かれた長編「バスカヴィル家の犬」は、傑作)。
 死んだと言われたホームズが還って来る。今まで何をしていたのか?ドイル以外の作家が、パスティーシュで、空白の期間の物語を書いている。
 日本でも推理作家の大御所でSF小説、SFアニメ脚本も書いた加納一郎が、1984年「ホック氏の異郷の冒険」を書く。
 明治時代に日本政府とイギリスの外交機密文書が紛失、日本人の医師とS・ホックなる謎のイギリス人が捜索にあたる。
「ホック氏の異郷の冒険」から40年目の今年、松岡圭祐が「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」と言うパスティーシュの続編を発表した。「ホック氏の異郷の冒険」は、日本が舞台で、外交問題に伊藤博文や陸奥宗光と実在の人物がホームズ(ホック)に絡むが、「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」も同じで。
 フランスでも、1905年、怪盗紳士の活躍が注目され、人気シリーズになっていく。アルセーヌ・ルパン。世界少年少女名作文学全集でも取り上げられていた。
 泥棒が主人公と言うことで敬遠したが、読んでみると、その鮮やかな手口に拍手を。
 作者のモーリス・ルブランは、純文学作家を目指していたが、ドイル同様、鳴かず飛ばず止む無くルパンを書いたとのこと。ルブランもSFを書いている。
 シリーズが始まってから、早々にルパンはホームズと対決する。この時、ルブランは、ドイルにホームズ使用の許可を取っておらず、ホームズはルパンの引き立て役になり、1作目では引き分け、続く長編『奇岩城』では(これも世界少年少女名作文学全集に載っていた)、ルパンの妻を殺してしまう。
 読んで私は困惑したが、多くの抗議があったらしく(ドイルからもルブランに抗議があったと言われる)、ホームズではなく別の名前の探偵と改められている。
 ホームズもルパンも人気シリーズで続き、第1次世界大戦では、それぞれドイツの陰謀にあたるエピソードがある。
 ルパンのシリーズは、日本でも翻訳されたが、うち「ルパンの大作戦」は、フランス軍に医師で参加したルパンが、ドイツの女スパイに父を殺された青年を助け、祖国のため大活躍する話。私は好きだが、実は「ルパンの大作戦」の元になったルブランの小説では、ルパンはほとんど活躍せず、日本人の翻訳者が大がかりに加筆したそうで。
 ホームズの「最後の挨拶」は、イギリスに暗躍するスパイを、ホームズが相棒のワトソンと捕らえる話だが、ホームズの完結にしても相応しい(この後も10年もホームズの物語は書かれていくが)。
 ホームズもルパンも人気シリーズで、第1次世界大戦後も、更に作者や時代、国や性別も超え、小説のみならず、映画やアニメにもなって、現在も続いている。ジェレミー・ブレッドがホームズを演ずるドラマは一押し。
 石森プロ出身の石川森彦やJETに、ホームズはマンガ化され、原作のイメージを忠実に再現された。
 ドイルは30年に亡くなったが、晩年は心霊研究に力を入れていた(水木しげるが漫画を描いている)。ルブランは41年に逝去。
 一方で、イギリスでは女性作家のアガサ・クリスティー、フランスではガストン・ルルー(「オペラ座の怪人」などホラー小説で名高い)の「黄色い秘密の部屋」など新しい推理小説が登場する。
 アガサは、ポワロやミスマープルと言った複数の人気シリーズを書き、第2次世界大戦後まで長く現役で、ミステリーの女王と称された、日本にもファンが多く、作品は何度も映像化されている。
 推理小説はヨーロッパのみならずアメリカ、そして日本にも渡ってヒット。
 日本でも名探偵明智小五郎や金田一耕助が登場するが、それについては次号で。

