No.372 (Web版22号)2
SF essay(187回)
川瀬広保
電子書籍考
以前から、ほしいと思っていたソニーのリーダーをとうとう買った。
そして、リーダーズ・ストアからインターネットを通して何冊か購入してみた。
紙の本と電子書籍ではいろいろ差があることがわかった。
リーダーの良いところは、老眼の人には文字を大きくすることができるということだ。
最近の本はどういうわけか、表紙のタイトルやら著者名やら翻訳者名などの文字が小さい。
つまり、若い人にはその方が格好いいと思われるからだろう。
しかし、人間歳を取ってくると、誰しも老眼になり、細かい文字は読めない。そういう一点をとってみても、電子書籍はいいと思う。次によいことは、小さな器械に1400冊も「本」が入ってしまうということだ。だから、わざわざ書斎へ行って、探す必要がない。「吾輩は猫である」(上下)も「山椒魚戦争」も「宇宙戦争」も「タイムマシン」もみんな「一冊」の中にある。非常に便利だ。
だが。
だが、電子書籍をリーダーに入れてみて、「どうかな?」と思うことがいくつか出てきた。
1 本を読んでいる気がしない。
2 ディスプレイ上で文字を読んでいるだけだ。
3 好きなSFのタイトルは昔のものばかりだ。
4 早川書房のSFは見当たらない。創元文庫は昔のものがほんの少し。
5 著作権等の関係だろうが、年数がたって権利が切れたようなタイトルしか見当
たらない。その中でも、わずかだけ、紙の本と電子書籍の同時発売というもの
がある。
6 どういうわけか、電子書籍には著者あとがきとか、訳者あとがきが入れられて
いない。したがって、これはいったいどの「宇宙戦争」だろうと惑わされる。
紙の本も買い、電子書籍も買うという二重のことをやっていたりする。
書庫の2万冊の本が、ソニーのリーダーにすべて入ってしまえば、家の中はすっきりする。それでいいのかどうかは未知数だ。
これまでに、インターネットを通じて購入したのは以下の通り。
「宇宙船ビーグル号の冒険」「山椒魚戦争」「モロー博士の島」「人民は弱し官吏は強し」「きまぐれロボット」「日本沈没(上)(下)」「宇宙戦争」「きまぐれ星のメモ」「ドウエル教授の首」「タイム・マシン」「注文の多い料理店」「吾輩は猫である(上)(下)」「ストレスが自信に変わる本」
全部、紙の本としてすでに買って、読んだものばかりだ。結局、一番多くこの電子書籍でまた読んだのは、「吾輩は猫である」だった。
最新のリーダーズ・ストアからのメールによると、藤子・不二雄Aの「まんが道」などが電子書籍として、発売されるとのことだ。
たぶん私は、これから紙の本も買い、電子書籍も自分にとって興味のあるものが出たら買うだろう。
あれこれ言っても、時代は先へと進む。私の頭の中にひらめくのは、次の二作だ。ひとつは、ブラッドベリの「華氏451度」。もうひとつは、星新一のショートショート「景品」。
消防士の役割が、火事を消すのではなく、本を隠し持っている人の家から、本を見つけ出して、燃やして、消し去るという未来社会。
また、本というものが何かの景品でしか手に入らないというどちらも痛烈に未来社会を風刺した作品であった。
いつか「本」の未来は、この二作のようになるのだろうか。
(2012・4・20)
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