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No.427 (Web版77号)3

SF essay (246回)

川瀬広保

 アルフレッド・ベスターの『破壊された男』が50年ぶりにハヤカワ文庫SFで出版された。伊藤典夫訳である。昔、買ったことがあるが、ハヤカワ文庫SFに入ったので、思わずまた買った。伊藤典夫訳だとつい買ってしまう。

 2017年2月15日の朝日新聞の夕刊に、ジョージ・オーウェルの『1984』がまた売れているというニュースが載っていた。
 昔、1984年以前には、もう何年か年月が過ぎて、1984年がきたら、本当にああいった全体主義的な未来が来るのであろうかと心配していた。いざ、その1984年が過ぎたら、「なんだ、大丈夫だったのか」とみんな胸をなでおろしたものだ。1999年7月についても同様である。
 さて、今年、2017年、トランプ政権が発足したのが契機となって、またこうしたディストピア小説が脚光を浴びている。
 人間というのは自由を求める一方で、がんじがらめに自由を奪われた世界も空想してしまう。SFの大きく、重要な分野である。
 『破壊された男』『動物農場』『すばらしい新世界』などである。
 われわれの心の中にディストピアがある。ユートピアを求める心と、暗いディストピアに行ってしまう両面がある。

 一方、ユートピア的SFについては、クラークの『都市と星』の中の一節を思い出す。
 その頃、地球人はダイアスパーの変わらぬ午後2時の日差しの中に生き、生きるための一切の些事から逃げて、芸術活動に時間を使っていた。すなわち、食べることや病気などの心配はなく、仕事をしなくても生活できるのだというような意味の部分があって、印象的だったのを、覚えている。クラークの透徹した想像力を彷彿させる箇所であった。人々は天候異変の心配はなく、常に温暖な「都市」に生き、働かなければ収入がないといった心配は一切なく、病気の心配もなく現在よりはるかに寿命が延びているらしい。
 これが、「幸福」なのかはわれわれにはわからない。
 ウェルズの『タイム・マシン』では、80万年後の地球では、地下に住むモーロック族と地上でモーロック族に支配されているエロイ族を描いていたが、ますます二極化している現在の地球を暗示しているようで、考えさせられる。エロイ族は一種の「ユートピア」なのだが、これでいいわけはないだろう。
 さて、先日、インターネットがつながらなくなって、あわてた。メールもできない。われわれは食べ物だけでなく、情報がないと生きていけない。情報は、テレビ、新聞、メール、ライン、電話そしてインターネットによるニュースなどである。どうせ、どうでもいいようなニュースが多いのだが、遮断されると大いに気になって困ってしまう。
 情報を操作するディストピアは問題が多い。情報が得られないのも大いに困るということを痛感した。人は食べるだけでは生きられないからだ。

 さて、話題は変わって、最近の朝日新聞朝刊の次のような記事が目を引いた。引用してみる。

 太陽系からおよそ40光年離れた宇宙に、地球と似た大きさの惑星が7つあると、欧米の研究者などで作る国際共同研究チームが発表し、水が存在するのかなど、地球のように生命を育むことができる惑星なのか見極めるための研究が本格化すると期待されています。

 研究チームは太陽系から、およそ40光年離れた宇宙にある「TRAPPISTー1」と呼ばれる星の周りを、地球と似た大きさと質量を持った惑星が、少なくとも7つ回っていることを突き止めました。

7つの惑星は、その質量や、「TRAPPISTー1」との距離などから、表面にもし水があれば、凍ることなく液体のままで存在できる可能性があるほか、うち6つは地球のように岩石などでできた固い表面を持っている可能性があるということです。

太陽系から近い宇宙で、大きさなど地球と似た特徴を持つ惑星はこれまでも見つかっていますが、研究チームは、およそ40光年という比較的近い距離で、1つの星の周りに7つも確認されたのは初めてだとしています。

 以下、省略。

 わずか40光年先に、地球のような惑星が7つもあるようで、先走ってはいけないが、そこにはわれわれ地球人のような知的生命が住んでいるかもしれないと思うと夢が膨らむ。われわれは孤独ではないということが実証される日も案外、近いかもしれない。

                (2017・2・25)

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