No.397 (Web版47号)1
SF essay (218回)
川瀬広保
「華氏451度 新訳版」
「SFマガジン創刊700号記念特大号」
「SFファンジン・データベースVer.1.4」
レイ・ブラッドベリの不朽の名作「華氏451度」の新訳版がとうとう出た。
伊藤典夫さんの訳である。最近、過去のSFの新訳版がいろいろと出ているが、この作品も50年ぶりの新訳である。
買って、まず読むのは訳者あとがきだ。
それによると、伊藤さんはこの作品を自分で訳したかったのだそうだ。また、献辞についての言及がなるほどと思われる。かつて、宇野利康訳で読んだ時も、この献辞の意味がよくわからなかったが、今度の伊藤氏の訳なら、なるほどと納得される。
原作は消防士が火事を消すのではなく、逆に本を燃やすという逆転の発想が、斬新で読むものをひきつけた。
「猿の惑星」では猿が地球を支配し、人間は猿に支配されているという発想、また、「超生命ヴァイトン」のように人間は実は他の生命の家畜だったという発想。
こういうところが、SFの醍醐味である。
SFでも映画でも原作が出てから、長年が過ぎるとリメーク版や新訳が出る。もとの作品は変わらなくても、翻訳者が変わると訳されたものは雰囲気が変わるものだ。時代が変わると言葉づかいも変わってくるので、大変である。
レイ・ブラッドベリの「華氏451度」のような名作は、これからもずっと読まれ続けるべきだ。そのためには、このような新訳が発行されることはとても意義深い。
SFマガジンが700号を迎えた。
この分厚い、2900円もする創刊700号記念特大号は、SFマガジンのアーカイブである。私は53号からの読者だから、それ以前の号に載っていた作品や記事には大いに興味があった。
たとえば、矢野徹の「SF赤げっと」、〈特別レポート〉「第一回日本SF大会」など冒頭の50ページあたりまでのごく初期の記事は大変貴重だ。
SFマガジンは日本のSFの歴史そのものである。「宇宙塵」と同じく、この一冊の特大号は日本にSFを根付かせたSFマガジンという雑誌の60年近くの歴史である。
「宇宙塵」については「柴野拓美SF評論集」という記念すべき一冊が出たばかりであるが、SFマガジン創刊700号記念特大号もずっしりと重みのある、忘れてはいけない号である。先人たちがいかに努力したか、どんな作品を書いたのかずっと保存しておかなくてはいけない。
さて、この原稿を書き終えようと思っていた日、森東作さんから「SFファンジン・データベース」Ver.1.4が送られてきた。
さっそく、自分の書いた「SFエッセイ」を検索してみた。ずっと昔に書いたものもちゃんと記録されていてありがたい。SFファンジンの構築というような活動は、地道だが、大変貴重である。このような活動をする人がいるからこそ、SFやSFファンダムの歴史が作られていくのである。
森さん、ありがとうございました。これからもご活躍ください。
さて、猛暑の日々が続く。この原稿を書いている今、東海の最高気温は38度になると報じられている。熱中症にならないように、家にひきこもっている。次から次へと事件や事故が起こっている。気をつけないといけないことが多い。
(2014・7・25)
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