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No.516(Web版166号)1

「サイボーグ009トリビュート」「デッドプール&ウルヴァリン」のことなど

 中嶋康年

 福田さんを差し引いて「サイボーグ009」の記事を書くのは恐縮だが、今月の表紙として採用した河出文庫の「サイボーグ009トリビュート」、書店で新刊として並んでいるのを見てその場で即購入、先日読了したが、なかなかいいアンソロジーになっているので僭越ながら紹介させていただく。
 作品を寄せたのは、辻雅樹、斜線堂有紀、高野史緒、酉島伝法、池澤春菜、長谷敏司、斧田小夜、藤井大洋、円城塔の9人。それぞれの作家の得意分野を生かした作品が集まった。なかでもよかったのが、ゼロゼロナンバー・サイボーグ開発中のジェット・リンクはいかにして複数の候補の中から002になったのかという酉島伝法の「八つの部屋」という話。改造されてから60年後、メンテナンスを受けながらも老境の域に達してきたサイボーグたちにも忍び寄る敵の姿。初老のフランソワーズというのも新鮮というか、なんというか。(「wash」長谷敏司)。火星往還船の隔壁の水に満たされた区域で人知れず活躍する、白髪になり007から「爺さん」と呼ばれるピュンマ(「海はどこにでも」藤井大洋)。バレリーナとしてのフランソワーズを描いたのは斜線堂有紀、高野史緒、池澤春菜の3人。ロシアのバレー界の描写はさすがにロシアに詳しい高野である。007と中華飯店を営む張々湖が改造される前の中国での貧しい時代のことを知っている男と出会う斧田小夜の「食火炭」。ギルモア博士が亡くなり、「システム・ギルモア」としてよみがえる円城塔の「クーブラ・カーン」など、これほどまでに広い世界を構築できる設定を生み出した石ノ森章太郎はやはり天才である。
 さて、「デッドプール&ウルヴァリン」を観てきた。公開から1か月は過ぎたので【ネタバレ】を含みます。公開前は監督が「この映画は以前のマーベルを見てなくても楽しめます」とか言っていたようだが、なんのなんの、バリバリ以前のキャラクターが出てくる。私はよく見ている方だからわかったけど、マーベル初見の人は(そもそも見ないだろうが)どうだっただろうか。もう、冒頭からウルヴァリンの前の映画「LOGAN」観ていることが前提だからね。ディズニーのドラマ「LOKI」のTVA(時間変異取締局)も出ているし。この手の映画の楽しみ方としては、映画を見た後にネットのネタバレ記事をいろいろ思い出しながら読むことだなと思う。映像としては、見どころがたくさんある映画だったというのが私の評価です。

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No.515(Web版165号)2

 セーヌ河の浄化

 加藤弘一

昔、天龍の知り合いから聞いた子供のころの夏の遊びといえば、仲間と共にふんどし一丁になり帯の隙間に50銭銀貨を押し込み、天竜川に飛び込む。
そのままドンブラコッコと下流まで流れ、岸に上がりふんどしを乾かしてからバスに乗り50銭銀貨をバチッと渡して上に戻ったそうである。
例えは悪いかも知れないが、まるでリフトに乗ってから下るスキーみたいだと思った。
自分も子供の頃大井川で泳いだものである。
勿論、東海パルプの上流の方でだが。
今では、大井川も天竜川もあんまり泳ぐ人はいないだろう。
一方、パリのセーヌ川は100年前から汚染の為遊泳禁止になっているらしいが、オリンピックのトライアスロンの会場にするために水質改善にやっきになっているらしい。
しかし、コスモリバースでも不可能と言われる(冗談)セーヌ川の浄化は一向に進まない様である。
浄化が上手くいったら自ら泳ぐと言っていたマクロン大統領だが、今泳げば御陀仏だろう。
セーヌ川の岸に停めている沢山の船舶は一定の料金(税金)を支払って人が暮らしているらしいが、ウ○コとかはどうやって処理をしているのだろう。
間違いなく暗い夜中にドボンと投棄しているにちがいない。
こうして、汚染は解決せずトライアスロンの選手に危機は迫っているのである。

 

