No.414 (Web版64号)2
SF essay(233回)
川瀬広保
水木しげる逝去
水木しげるの死去の報に接した。11月30日、テレビを見ていたら、速報が流れた。93歳だったという。水木しげるの名前は昔から知っていたが、NHKの朝の連ドラ「ゲゲゲの女房」を見始めてから、漫画を集めた。
朝日新聞の訃報ニュースの取り扱いは大きかった。第一面に大きく出ていたし、社会面にも大きく出ていた。星新一のときは、第一面に出たが、今回ほどではなかったし、小松左京の時は、社会面だけだったし、クラークの時も、社会面だけだった。いかに水木しげるの漫画と水木しげる自身が愛されていたかがわかる。NHKほかのテレビメディアも大きく取り扱っていた。
われわれ目に見えるこの世に生きている人間が、何かうまくいかないことが多い。そうしたときに、目に見えないものの代表である妖怪などが、われわれに関わっているのだという考え方に、思わず興味を持ってしまう。この世は目に見えるものだけで成り立っているわけではないということは、歳をとるとみんな思うことだが、やはり、目に見えて初めて信じる。ニュートリノも目には見えないし、ウィルスも見えない。木星の衛星も肉眼では見えない。ましてや、霊や魂や心は見えない。愛も友情も見えない。しかし、目に見えないものがあると思わなければ、説明できないようなことが多いのではないだろうか。そんな分野に光を当てて、水木しげるは膨大な漫画を描き続けたのだろうと思っている。水木しげるの幸福の7か条というのがあって、その中に、「目に見えないものを信じる」というのがあるそうだ。
妖怪というこの科学の時代に受け入れられないようなものを、テーマにして描き続けたのだ。目に見えないものこそ、大事にしていかなければいけない。
私は漫画家としては、手塚治虫、藤子・F・不二雄、藤子不二雄Aが好きだが、水木しげるの漫画も好きだ。藤子不二雄Aは、ニュースによると、歳のせいか、休筆するという。漫画家には、定年がない。そんな中にあって、長く現役漫画家として活躍された水木しげる氏のご冥福を祈りたい。
さて、はやぶさ2が地球に最接近して、スイングバイ航法でまた、小惑星「竜宮」をめざす。
探査機「あかつき」は金星の軌道についに投入できた。最初の失敗から、5年をかけての成功である。日本人の粘り強さが評価される。ノーベル賞の二氏も素晴らしい受賞内容だ。
特に、大村教授のあくまでも謙遜した言動・行動にひかれた。80歳なのだが、「とりあえず81歳まで生きたい」とか、異例の「ノーベルの墓参り」をしたいと言い、墓参をしてきたとか、賞は「微生物にあげたらいい」などの言葉が印象に残っている。
もう、今年も終わりだ。いったいこの一年何をしてきたのだろうと自問している。今年は、気候が極端におかしかったし、テロが横行した。貧困の差は明らかだ。それらはまだまだ続くだろう。
新聞やテレビを毎日見ていると、現実に引き戻される。明るく、楽しい未来を描くSFは現れないのだろうか。
(2015・12・25)
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