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No.398 (Web版48号)2

追悼 亀沢邦夫

ワープロ恩人のカメザワさん

林 久之

 つくばのSF大会で、亀澤さんのこと初めて聞きました。去年倒れたことも知らなかった。
 なんで情報来なかったのかなあ。
 うちは静岡新聞とってなかったし、お通夜の時間には、引佐・伊平の長興寺で、面装束を着けて暑さにふらふらしながら「羽衣」を舞ってました。

 おおげさに言えば、亀澤さんがいなければ今の自分はいなかったと思う。
 彼の面識を得たのは、はまなこん2のときだったと記憶している。
 ワード・プロセッサなるものが発明されたと聞いても、じぶんにはとても使いこなせないだろうと、漠然と思っていたのだが、「中国SF資料」を出したいと言ったとたんに、それじゃワープロ覚えなきゃ、うちで練習して、と半ば強引に誘われて、片道20キロの道を森町まで毎週通う仕儀となった。
 最初はご多聞にもれずキーボードの上を指がうろうろ、目はグリーンディスプレイと手元と原稿の間をさまよい、パナソニック製のそのワープロが二百 万もすると聞いてはさらに手の震えもひとしお、なんでも最初に発売された東芝製は六百万もしたので、これでもずいぶん安くなってやっとパーソナルで使える値段になったと聞かされたものだった。

 システムの起動にしても今じゃ骨董店にもない五インチのフロッピーディスクをガチャガチャと読み込んで、これも八インチより進化したものだと聞かされ、自分の知らないところでテクノロジーは進化してるんだと実感したものでした。
 それがキーボード中毒になるまではアッという間のこと、北京に出張したときも、今はなきPCー6601を無理して持ち込み、それはなぜかといえば、ワープロソフトの「ユーカラ」が標準でついてきたから。
 一時帰国の際には東芝ルポの専用機を購入、あちらでも原稿を書くようになった。帰国後はさらにディスプレイの改良されたものに買い替え、まもなく買い替えがもったいないと感じてPC用ソフトの一太郎、自分用にエプソンPC286を買ってからは「松」を使うようになり、付属の辞書である「松茸」は定年退職まで使い続けていた。
 それもこれも、みんな亀澤さんのおかげだったのです。
 で、ワープロ遍歴の合間に彼の書いたモノを読んでは、理系人間が文章力をみがくとここまで進化するものかと大いに拍案驚奇、賛嘆これ久しくすることもしばしば。星群に発表の短編も、ルパン三世のノベライゼーションも、スペース・シークレット・サービスの連作も書いた本人が極度の方向オンチだとは信じられないほど面白くて、作者が知人であることなど忘れて楽しんだものだった。
 惜しむらくはもう少し早く、活字メディアが衰退する前にデビューしていたらと、それが残念でならない。
 SFと関わっていないときの彼は町の電器屋さんで、そちらのつきあいも色々あった。帰国後二つ目に転勤した先が、彼の母校である県立森高校、カメザワデンキの目と鼻の先だったし、退職後自治体の厄、いや役をやっていたときはワイヤレスアンプや洗濯機を納入してもらったことも。そのときに本人も認めていたとおり、ずいぶん変貌していて、成人病対策でダイエットしたせいだったらしい。ほかにもPCや通信のトラブルが起きるたびに連絡して飛んできてもらったし、都合がつかないときは弟さんがきてくれたこともあった。いまでもPCにはあまり詳しくないので、また何かあったら電話しようとは思っていたのだけれど、去年倒れたままだったとは。
 WindowsがXPから7に変わるときも、よっぽど問い合わせようかと思ったのに、電話しないで済んだのは幸か不幸か。
 こちらもそろそろ脳の機能が怪しくなってきたことだし、彼が亡くなったことを忘れて電話してしまうかも知れない。そうすると、この世にいないはずの彼が電話口に出て用件を聞いてくれたりして……というのは彼の書きそうな話だな。そのあと、どう展開したらいいのか、思いつかないけれど。

 ついつい思い出話を長々と書いてしまいました。下書きなしの雑文ですが、PMに掲載できるようでしたら、適宜編集して掲載してくださっても結構。題は「ワープロ恩人のカメザワさん」とでもしたらいいかな。
そんなわけで年寄りの長話、失礼いたしました。

 編集を後輩に譲った「中国SF資料」もこの夏には10号が出ました。そのうちお送りしますので、目を通していただければさいわいです。

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