トライアスロンは、水質が基準外のため延期されたが…

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No.515(Web版165号)1

 日本SF大会やねこんRアフターレポート

 by渡辺 ユリア

 7月6日〜7日まで長野県の白樺リゾート池の平ホテルで宿泊型の日本SF大会が開かれました。私はJRのしなのとあずさを乗り継いで茅野駅で降り、送迎バス【予約しました】で池の平ホテルへ。11時半頃に到着。さて、1時半頃にディーラーズルームのスペースへ行って、店を出しました。その場所からライブイベントの方々が見えました。だんだん絵が仕上がっていくのを見るのは楽しかったです。そして開会式はそこのスクリーンでみました。
“ながのの唄” が字幕つきで流れるのにはびっくりしました。
 その後、第1回目の分科会が始まり、私は “森下 唯 ピアニート公爵 音楽X小説アンソロジー「IMAGINARC」語るコンサート” にいきました。場所は新本館のロビー。椅子とテーブルがあり、椅子は30個ほどの布張りのゆったりした椅子。その前にグランドピアノが置かれていました。まじ、オープニングは “夏は来ぬ” のオリジナルバージョン。素敵でした。次にピアニート公爵さんの自己紹介。SF作家の森下先生の息子さんで東京芸大卒のプロのピアニストで、6月に “2台のピアノによるコンサート「IMAGINARC」” に出演されたピアニストの一人だそうです。そして今回のコンサートはそれらとは違ってました。まず伊福部 昭先生(ゴジラの音楽で有名な作曲家)作曲の組曲から3曲 1 盆おどり 2 七夕 3 ねぶた でした。まず1は・・激しいタッチの音楽で、ピアノは打楽器?と思うほどでした。2は・・静かな曲で宇宙空間を感じられるような曲。3は・・1つは違った感触でした。そしてラストの曲はけっこう長い曲でファイナルファンタジー7の組曲を元にしたオリジナルバージョンの曲でした。所々聞いたことのある旋律が流れていました。とても素敵でした。
 その後、夕食バイキングにいきました。余りに広いので迷いそうになりました。おいしかったです。次の分科会は長谷川裕一先生の “すごい科学で守ります” でしたが、みえてたのは先生だけだったので淋しかったです。笹本先生はリモート出演でした。その後ディーラーズルームに戻りましたが、眠くなったので、温泉に行ったり、泊まる部屋にいきました。次の日の暗黒星雲賞の発表は面白かったです。自由部門はやっぱりとおもいました。ホテルの通路でした。新本館の部屋から東館までの長い通路。多分200mはあったと思います。そこを行きつ戻りつしてみえる方々は大変だったでしょう。
 では、この辺で。             yullia 2024.7.22

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No.514(Web版164号)2

 ハルコン・ブックス“機械じかけの親指のうずき”についてあれこれ

by 渡辺 ユリア

 今年のはるこん2024のGoHとして来日されたメアリ・ロビネット・コワル氏の本邦初の短編集。はるこんの分科会でもとりあげられ、いろいろな感想が出ました。“塵は塵に” は、もし自分がそういう魔法にかけられて生きながらえていたら、どう思うかと思いました。“機械じかけ・・” は、人体改造が当たり前となった未来でより良き演奏をするために、取り外し可能な機械じかけの親指を増設しようとする若きピアニストとそれを厭う両親との葛藤が描かれています。その親指を慣れさせるためにできれば長い時間装着しないといけないし、その人の脳に影響を与えるようである。それを彼女の両親が厭うのである。それは人間らしくない・・・と言って。そして彼女はどんな未来を選ぶのか、という話。“真夜中の刻” は狂乱の王となった夫とどう向き合うのか悩んでいる妻の気持ちが表現されています。
 では、この辺で            2024.6.18 yullia

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No.514(Web版164号)1

 どうなるSFアニメ?

