No.421 (Web版71号)2
SF essay(240回)
川瀬広保
テレビは、東京都知事にだれがなるかの話題で持ちきりだ。誰になっても毎日、新知事を追いかける。リオ・オリンピックは勝ち負けそのものよりも、リオの治安の悪さの方が気になる。金、銀、銅の受賞者が脚光を浴びるが、途中で転倒したり、まさかの敗退などの選手や家族とのつながりとの話題にも大いに心動かされる。
今年の猛暑も大変だ。天皇陛下の生前退位のことは、ふつうわれわれは考えていない。平成の時代が変わるかもしれないのだ。
さて、「輝く」という語から、連想するのは、まず太陽、一等星以上の恒星、シリウス、デネブ、ベガ、アルタイルなど。惑星は自ら、光を発していないが、土星や木星、金星は堂々と輝いている。流星も一瞬だが輝く。
どうしても、人間と置き換えて考えてしまう。メダルを取れたオリンピックの選手は輝いている。ほんのわずかな差で取れなかった選手に笑顔はない。
しかし、この宇宙は暗黒物質—ダークマターが8割(?)ぐらいだそうだ。ほとんどが輝いていないのだ。
そう思うと、「女性が輝く」「一億総活躍」というキャッチフレーズがいかにスローガンにしか過ぎないものであるということがよくわかる。
さて、以下、SFマガジンに送った「てれぽーと」欄の原文を掲載します。
SFマガジン8月号に、〈ハヤカワ・SF・シリーズ総解説〉が掲載されました。さっそく最初からそれらのタイトルを眺めていると、実に懐かしい思いがよみがえってきます。
私のSFへの原点は、手塚治虫の「鉄腕アトム」や天文への興味にさかのぼります。そのころ、SFという呼称はありませんでしたが、その後、「SFファン」になったのは、SFマガジン53号がきっかけです。その53号に、〈ハヤカワ・SF・シリーズ〉の広告が載っており、それで初めて、このシリーズの存在を知りました。もうすでにいろいろな作品が出版されていたことを知ったり、また新刊予告を見ていよいよ発売になるとすぐに買いにいったものです。そのころは確か、毎週木曜日が発売日でした。
私の場合、最初に買って読んだのが確か「超生命ヴァイトン」でした。こんなアイディアもあったのかと衝撃を受けました。その後、次から次へと新しいタイトルが出ましたし、すでに既刊のものにも魅力的なタイトルが並んでいました。
今回、このシリーズがこの一冊にまとめられています。実に圧巻です。
SFは想像力の物語だから、何十年たっても色あせることのないアイディアも多いと思います。
最近、SFという呼称が浸透化して、ごく普通に使われるようになっていますが、そのころのこのシリーズは、銀背にSFというロゴマークが魅力的で、また表紙も抽象画が多く、箱に入っていたことも格好よいものでした。SFというアルファベット二文字がとにかく魅力的で、どんなアイディアで、また想像力に富んだ物語が展開されるのだろうと、タイトルを見ただけでもワクワクしました。60年を過ぎてもそのワクワク感は、伝わってくるし、消えることはありません。
前回、〈ハヤカワ文庫SF総解説2000〉が出版されましたが、私にとってはこの〈ハヤカワ・SF・シリーズ総解説〉の方が、より懐かしさとある種の郷愁を感じます。
あえて、いくつかの思い出深いタイトルを列挙してみますと、先ほどの「超生命ヴァイトン」を初め、「幼年期の終り」「影が重なるとき」「盗まれた街」など、もうすでに古くなって書斎に眠っているはずの原本があっても懐かしさでいっぱいです。
さて、この総解説は資料としても大いに役に立つし、眺めているだけでも実に楽しいものです。これからも、このような資料的価値のある企画をぜひお願いします。
気がつけば、もう8月も終わりつつある。猛暑はまだまだ続く。リオ・オリンピックが終わった瞬間に、東京オリンピックへの期待がふくらみ、その話題が、テレビや新聞などにあふれている。
スポーツを通じて世界が平和になるなら、それはいいことだ。
(2016・8・25)
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