No.409 (Web版59号)2
SF essay (229回)
川瀬広保
五島勉『ヒトラーの終末予言』
五島勉氏の新書『ヒトラーの終末予言』が出たので、迷わずすぐ購入した。新書と言っても、過去に出した本に前後をプラスした復刊である。プロローグとエピローグをつけて、今の日本や世界の状況がいかに当時の予言に合ってきているかを考えさせてくれる。
前著はウェルズについてだったが、今度はヒトラーについての再考である。予言についての第一人者である五島氏の本はほとんど読んできた。これからの世界はどんどん二極化が進むというのが、本当によく当たっていると思う。富めるものはますます富み、貧するものはますます貧する。この部分だけでも、本当にそうだと思う。
今、『老人漂流社会』とか『老後破産』といった本がベストセラーになっている。国民の四人に一人が高齢者だと言われる。その高齢者たちは行き場がなくて、世の中を漂流している。暑くて、熱中症になりそうな時期は、ただで入れる図書館とか、スーパーなどにほとんど一日中いたりする。一方、おやじ狩りと言われる事件が相変わらず、起こっている。70歳代のお年寄りが被害にあっているのだ。
何という世の中になってしまったことだろう。また、世界の富裕層はいくらでもお金があり、信じられないような豊かな生活をしている。こうした二極化がますます進むのだと著者は早くから述べていた。氏の本は、いつでも一流の文明批評にもなっていた。この本もそうである。
われわれは、未来がどうなるのか知りたがる。自分の未来を知るのが怖くても、やはり知りたいし、ましてや世界がどうなっていくのかという大きな予言はいつでも知的好奇心を呼び覚ましてくれる。
人間から、好奇心を取り上げてしまったら、ウェルズのエロイ族のようになってしまうだろう。
2039年というのは、ヒトラーにとってもう確実に起こる決まった未来だったらしい。
ノストラダムス、ウェルズ、ヒトラーなど、人類史上に残る大人物には、未来を見据える目があったのだろう。今回、アーサー・C・クラークの名前が出てきたのが、私にとって興味をひいた。クラークの『幼年期の終り』に触れられていたからである。このSFでは、オーバーロードが人類を支配し、そのオーバーロードもさらに上にいるオーバーマインドによって操られているのだ。こうして考えてくると、ヒトラーの予言も五島勉の読みも当たっているのだと思わされる。
二極化が進んで、どうしようもなくなってしまう未来を救えるのは、「超人」や「神人」らしい。
なぜ二極化が進むのだろう。人間の心だけでなく、天候もそうである。今年の天候は予測がつかない。東京で猛暑日がその記録を更新したというニュースが続いた。暑いか寒いかのどちらかで、ちょうどいいというのがない。台風も二つ玉など、過去にない勢力のものが襲ってきている。人心もますますおかしくなり、毎日のようにおかしな事件・事故が起こっている。テレビのコメンテーターも、信じられないことですねと言うばかりでどうしてこうなってしまったのか、明確な解答を与えてくれる人はほとんどいない。
予言のように社会が進むとすれば、賢い人間はますます賢くなり、バカなことをやって一時的に面白がられてもすぐ消えていく人と、大きな埋められない差のある世界になっていくのだろう。世界も日本も極端に走る人ばかりになる。テロは横行し、犯人は捕まらない。日本でも、なぜこうした事件が起こるのかと首をかしげるばかりで、事の本質にまでは行かない。
いろいろと考えさせられる好著である。
氏のファンに限らず、大方の読書人におすすめの一冊です。
さて、こんなことを書いているが、来週はまた台風が二つ、日本を来襲しそうである。凶悪な事件も解決しそうにない。過ぎてみれば、1999年には何もなかっただとか、1984年はもう過去のことになったなどとあれこれ批評はできるが、未来は、やはりわれわれひとりひとりの心の中にあるようだ。
さて、この原稿を書き終えるころ、森東作さんから、「SFファンジン・データベースVER・1・5」が送られてきた。さっそく、あれこれ見ているのだが、その緻密なデータ構築ぶりには感心の域を超えるものがある。
「ルーナティック」も「純桃」も「テラ」もみんな載っています。
森さん、ありがとうございました。
(2015・8・25)
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