No.379 (Web版29号)2
SF essey(194回)
川瀬広保
追悼 依光隆氏
皆さんは依光隆の名をご存じでしょう。
星新一や小松左京、アーサー・C・クラークといったSF作家の巨匠、また手塚治虫や藤子不二雄などの天才的漫画家はだれでも知っている有名人である。
私にとって、依光隆は彼ら同様、思い出多いSF挿絵画家である。
その依光隆の訃報を朝日新聞の夕刊でこの間、知ったとき、また一人のSF界のビッグ・ネームが没したと思った。残念でならない。
私にとって、氏の思い出はSFという呼称がまだなかった時代にさかのぼる。SFマガジンとの出会いは53号だが、その数年前にはもう「SF」があったのだ。
さらにそれ以前、たぶん私と同世代の方々は講談社や岩崎書店から出ていた「少年少女宇宙科学冒険全集」や「少年少女世界科学名作全集」を読みふけっていたことだろう。そのころは、今の人には信じられないだろうが、SFではなく「空想科学小説」という名前だったのだ。
ちなみに、手元にある講談社から出ていた「少年少女世界科学名作全集 全20巻」のラインナップを記してみよう。
1 金星のなぞ ムーア
2 宇宙探検220日 マルチノフ
3 少年火星探検隊 イーラム
4 宇宙船ガリレオ号 ハインライン
5 ハンス月世界へいく ガイル
6 海底五万マイル アダモフ
7 土星の宇宙船 ハラン
8 地底王国 カーター
9 赤い惑星の少年 ハインライン
10 第十番惑星 ベリャーエフ
11 緑の宇宙人 ザレム
12 星雲からきた少年 ジョーンズ
13 なぞのロボット星 カポン
14 光速ロケットの秘密 ダレス
15 第二の地球へ レッサー
16 水星基地のなぞ フレンス
17 星の征服者 ボバ
18 なぞの惑星 ライト
19 月航路 カザンツエフ
20 宇宙への門 ベルナ
これらのすべてを読んだわけではない。今、見ている「光速ロケットの秘密」の最終ページには、もう今となっては詳細は思い出せないが私なりに○や△や×で評価してある。おそらく書店に全巻そろっていたわけではなく、たまたま乏しい小遣いを握りしめて赴いた谷島屋または文泉堂(もう今は存在していない!)の棚にあった面白そうなタイトルを買ってきたのだろう。
いや、三省堂にあったのに◎がしてあった。三省堂ももう浜松市には存在していない。
◎のいくつかが、「光速ロケットの秘密」「星の征服者」「宇宙探検220日」である。
もう本の小口は赤茶けてしまい、時の経過は隠しようもないが、私には捨てることなど考えもしない、いとおしい、昔懐かしい本である。
岩崎書店から出ていたものにも懐かしい思い出が詰まっている。こちらは第一期と第二期合わせて、24巻。思い出多いタイトルを三つだけ記してみよう。
「火星救助隊」(ムーア)、「地球のさいご」(ジョーンズ)、「凍った宇宙」(ムーア)。
ああ、何という良い時代だったことか!!
エクスクラスメーションをいくつくっつけても足りないほどだ。
私の小中学生のころの「SF」への原点だ。
それらの多くの本の表紙絵や挿絵を描いていたのが、依光隆さんであった。
私は、小説の中身はもとより氏の描く数々の絵に魅せられた。
氏の絵が大好きだった。そこには主人公たちの少年や少女、学者や博士、宇宙船操縦士らがいた。少年は聡明で明るく、少女はかわいらしく、大人たちは思慮深く威厳のある顔立ちをしていた。
もし、まったく絵のない文字だけの本だったら、いくら内容が傑作でも、もしかしたら読まなかったかもしれないし、後に一生続くSFファンにはならなかったかもしれない。そこには私という人格を育成する大切なものがあったのだ。
人はいろいろなものに影響を受けて成長する。ある人にとって、それは書物である。12歳の少年はほとんど間違いなく、宇宙や星や未来や宇宙船などといったものに強い興味を抱く。私も同様であった。そこには胸躍る冒険があり、主人公の少年少女たちの生き生きとした息吹きがあった。その物語を目に見えるように描いてくれたのが、挿絵画家依光隆氏であった。
もうひとつ忘れてはいけないのが、いやこちらのほうを真っ先に書かなければいけないのが、日本人「空想科学小説」作家、瀬川昌男の「白鳥座61番星」である。諸外国の作家に負けず劣らず胸躍る、夢多いこの作品を読んだのは私が小6のころである。
甘く、なつかしく少年のころの思い出がよみがえる。感傷的に言えば、そのころの自分がいとおしい。
そして、そこにも挿絵画家、依光隆の名前は私にとって、物語の作者同様、またはそれ以上に光り輝いていて、素晴らしいものであった。
幼いころに出会った本や音楽や絵などを、今の子どもたちも大事にしてもらいたい。
依光隆さんの心からのご冥福をお祈りします。
(2013・1・6)
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