No.373 (Web版23号)2
SF essay (188回)
川瀬広保
世紀の天体ショー 金環日食を
ばっちり見た!!!
2012年5月に金環日食があるということを、2011年11月ごろに出た「2012年版 天文年鑑」で承知してから、これはぜひ見たいものだと思っていた。
2012年2月にある人に教えてもらって国際光器から太陽フィルターが発売されているということを知り、電話で発注した。電話の向こうの人は1ヶ月半待ってくださいと言った。もうすでに、混んでいたのだ。
4月の初めごろ、そろそろだと思ってまた電話してみた。
「もう来ています。すぐ送ります」と言う。
さっそく、2、3日後に送られてきた。
昔、部分日食を撮影したことがある。今の望遠鏡ではなく、昔のアストロ光学で出していた望遠鏡だ。対物レンズにどうやってフィルターを取りつけたか忘れた。たぶんどこかから取り寄せたフィルターをレンズの前に、自分で雑誌か何かで知った方法で取りつけたのだろう。部分日食を写すことができ、天文雑誌に送ったら、載せてくれた。
あれから、時代は進み、ND100000の着脱式の太陽フィルターを取りつけて、早速、太陽を写してみた。うまく黒点も写って一応、満足した。なぜ一応かはあとで詳述する。
さて、今回の金環日食は浜松でいながらにして見られる。932年ぶりだと言う。日本国内では25年ぶり。
私は衰えゆく体力を十分に感じながら、いろいろ準備した。
その準備の中で、気をつけたことがいくつかある。
まずひとつ。(順不同)
朝早く起きることが必要だ。日食が始まるのは6時17分ぐらいだから、5時に起きて準備しようか、それとも徹夜しようか迷った。徹夜は若いころならいいが、もう体にこたえる。考えたあげく、遅くても4時に起きようと思った。
二つ目。
日食グラスについて。
前回の部分日食のときに、苦労して買ってあったのがふたつある。そうこうしていたら、科学雑誌「ニュートン」が、購読会員あてに、日食グラス付きの臨時特集号を発売するという封書を寄こしたので、すぐにファックスで注文した。さらに、近付いてくると、天文雑誌「天文ガイド」でも日食グラス付きの号を出した。あれこれで、日食グラスは6枚ぐらい手元にあった。
さらに毎日のように、テレビなどで観測の注意を言うようになった。
いわく、
必ず、日食グラスを使うように。
日食グラスを使っても、目を休めながらにすること。
グラスを目に当てがって、下を向いてから、太陽の方を向くこと。
最後には、文部大臣まで「このように使いなさい」というやり方を見せて、それが新聞、テレビなどに載った。
それでも目をやられないように気を使った。
三つ目
そのくらいだから、さっきの太陽フィルターを対物レンズのフードの先から、万一でも落とさないように、前日になって、接着剤やテープなどを買いに行って、しっかりくっつけた。
四つ目
天気予報について
だんだん天気予報が気になりだした、近づいてくると、どう見ても当日の予報は曇りだった。非常に微妙で、当日の朝、7時くらいから9時くらいまでは晴れるという予報もあったし、NHKの予報では、浜名湖あたりが、雲の境目になっていた。
これだけは、準備できないことだから、運を天に任せることしかできない。十分、準備をして見られなかったのだったらもう仕方がない。天候で、写真撮影ができなかったのなら、あきらめられる。しかし、準備不足の失敗だったら、悔やまれる。
そこで、前回の失敗を思い出して、あれこれ準備した。
前回とは、皆既月食撮影のときである。カメラのバッテリーがあがってしまって、途中でシャッターを押せなくなったこと。SDカードの容量もいっぱいになってしまったこと。そこで、今回は入念にバッテリーを充電したり、予備のカードを買って置いたりした。
最後に
人間は、歳をとればとるほど、あれこれ気を使い、迷う。金環日食であろうが何であろうが、見られなかったら、まあいいや、と思うことができない。
932年ぶりだと言うし、無料のS席なのだ。高額の飛行機代やホテル代などを払って、外国へ日食撮影旅行へ行くわけではないのだ。曇っていても、途中で晴れるかもしれないではないか。前回の皆既月食もベタ雲だったのが、皆既のときには、不思議(?)なことに晴れたではないか。
たかが、天体ショーと言ってはいられなかった。
そんなこんなで、いざ、当日、3時30分に起きた。
すぐ、望遠鏡を外へ出す。カメラはもう取りつけてある。椅子もふたつ出す。ノートやペンも用意。日食グラスも。
だんだん明るくなってくる。空は一面の雲。しかも、厚い雲だ。テレビはだんだん、放送を開始して、今日の一大イベントである金環日食のことを言いだす。
道路を犬の散歩の人が行きかうようになる。カラスが遠くでカーカー言う。リスが電線を伝ってきた先に、雀がいて、雀は威嚇するが、リスには負けて飛び去っていく。
7時のNHKのニュースで日食が始まったことを伝え出す。画面には欠けた太陽が写し出される。
日本のどこかでは、もうみんな見ているのだと思いながら、金環の前一枚、金環一枚、その後一枚、いや金環が終わってからでもいいから、たった一枚だけでもいいから、日食の写真を写したいと思っていた。
そうしたら、7時12分ごろ、太陽が姿を現しだした!!
私はあわてて太陽を導入し、シャッター速度を決めようとする。200分の1秒に設定しておいたのだが、もっと遅い速度にしなければならないことがわかった。
近所の人たちも寄ってきた。
そこからは、もうやたらシャッターを切った。リモコンで何枚も撮影した。
時々、日食グラスでも見る。また、接眼レンズうぃ通しても。
ベイリービーズも写せたようだ。
金環はたったの5分間。
そこで、感じたことは、天体の運行のダイナミズム。
人間の思いには、関係なく計算通りの正確さで、太陽は月に隠され、また復元するということを事実で教えてくれた。1億5千万キロ向こうの太陽と38万キロ向こうの月が微妙なバランスで重なり、それをちっぽけな人間が日食グラスや望遠鏡で見ているということ。
陳腐ないい方だが「すごい!」「感動した!」
さて、先ほど述べたカメラにおさめられた写真。日食のたくさんの写真だが、パソコンに取り込んで、見てみると、ピントが甘い。この解消法は、天体撮影の専門家に教えてもらうと、いくつかの方法があるのだそうだ。
最近のデジカメや一眼レフカメラで、ただの風景や人物の写真を撮るだけなら、だれでもシャッターを押すだけでピントのあったすばらしい写真が撮れる。
ただ、天体写真となると経験と技術が必要だ。
このことをまた、知らされた。
よい写真が撮れるようになったら、また報告したい。
とにかく、世紀の天体ショー、932年ぶりの浜松にいながらの金環日食は幸せなことに無事、満喫することができた。
6月6日の金星の太陽面通過も楽しみにしている。
(2012・5・23)
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