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No.422 (Web版72号)3

SF essay(241回)

川瀬広保

「レミングとの対話」再読

 今年は、台風が来ないと思っていたら、ここにきて、連続して次々にきている。50年に一度という見出しにも驚かなくなった。
 東北の方から上陸してみたり、停滞して回れ右してみたりと変幻自在だ。

 さて、最近のSFの新刊のタイトルを見ていると、かつての再販や新訳が多いように思う。かつては、SFの想像力の極みを行く作品が多かったように思う。優れたSFは、アイディアだけでなく、ぐいぐいと引き込まれるような文章力、登場人物の魅力的なキャラクターがなくてはいけない。

 現代は、SF以上にどうなるかわからない混沌とした時代なのかもしれない。想像力よりも、現実そのものがSFみたいなものかもしれない。技術は限りなく発達しても、われわれの心を動かす異常な事件が毎日のように起こる。治安の悪いリオデジャネイロでのオリンピックが何とか大きな事件はなく終わったと思ったら、今度はニューヨークでの爆発事件が起きた。枚挙にいとまがない。

 もうSFのアイディアは出尽くしたのだろうか。所詮、人間が想像することだから、限界があるのだろうが。それでもまだまだ奇想天外な想像力を楽しみたい。星新一はアイディアを得て、書き始める前に、あれこれと独自のルーティーンをやったと本人が書いていた。「目薬を点し、歯磨きをし〜」などと語っていた。想像力を楽しみのはいいことだ。
 毎日のように、殺人事件が起こったり、いかにして人のものを搾取するしか考えていないような事件が起こっている。人間がみんなおかしな方向へ行っているのではないだろうか。
 星新一の「殉教」を思い出す。「死」をなんとも思わなくなる世界をあらわしていて、傑作だった。
 また、レミングの集団自殺行為をテーマとしたジェイムズ・サーバーの「レミングとの対話」が収められたサンリオSF文庫の「ベストSF1」をやっと書斎から見つけ出して、30年以上も前に出版されたこのわずか二ページ程度の小品を再読してみた。
 レミングが人間の性質をあげつらっているところを30年以上ぶりにやっとはっきりさせることができたようだ。

 人間と言うのはと、m,d,c,sで始まる語を使って、レミングが人間をあげつらうところが面白くてずっと印象に残っていた。
 訳文のルビをもとに調べてみた。人間というのは、残虐で、有害で、悪辣で、適応不良で、うすのろで、冷酷で、狡猾で、肉食性で、陰険で、利己的で、貪欲である。(伊藤典夫訳)
 スペルがわからなかったので、すべてではないが、辞書で調べてみた。
murderous,maleficent,malicious,maladjusted,muffle-headed,distasteful,cruel,cunning,carnivorous,sly,selfish,greedyだというわけだ。
 この傑作の最後は、「なぜ、人間は集団自殺しないんだい?」というようなレミングの返事で終わっている。
 まるで、このラストのように、人類はそのうち、自滅していくのではないだろうか。または、ウェルズの「宇宙戦争」の冒頭のように、日常の些事にあくせくしているうちに、火星人が微生物を顕微鏡で見ていて、そこにうごめくおろかな人類は、宇宙人に攻められて破滅するのではないだろうか。
 日本では常に、政治面でももめごとは多いし、世界でもまとまらない。そうこうしているうちに、何か大きな力が働いて、地球滅亡などということになるのではないだろうか。
 そうならない保証はどこにもない。

 さて、もうまもなく10月だ。季節は間違いなく変わっている。SFを読むことや、接すること、過去の名作を考え直すことなどを忘れないようにしたいものだ。

                     (2016・9・26)

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