 中村達彦

 6月初め、アニメ会社ガイナックス破産の報が、窮状は前から聞いていたが。
 SF大会オープニングフィルムのアニメで注目され、設立。「王立宇宙軍オネアミスの翼」「トップをねらえ!」「ふしぎの海のナディア」と話題作相次ぎ、「新世紀エヴァンゲリオン」が大ヒット。パソコンゲームでも注目された。
 96年冬に東海SFの会で「新世紀エヴァンゲリオン」同人誌を作ったものだ。
 2002年に出た武田康廣「のーてんき通信 エヴァンゲリオンを創った男たち」にガイナックスの歴史や詳細な証言が。最後に前向きな展望が述べられていた……。
「新世紀エヴァンゲリオン」の後も、新しい作品を作ろうとしていたが、力がなくなっていく(2001年SF大会Fコンのオープニングアニメも作られなかった)。
 脱税や社長解任などのトラブルが絶えず、カラーやトリガーと会社が分かれていき、破産に。庵野秀明は手を差し伸べていたが。
 オネアミスの翼続編など企画止まりに終わったアイデアにも面白いものがあり、日の目を見なかったことは残念だ。
「鉄腕アトム」放送から61年が経つ。
 30分1話のアニメを普通に作ると3ヶ月かかると言われており、どう見せるか試行錯誤しながら、人を集め、動画にしていく。更に声優を選び、セリフを考え、演技をお願いする。デジタル化が進んだとは言え、アニメを作るのは大変だ。
 現在TVや映画、ネット公開と発表形態が広がり、深夜に1クール放送している作品が多い。「葬送のフリーレン」「SPY×FAMILY」「鬼滅の刃」など、昔は考えられなかった作品が高い人気を得ている。
 今年1月に1クール放送された「メタリックルージュ」は、出渕裕の原作で、SFのクリエイターが複数参加し、開始前、本格的に面白いSFアニメと期待した。
 2128年、人類は宇宙人との接触、戦争を経て、人造人間ネアンを生み出し、火星に植民地都市を建設し、金星開発を進めていた。
 一見普通の少女の容姿のルジェは、実はネアン。戦闘形態の姿グラディエーターにチェンジして、特殊なネアンインモータルナインと戦い、倒していく。
 人類と差別されるネアンの様子が語られ、「ブレードランナー」それより前の「鉄腕アトム」でも描かれていた。
 インモータルナインは、ネアンを差別する人類への反抗を目論んでおり、ルジェはそれを防ごうとする。協力する捜査官ナオミとのバディ、ルジェの上司ジーン、インモータルナインらのドラマも描かれる。
 ラスト、金星に集結したインモータルナインの陰謀に、ルジェ、ナオミらは挑む。姿を見せる黒幕との対決。
 観終わって「はあ…」と、面白くなかった。
 作画は綺麗で、いろいろ設定を作っているが、1クールでは消化しきれず、詰め込み過ぎ、人間関係から説明不足。速足でストーリーが進み、「あれっ」と思うこと多かった。2クールでじっくり見せて欲しかった。
 出渕はデビュー46年の大ベテラン、傑作メカデザインを多く手がけ、大のSFファンとしても知られる。現在、「PATLABOR EZY」と言う作品に取り組んでいる。
 昨年秋、NHKで深夜放送された「地球外少年少女」全6話。監督は「電脳コイル」を手がけ、質感ある作画で定評の礒光雄。
 西暦2045年の地球付近にある宇宙ステーションあんしん、そこで暮らす少年登矢と少女心葉は宇宙生まれで、ステーションで暮らす人間も数人しかいなかった。訪ねて来る地球からの少年少女。宇宙での生活での制約から来訪者を敵視する登矢。
 あんしんにトラブルが発生、地球に大惨事が及ぶ可能性も。対立していた子供たちはお互いの能力を駆使して、力を合わせて挑む。
 AIやドローン、宇宙端末などの小道具が設定され、難解だが、それぞれの子供たちの個性が出ている。ジュブナイルのSF劇。
 他にお勧めのSFアニメは、2013年に作られた「翠星のガルガンティア」。
 遥か未来、人類銀河同盟と超生物ヒディアーズの戦争下、少年兵のレドっは、人工知能を持つ愛機のロボットチェインバーと共に、氷河期の到来した後の地球へ転送される。
 一旦、文明を失うも、人類は、海上で船を集めて船団国家を作って存続している。
 レドは船団の窮地を救い、仲間に迎え入れられるが、ヒディアーズは地球にも及び、船団にもいろいろ問題が起こっていく。
 人工知能、未来社会など様々なSFが組み込まれ、一方「未来少年コナン」「SPTレイズナー」と古いSFアニメの匂いがあるボーイミーツガールの話で、放送から10年以上経つが、懐かしい傑作だ。
 アニメは、普通の人間がファンタジーの世界で生まれ変わる転生ものと言われるジャンルが流行っている。
 最近もVRファンタジーの世界で過ごしていたのが、システムのトラブルで、ゲームプレイヤーの姿で生活することになったキャラクターの物語が「ソードアート・オンライン」「ログ・ホライズン」とアニメシリーズ化され、好評を博した。
 他にも天涯孤独の青年がファンタジーの世界に転生、国王となる「現実主義者の再建記」と言う小説がアニメで2期放送されたが、最終回SF的どんでん返しがある。
 まだまだ新しいアニメがあり、面白いSFアニメが現れるだろう。
(F会と言うサークルが、半年毎に発行FANI通で、アニメレビュー、感想を書いています。詳細はネットのF会ブログで)

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No.513(Web版163号)3

 ローダンの話

 加藤弘一

先日。早川書房からなにやら封筒が来たので開けてみるとローダンのエコバッグが入っていた。
シリーズ700巻達成記念の応募をしていたのを忘れていたのである。
500巻から始まった銀河ハンザサイクルにまつわる話とエスタルトウサイクルが終了し、新しい話が始まったのだ。
とはいえ読了したわけでは無く自分は629巻をさ迷っている最中である。
500巻以降からドイツの新しい作家が続々登場し、翻訳者も新しい人が増えてきた。
慣れない文体のニュアンスの為か読書に難儀するようになってしまったのだ。
また経費節約の為か挿し絵も無くなり、難儀な文体から場面を想像するしかなくなり、おまけに他の本も読んでいる(浮気?)ので、どんどん遅れていくのだ。
まるで、のぞみで走る翻訳陣をこだまで追っているようである。
松谷さん(最初の訳者)を懐かしむ日々でもあります。

