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No.379 (Web版29号)1

 SF essay (193回)

 川瀬広保

 SFファンは天文ファンか、そして猫好きか?

 私の場合、天文への興味が高じて、SFファンになった。初めての本で見た土星の絵(または写真)に魅せられて、本物の土星をボール紙製の学習望遠鏡で見たときの感激は忘れられない。同じような経験は多くの人にあるらしい。あのクラークも短編「土星の出」で書かれている。自分自身の経験だろうことはよくわかる。
 最近、浜松市天文台でボランティアを始めたのだが、予想に反して幼稚園ぐらいの子どもが立派な天文の知識を持っていた。恒星の名前をよく知っていたりして、感心させられる。先だって、流星群の観望会のときなどは、小2でありながら、こちら以上にあれこれよく知っていたので大いに感心した。
 こういう子はいずれ、天文の専門家になるのだろうか。途中で、SFファンにもなるのであろうか。
 昔、火星を観測していた人はそこに見える模様を運河と思って、火星人がきっといるのだと空想を膨らめた。金星には金星人が、海王星には海王星人がいると設定して、小説が書かれた。木星の衛星、イオには活火山が存在しているということがわかって、想像力をかきたたせた。
 アメリカの探査機「キュリオシティ」は水の流れた跡を見つけたらしいという。そうすると、昔は火星人がいたのかもしれないと空想が膨らむ。
 望遠鏡で、月や惑星を見たことがきっかけでSFファンへと進む人は多いだろうと思う。月や惑星を見て、現実に観測を続ける人は、空想に走るより、天文学者になるかもしれない。カール・セイガンのような人もいたから、天文学者でありながら、SFも書くという人も多い。
 天文からSFへと移行する人が多くて、天体観測を毎日やっているような人は、そのうち新星や小惑星などを発見したりするのであろう。

 さて、次に、SFファンと猫好きについての考察をしてみよう。
 「小松左京マガジン」の裏表紙に毎回登場している猫は、小松左京が生前飼っていた猫で、もう何代目かになるそうである。ハインラインについては言うまでもなく、あの名作「夏への扉」の献辞を見れば、単なる猫好きではすまされない「猫好き」だったらしい。すべての猫好きへという献辞の原文はaerulophileという語が使われている。この語はもう病的に猫が好きな人という意味である。
 なぜ、こういう話を書こうとしたか。
 それは、我が家の庭にもう数ヶ月、野良猫が出没しているからである。
 それも普通の猫ではない。台風の日に、どうやらどこかで出産したらしく、まったくコピーのような白黒の子猫が2匹現れた。さらにもう1匹縞模様の子猫も来て、母猫が産んだのは3匹らしい。
 その母猫は警戒心が強くて、こちらがキャットフードを持って、
 「こんにちは。久しぶりだねえ。元気?おなかすいてる?」
などと、話しかけながら、近づいていくと、ひげを震わせて、まず「フー!」という。さらにもう一歩、近づくと、「シャー!」という。
 こちらは、aerulophileだから、さらに、もう一歩近づこうとすると、「バシ!」とか「バン!」という。
 猫の威嚇音の「フー!」や「シャー!」は聞いたことがあるが、「バシ!」や「バン!」は聞いたことがないので、娘に言うと、笑って「まさか!」と言われてしまう。
 まるで、「もうそれ以上近寄るな!!」と言っているのに、「まだわからないのか!!!」と言わんばかりの威嚇である。 
 そんな状態がもう数ヶ月続いている。
 猫は、そこにいる人間が持っているキャットフードがほしいのである。こちらが、そんなに警戒しなくてもいいんだよと思っていても、皿に入れたフードを一口、口に銜えて逃げるようにして、食べている。
 私はそんな猫でもかわいいのだ。まさにaerulophileである。そこで何と猫ばかなんだろうと心の中で思っていても、スーパーで猫のフードを買う。ハインラインの『夏への扉』に出てくる登場猫と同名に名付けた自分の猫、アメリカン・カール(雄猫)のためのフードとは別に買ってきて、与えている。
 私の観察によると、世の中の8割の人は犬好きである。残りの2割が猫好きで、犬も猫もどちらも好きですという人は少ない。動物は好きではないという人はもっと少ない。いくら猫好きでも、警戒心が強すぎて、「バン!」(これは怖いですよ)と言ってくる若い猫(推定、人間の年齢に換算して20代?)でさえ、かわいいと思っている自分は、もしかしたら、間違いなくaerulophileであろう。

 今、こんな原稿を書いているとき、家猫、ピートがこっちをじーっと見ています。よその野良猫の話なんか書かないで、私と遊んでと言いたそうに。
 そこで、このへんで今回はやめておきましょう。私自身はSFファンと天文ファンをどちらも続けたい。

 来年は、天文現象としては3月にパンスターズ彗星がー3等、アイソン彗星は11月にー11等になって輝くだろうと予想されていて、彗星の一年になりそうです。
 SFとしては、「ルーナティック」30号記念号など、きっとまた話題の多い一年になるでしょう。
                  (2012・12・24)

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