No.396 (Web版46号)1
SF essey(217回)
川瀬広保
「花子とアン」の面白さ他
SFの話でなくても、PMなら載せてくれるというのが、ファンジンのいいところだ。私の場合、SFや天文の話題以外にこのエッセイで「花子とアン」を取り上げるのは、有名な翻訳家の話だからでもあった。
NHKの朝の連ドラにはまったのは、「ゲゲゲの女房」以来だ。
もともと、この連ドラは、ヒロインすなわち若い女性の生き様を描いたものであり、60歳過ぎた男を描くものではない。なぜ、そういったものも作ってくれないのかと反感もあったから、私としては、久しぶりのはまりようだ。
その理由は以下のようなものに分類される。
「はな」と「花子」
AnnとAnneでは天地の差があるという矜持をもった「赤毛のアン」の主人公、アンの気持ちがこのドラマにも反映されていて、まず面白い。
eがつくだけで、気品が感じられるというわけだ。周造ではなくて、しゅうざえもんだとか。ちょうど、Clarkではなく、Clarkeとeがつくことによって、名前の持つ響きが違うというわけだ。ここでは、あくまでも花子にこだわる子ども時代からの主人公の気持ちが描かれている。いまどき、どこにも花子さんはいないのに、あのころは、はな、ではなく、花子の方がよかったというのだから、時代が変わったと言わざるをえない。
今は、子がつく女性名を探すのが難しい。
貧農と金持ち
徹底して、山梨の小作の貧農ぶりを描いている。藁草履づくり、麦飯、こえ桶を天秤棒でかつぐ10歳の子ども、赤ん坊を負ぶって、学校へ通うのが普通だった時代。しかし、家族愛はこの現代よりはるかに強かった。
一方、大地主や伯爵令嬢に描かれるのは、車で送ってこられる様子だとか、そのころ、寄宿舎で出されるのは週に一回の洋食など豪華な食事。
こういったことが、面白いように対比されている。
明治の英語教育
この時代から、小中一貫教育をやっていたのだ。親元を10年も離れて、寄宿舎でで過ごす。自立心がいやでも身につく。ブラックバーン校長が作った英語の50文は今でも役に立ちそうだ。また、English Speaking Dayは今でも、どこかの学校でやっているのではないだろうか。
尋常小学校
懐かしい尋常小学校。もちろん、私は経験も思い出もないが、そこに奉職するはなたち。学校は今でも同じだ。木造校舎でいろいろと古いが、やっていることは教育だ。修身の授業の様子が面白い。「苦あれば楽あり」など今、教えてもいいぐらいだ。
赤毛のアンとの対比
「赤毛のアン」のアンも孤児院からスタートしている。これ以上ないというぐらいの逆境から、アンは努力して、教師になり、作家にもなった。「赤毛のアン」の中に出てくるいろいろのエピソードがこの連ドラに反映されているので、それも楽しい。
役者の演技力
子役の「もちかちゃん」の演技力が光っている。「おっかあ役」や「おとう役」、「おじいやん役」など。また、「蓮子様」役の仲間由紀恵など主人公をとりまく人々のほうが、すばらしい演技をしている。
方言ー「ずら」言葉
標準語というより、「ごきげんよう」などに代表される上級社会の言葉。一方、方言は本当に面白い。この物語を標準語でやったら、面白さは半減いや、もっと下がるだろう。
方言を忘れた現代人は、寂しいものだ。もっとも、遠州では「〜じゃん」や「〜ら」は生きている。
サクセス・ストーリー
サクセス・ストーリーは見るもの、読むものを安心させる。
アシモフの「自伝」もサクセス・ストーリーだし、クラークもそうだ。水木しげるも同様。事件を起こして、転落した芸能人の場合はまったくその逆である。
村岡花子は有名人であり、成功した人物である。
英語
“The best is yet to be.” などよく知った英語のことわざが出てきて、勉強になる。はなは、どう訳しているのかなと思わざるをえない。
ブラックバーン校長の英語が聞き取れないと、何回も巻き戻してわかろうとする。
「ここにいたければ、英語を学びなさい」という校長の言葉。その時の「学ぶ」というのはlearnであり、studyではないなあなどと考えながら、見ている。
授業風景
授業風景は100年前も同じだ。机は古く、赤ん坊を背負ってくるのが当たり前だった時代と大きく、様変わりしているけれど、基本的なものは変わらない。教育目標や教務室(職員室)の予定黒板などに目が行ってしまう。
「おとう」の気持ち
忘れてはいけないのは「おとう」の気持ちだ。はなは「希望の光」だという言葉。
これは「おとう」しか言わないセリフである。「おとう」ははなが天才、いや神童かもしれないとずっと思っていたのだ。
子どもに夢を託すのはどの時代でも同じなのだ。
今後の展開は?
まだまだ続くこの物語。耳目を引くのは、演技力のはかに脚本、音楽、効果音などいろいろなものがあってのことだ。今のところ、毎日3〜4回見ている。話がNHKらしく、重くなりすぎないところもいい。
このドラマはまだまだ続く。どのような展開を見せるのか毎日楽しみにしている。
さて、ごく最近見たSF映画の一言感想も書いておこう。
「エンダーのゲーム」
よくわからない。これは、エンダーという名の子どもの成長物語なのか?オーソン・スコット・カートの原作を読んでいないのであれこれ言えないが、これは「敵」との戦争物語だ。アメリカ人はいつもそういうのが好きだなあと思ってしまう。バッタのエイリアンのために、主人公はもうひと肌脱ぐというラスト。
「ゼロ・グラビティ」
原題はただの “gravity”。
これは、最初からひと時も画面から目を離せない映画だ。宇宙空間に放り出された宇宙飛行士が極限状況に置かれた物語である。今、起こってもおかしくない。サバイバル映画。すごい映画だ。さすがアカデミー賞を何部門もとっただけのことはある。
「地球の上空600キロ、温度は摂氏125度からマイナス100度の間で変動する。音を伝えるものは何もない。気圧もない。酸素もない。宇宙で生命は存続できない。」というこの映画の冒頭部分の言葉が不気味に内容を暗示している。
この映画はおすすめです。思想や道徳はどこにもないけれども、ラストで地球に帰還した女性宇宙飛行士が台地に立つ場面を見ると、女性は強いと思わされます。
さて、まだ6月なのに真夏のような暑さですね。今後の気象もどうなるのか気になるところです。
(2014・6・19)
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