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No.513(Web版163号)2

 怪獣は日本SFの顔か

 中村達彦

 4月に亡くなった山本弘は、と学会の活動で超常現象、UMAについて取り上げ、厳しい意見を述べていた。
「MM9」は代表作と言える小説で、2005年から2012年に書かれた。
 怪獣の出現が日常茶飯事の世界。怪獣の出現を予測する組織として気象庁内に設置された特異生物対策部気特対。
 怪獣と戦うのは自衛隊で、怪獣を体重により等級化するMMがあり、それに合わせ災害は設定されている。
 気特対主人公たち。怪獣災害の予想、分析がメインで、外れて責められることも。
 怪獣の存在する物理交渉が考えられ、多重人間原理と言う設定が作られている。
 東宝特撮やウルトラシリーズUMAなどからのオマージュが濃い。
 全3巻+外伝1巻。
 1巻で山本の趣味もあって、とんでもない怪獣が登場する。次巻、次々巻もストーリーに絡むが、その姿は絶対に映せない。
 次巻では、世界観は同じだが、新しいキャラクターが登場する。宇宙人も絡む。
「MM9」は2010年7月に1クールドラマで放送され、アニメ企画もあった。
 ドラマは、樋口真嗣が監督を手がけ、後に「シン・ウルトラマン」をやった時、参考になったのでは。ストーリーやキャラクターは原作と異なっており、先に述べたとんでもないものも登場しない。
「MM9」とは別に、山本は「多々良島ふたたび」と言うアンソロジーを書いている。「ウルトラマン」エピソードの後日談で、読んでいて「えっ」と言う仕掛けがある。こう言う話をもっと書いてもらいたかった。
 山本は特撮やアニメの大ファンだが、考証やストーリー展開に厳しい。 
 怪獣小説で、山本に称賛されているのは、有川浩が2005年に書いた「海の底」。 
 横須賀の米軍基地。一般にも開放されていたが、突然、巨大なザリガニ(甲殻類)の大群が襲撃、人々を襲い捕食していく。 
 基地内にいた海上自衛隊の潜水艦は、居残っていた若い隊員夏木と冬原が任されるが、潜水艦はザリガニに囲まれ動けない。しかも、艦へ避難して来た子供たちがいた。
 子供たちを守って、夏木と冬原は助けを待つ。一方、アメリカ軍と自衛隊の駆け引き、現場機動隊員の戦い、対策にあたる警察幹部が電子掲示板で意見を求めるなどが描かれ、巨大ザリガニの正体も明かされる。 
 子供たちは、大人に従っている良い子ではなく。住んでいた団地の人間関係を反映している。夏木との対立他のドラマも。
 幾つもの思惑を絡め、物語は進む。
 自衛隊などの組織、登場兵器について相応に取り上げ、怪獣もののオマージュがあちこちに。映像化して欲しいものだ。
 有川は「空の中」と言う怪獣+自衛隊+ライトノベルの作品があり、「図書館戦争」「三匹のおっさん」「フリーター家を買う」などの映像化された面白い小説を多く発表している。最近はご無沙汰しているが……。
 また坂本康宏が2002年に書いた「歩兵型戦闘車両ダブルオー」も面白い。 
 会社をクビになり恋人に去られた青年雨月が、他の2人と合体ロボットを操縦して、化学物質の流出で生まれた怪獣と戦う。 
 公務員である雨月たちは、操縦するロボットの誕生理由や必殺技について知らされ驚愕する。また自分がなぜ戦うかや、自分をふった元恋人が戦いに巻き込まれ救うか否かと悩むことも。
 他の操縦者2人や職場面々、怪獣を生み出した者のドラマもある。スーパーロボットものの面も強い。  
 読み切りだが、もう少し読みたかった。
 坂本は「稲妻」とか特撮ヒーローを題材にした話を他にも書いている。
「怪獣文藝の逆襲」「日本怪獣侵略伝〜ご当地怪獣異聞集〜」などのアンソロジーがあり、大家の夢枕獏「大江戸神龍伝」、宮部みゆき「荒神」と言う江戸時代を舞台にした怪獣小説もある。
 去年秋から公開された「ゴジラ−1.0」は好評で、アメリカアカデミー賞も受賞。
 1954年「ゴジラ」。1回限りの筈が大ヒットで、70年も続くことになるとは。
 日本の怪獣は、ゴジラ以外にも作られ、SF大会星雲賞を得た作品も度々ある。実写特撮以外にも小説、マンガでも作られた。日本SFの顔とも言えるだろう。
 ゴジラ同様、長年続いて半世紀を超えているウルトラシリーズ。CGを導入して、昔は考えられなかったシーンを撮り、一定の御約束がありつつ、新しいドラマを入れている。
 最近は、夏から冬に半年間放送してから、総集編などで半年休み、続いて新作を作るサイクルが2013年から続いている。
 昨年の「ウルトラマンブレーザー」は、初心に戻っていたが面白かった。
 7月から『ウルトラマンアーク』と言う作品が始まる。TV放送後、YOUTUBEで1週間位視聴可。アニメのウルトラマン新作も公開間近。
 アニメと言えば、4月から始まった「怪獣8号」が注目。松本直也のマンガが原作。
 怪獣発生が平然と起きる現実と似た世界で、防衛隊が戦っている。
 主人公の日比野カフカはかつて防衛隊に憧れていたが、現在は怪獣死体処理に就いている。カフカは防衛隊就任の機会を得るが、彼の身体は怪獣に侵されていた。画はシリアスとギャグが混同しており飽きさせない。
(假面特攻隊と言う東京の同人誌イベントによく出店しているサークルで、特撮の原稿を書いています)

