No.412 (Web版62号)2
HANSHICHI
中嶋康年
名古屋の「ちいなこん」で手に入れたということで、新村さんから送っていただいた岡本綺堂「半七捕物帳」のスペイン語訳版を紹介する。2012年スペインで発行されたもので、マリロ・ロドリゲス・デル・アリサル(Mariló Rodríguez del Alisal)、フジムラ・ユウコ共訳。「半七 ー日本のサムライ探偵ー(HANSHICHI Un detective en el Japón de los samuráis)である。扉には「親愛なるモトコへ 心をこめてあなたのご幸運を祈ります。 マリロ 2013/10/3」(Querida Motoko Te deseo mucha suerte contodo mi cariño. Mariló 3.X.2013)とのサインがある。どこかのモトコさんが訳者から献本をされたのだが、「いらない」とかいって横流ししたものと推測される。
発行当時、そこそこ話題になったらしく、スペインのどこかのサイトで紹介記事を見たことがある。調べてみると、続編として、2014年に「半七の新しい冒険」(Las nuevas aventuras de HANSHICHI)が出ている。「発音の注意」として、名前は日本風に苗字・名前の順に表記してあること、「将軍」などの伸ばす音はshôgunのように山形記号をつけた文字を使用していること、Hは発音すること、j、sh、zは英語風に読むこと、ge、giはゲ、ギと読むことなど約1ページを費やしての注釈も載っている。
また、初めて日本の時代物に接する西洋人に対しては当然のことながら、こと細かな日本の風習、言葉の解説などの脚注をほとんど毎ページにつけているのも、ご苦労がしのばれる。
岡本綺堂という名前は知っていても、「半七捕物帳」は読んだことがなかった。見返しの解説によると、綺堂の父は下級武士だったが、明治維新後に英国公使館に就職、息子に若いころから英語を学ばせた。のちに新聞記者として演劇理論などを書きながら歌舞伎作家になることを夢見ていたが、ついに念願の歌舞伎作家になり、成功を遂げる。しかし、彼の名が最も知られるようになったのは、ある日偶然手にしたシャーロック・ホームズを原語で読み、感動して書き始めたこのシリーズだった。
収録作は、「お文の魂」「石灯籠」「勘平の死」「半鐘の怪」「奥女中」「春の雪解け」「朝顔屋敷」「猫騒動」「山祝いの夜」「鷹のゆくえ」の10作。
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