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No.436 (Web版86号)1

 『わたしを離さないで』についてあれこれ

 by 渡辺ユリア

 カズオ・イシグロ氏作のこの作品(6番めの長編)について思いついたことをつづってゆきたいと思います。本年度のノーベル文学賞を受賞されたイシグロ氏は、日本生まれのイギリス人作家。
1954年11月生まれ、1984年の長編デビュー作「遠い山なみ」で王立文学協会賞を、1986年の「浮世の画家」でウィットブレッド賞を受賞。1989年には長編第三作めの「日の名残り」でブッカー賞を受賞されました。そして2005年に発表した「わたしを離さないで」は世界的なベストセラーになりました。
 では、この作品について語ってゆきましょう。…どこから話しましょうか、まずタイトルについて。これは誰に言っているのかしら‥と思いました。そしてページをめくりました。第1章 “…わたしの名前はキャシー・H、いま31歳で介護人をもう11年以上やっています…” という冒頭のことば。介護人とは何だろうか、誰を介護するのだろうか‥ということが私の心にひっかかりました。文章は読みやすいです。でも心のすみで“なぜ”という疑問がわくのです。何か奇妙なふんい気があるのです。そしてキャシーから生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースや友人たちとの回想が語られるのです。図画工作に力を入れる授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度。キャシーの回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしてゆく。読んでいるうちに、タイトルのNever Let Me Goというのが思い出のカセットテープであることに気づきました。幼い頃に手に入れて大切にしていたテープがある日を境にして失われてしまうのです。そしてキャシーたちの未来がかいまみえてくるのです。奇妙なふんい気、まわりの人たちのぎこちなさ。キャシーやトミーやルースはこれからどんなふうに生きるのだろうか…ということに思いをはせました。特にトミーの心のはげしさ、やるせなさが伝わってくるのです。この人たちの心はどこに行くのだろうか。そして生きること、愛することとは何だろうか、ということが私の心にフッと浮かんできました。また、この人たちの未来がもしちがっていたら、とも考えました。もし人類よりも優秀な者たちが生まれたら、人類はその者たちを怖れ、そしてしっとするのだろうか…とも。
 物語のさいごのさいごまでゆっくり読んでください。そこにはキャシーのメッセージがみえてくるのです。
PS. 映画化されたDVDをさいしょにみることをおすすめします。次に小説をよんでみて下さい。そしてラストは日本でドラマ化されたDVDですね。どの作品も印象的です。ちなみに日本で舞台化されました。では
                   2017.11.21 yullia

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