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No.513(Web版163号)1

 はるこん2024アフターレポート

 by渡辺 ユリア

 2024年4月20日〜21日まで、川崎市国際交流センターで開かれました。ゲスト・オブ・オナーはメアリ・ロビネット・コワル氏と麻宮騎亜氏。海外GoHは久しぶりに来日しての参加です。コワル氏は、作家であるだけでなく、声優でもあり、人形遣いでもあります。「宇宙へ」でヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞の三冠を達成。外に「火星へ」「無常の月」「ミス・エルズワースと不機嫌な隣人」(いずれも早川書房)が翻訳されています。
 オープニングの後のGoHウェルカム インタビューで、氏の声を聞きましたが、明るい声で素敵なお声でした。ゆっくりとお話しされていて、インタビューの方の質問にも、明るく答えてみえました。麻宮氏は少し前に眼の手術をされて、まだ回復されてなく、物が見えずらいとの事。少し時間がたてば見える、との事でした。
 私の参加した分科会は14時からの逆ダボス会議でした。作家さんたちが “どうやったら人類は滅亡するのか” というテーマでディスカッションしました。けっこう白熱してました。では、この辺で。
                    yullia 2024 5.19

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No.512(Web版162号)4

 リニアの事

 加藤弘一

初めてリニア新幹線の事を知ったのは70年の大阪万国博覧会の日本館の展示会場だったのだが、プラレール新幹線モドキが走っているジオラマで、磁力で浮いて走る未来の新幹線と謳っていた思い出がある。
11歳の頃の思い出でありその後、父とアメリカ館やらソ連館やらに並んでヘトヘトになってしまったのでよくは覚えていない。
それからというよりはもう遅すぎる感がある。
中国からのコロナ災害を受け、直接会って面談すると言うコミュニケーション手段が、モニターによる商談、在宅勤務などに変化している現在では、わざわざ移動する必要は激減した。
電力も新幹線の4倍必要とされているが果たして、採算が採れるのであろうか?
さらに問題はリニアのコースである。
山梨県から長野県を通る途中、静岡県の南アルプスを横切るトンネルコースになっている。
そこは、静岡県の人口の2割程の水源となっている大井川の源流である。
過去の時代、人類の成長と進歩を謳い自然を切り開き工業を発展させ、様々な公害を産み出し、被害者に国と企業は莫大な賠償金を支払い反省したはずである。
しかし、JR東海と言う企業は何も学んでいないようである。
水源とされる所にトンネルを掘り、様々な機械設備を作り、消火剤等も用意すれば必ず人体に影響のある物質が出てくる。
更にトンネルが出来ると地下水脈が変わり、井戸水が出なくなったり温泉も枯渇するかもしれず、恐ろしい額の賠償金を支払わなければならなくなるかもしれない。
JR東海はそんな覚悟があるのだろうか。
静岡県の川勝氏が辞任するが、大井川水を汚染から守る為に頑張ってくれたと思う。
そして、JR東海が公害企業と言われないように頑張った人と将来言われるかも知れない。

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