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No.350 (Web版0号)5

「浅倉久志氏の逝去を悼む」

 川瀬 広保


 2月16日、朝日新聞の訃報欄に浅倉久志氏の名前を見つけて、愕然とした。
 つい先だっての柴野拓美氏の訃報に続いて、何ということだろう!
 東海SFの会とも昔から大きなつながりを持っていただいた。〈ルーナティック〉の創刊号から数号、浅倉久志訳の作品が載っている。
 書庫を探してみた。ルーナティックの創刊号が出てきた。そこではすでに、浅倉久志訳の「二十一世紀の夜明け」(ロバート・アバーナシイ)が出ている。この創刊号の後ろに、第一回アンケート発表が載っている。その浅倉さんのところを見ると、当時はまだ浜松市広沢町に住んでいたのだ。36歳とある。さらに見て行くと、すでに、氏の訳で「自由未来」が発売中とある。次に、2号を見ると、スペース・バー(お便り欄)に柴野拓美、野田宏一郎、筒井康隆らの名前が見え、タイム・パトロール(消息欄)には、浅倉久志長編翻訳第5作ポール・アンダースン「時の歩廊」が、同じく第6作ジャック・ヴァンス「大いなる惑星」が発表されたと出ている。4号は見当たらなくて、5号には「私のアンソロジー5」として、氏が登場している。そして、その号に翻訳家、浅倉久志氏、横浜転居のため、白柳さん宅で送別会と出ている。ついでに、その号に私の文が初めて登場している。いずれにしても、5号は昭和43年9月1日発行とあるから、もう42年も昔の懐かしい思い出だ。
 私にとって、浅倉久志さんはSF翻訳家のプロとして、あこがれの存在だった。
 その氏の横浜のお宅を訪問したことがある。まだ大学生だった時だ。そのころは、SFというジャンルは若かった。そのせいか、気安くファンもプロのところを訪ねたものだった。ずいぶん長い時間、おじゃました。自分の翻訳原稿を見ていただいたあと、食事までいただいて、帰宅した。それ以来、欠かさず年賀状もいただいてきた。
 2007年のワールドコン〈NIPPON 2007〉では、翻訳家のセミナーにも出席されていて、元気な姿を拝見した。終了後、久しぶりにお話しして、いっしょに写真にもおさまった。
「宇宙塵50周年記念パーテイ」でのあいさつの時も、お元気そうだった。まだまだご活躍されるものと思っていた。
 昨年の1月、自著を送ったところ、真っ先にお返事をいただいて、お元気そうに感じられた。
 今年の1月、いつもの年賀状の筆跡が違うのでちょっと、不審に思ったが、こんなに早く他界されるとは思っていなかった。まだ79歳だったという。
 浅倉さんは温厚で、とても謙虚な方だった。日本のSF翻訳界の巨人だった。私の書斎にはハヤカワ文庫や創元文庫などがたくさん並べてあるが、ちょっと手にしても必ずといっていいほど、そこには浅倉久志訳の本が出てくる。そうか、これも浅倉さんの訳だったのかということに気づく。
 いったいいつのことからだったろうかと、書斎を見てみると、ハヤカワSFシリーズで1965年に『重力の使命』が出ている。1967年には『時の歩廊』が出ている。昔、お宅を訪問した時、その『時の歩廊』をいただいた記憶がある。とにかく、300冊以上のSF等を訳された。翻訳出版は一貫して続いていた。コンベンションか何かで、お話しされていたのによると、「朝8時から、午後5時まで、いや最近は夜8時までビールを飲みながら仕事をしているよ」と自ら、おっしゃっていたように思いだす。デビューのころから、最近では2009年の『時の娘』『90億の神の御名』まで、翻訳書が出ない年はなかったように思う。その『90億の神の御名』には「夜明けの出会い」と「天の向こう側」が浅倉久志の新訳で出ている。特に、「天の向こう側」の中の「特別配達便」や「大きく息を吸って」などは、昔大学生だったころ、私自身がファンジンに拙い訳を載せたことがあるので、とりわけ楽しく、また懐かしい気持ちで読ませていただいた。
 浅倉さんのことについては、まだまだ簡単に言いつくせるものではない。
 柴野さんが日本SFを育てた「父」であるなら、浅倉さんはSF翻訳を多数残され、われわれに翻訳を通じて、SFの楽しさを教えてくれたSF翻訳の「巨人」であったことは間違いない。

 浅倉久志さん、たくさんの翻訳SFを読ませていただいて、ありがとうございました。実は、まだ、読んでないのもたくさんあるので、これからも楽しませていただきます。天国で柴野さんたちとSFについて、大いに語ってください。そして〈東海SFの会〉や〈ルーナティック〉〈PM〉も見守ってください。

 謹んで、ご冥福をお祈り申し上げます。

                         (2010年2月)

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