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2013年8月

No.384 (Web版34号)1

SF essay(201回)

川瀬広保

五島勉『H・G・ウェルズの未来の記憶』

 五島勉と言えば、ノストラダムスの予言の本で超有名な人だ。
予言研究の第一人者である。
 1999年以前は、新刊が出るたびにすぐ買って読んでいた。
 これからどうなるのだろうとそれらの本に答えを見つけようとした。
 ところが、1999年7月がどうやら何事もなく無事に過ぎたようだと思われると、みんなの関心は急速に薄れていった。
 「ノストラダムスの予言なんか、当たらなかったじゃないか!」
 「結局、予言は予言でしかないんだ!」
 「当たらなくてよかったんだからいいではないか」
 等々。

 私は、五島氏の新刊は出ないものかとずっと気になっていた。
しかし、ついこの間、新聞の朝刊に氏の新刊広告を見つけた。
『H・G・ウェルズの未来の記憶』というタイトルである。
すぐに、書店に電話した。電話したところには在庫がないということだったので、他店から回してもらった。
 そして、手にしたこの本を読み始めると、もうそこには、氏のあの文体があった。
 この本の中にも書かれていたが、ノストラダムスの1999年の7の月の空から恐怖の大王が降ってくるという予言は当たっていたのだ。
 2年ずれて、2001年にツインタワーに航空機が激突するというテロがあった。
 予言など信じないという人もいるだろう。
 しかし、この世のわずかな人たちには何らかの特別な感覚で未来が見えていたのではないだろうか。

 今度はH・G・ウェルズである。それもほとんど知られていない後期の作品である。ウェルズはSFの元といわれるサイエンティフィック・フィクションの傑作を次々と生み出した。
 だれもが知っている「宇宙戦争」を始め、「タイムマシン」「透明人間」など、今あるSFで彼の影響を受けなかった人はいないと言っていいほどのアイディアの数々である。長編に限らず、短編もしかり。
 およそ考えられる限りのSF的アイディアを出しつくした。
それらを夢中になって読んだ。そして、今のSFの歴史が作られた。ヴェルヌと並んで、SFの祖と言われる所以である。
 ウェルズは世界国家を夢想していた。晩年はむしろ、初期の作品を書いたことを、悔いているようなふしがあったといわれている。
 残ったのは、初期のSF作品だけだったと言っていい。
 しかし、初期のそれらのSFのもとになったサイエンティフィック・フィクションを書き終えると、ウェルズは別のものを書き始めた。
 それが、今回取り上げられている “The shape of the things to come”などである。未読の人のために、ここに細部を書くのはアンフェアだと思うから、書かないが、これからも人類はいろいろな苦難に接していくのだそうだ。
 2059年に新たな局面が来るらしい。
それでもそれらの難関を乗り越えて、日本や日本人が中心となって明るい未来が開けてくるらしいというのが、この本の結論のようである。
 阿部知二氏とのやりとりが興味深い。
 阿部氏と言えば、H・G・ウェルズの翻訳で私もその名を知ったいた大物翻訳家である。その阿部氏と五島氏とのやりとりがあったということが、この本の中で語られている。

 H・G・ウェルズはもう過去の人で、その名を知る若い人は少なくなっているのかもしれない。しかし、私は昔、大学の卒論に彼を選んだ。
 たぶん、みなさんも同じだと思うが、SFファンへの入り口の多くが、『宇宙戦争』だったのではないだろうか。
 冒頭の文明批評的な出だしの文章が非常に印象的だった。また、『タイムマシン』の中の80万年後の地球のイメージやモーロック族とエロィ族に分かれてしまっている不気味な遠い地球のイメージは読むものに忘れられない印象を与えた。
 ウェルズは、100年に一度出るかどうかの文豪だったし、彼の頭脳には未来のイメージ、そうまさしく「未来の記憶」があったのだろう。
 この本を一読して、そう思った。
 ノストラダムスもエドガー・ケーシーも、そして今度のH・G・ウェルズもそうしたたぐいまれな能力・霊感を持っていたのだろう。

 それにしても、われわれは未来がどうなるのか、自分はどんな生涯を送るのか、日本や世界はどうなるのか、いつでも知りたくてしかたない。天気予報はかなりの確率で当たるようになってきているが、それでも竜巻の予測はできない。地震の予知も簡単にできることではない。
 明日、この世がどうなるかはだれもが気になるところだ。だからこそ、「予言」という二文字にはいつでも磁力のような魔力がある。
 SFは未来を作る。クラークの考えた宇宙エレベーターは近い将来、実現するだろうし、ファースト・コンタクトもいずれ起こるであろう。予言は今生きる人々の頭の中にあるのだ。普通の人には、見えないが能力のあった人には、未来が見えていたのだ。そう考えると、未来をよくするも悪くするも、今を生きる現在の人々の努力にかかわっているのだ。
 この本は、しばらくぶりに五島氏の健在を示している。
 2059年の後、さらにもう百年ぐらいのちに、大きな変化があるらしい。

 お勧めの一冊です。未読の方はぜひ、お読みください。

                (2013・6・9)

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