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2018年1月

No.437 (Web版87号)2

SF essay

川瀬広保

日馬富士がとうとう引退せざるを得なくなってしまった。相撲を見るのが好きな私としては残念でならない。もちろん、酒に酔って(本人も師匠もそうは言ってない)暴行を働いたのが許されるわけではないし、頭部の大けがが簡単に治るとは考えられない。稀勢の里もまた休場したし、宇良も休場している。土俵の上で大きな力士がぶつかり合うのだから、ケガはつきものだろう。日本の国技である相撲がこれで衰退することのないようにと思う。

 日本SF傑作選2「小松左京」〈神への長い道 継ぐのはだれか〉を買ってきた。買うきっかけは目次を見たら、「お召し」が入っていたからだ。
 この「お召し」は昔、読んで不思議な話だなというぐらいの印象だったが、今回再読してみると、作者小松左京の意図する深さが含まれているのではないかと思わされた。12歳以上のいわば大人が、ある時、突然消えてしまったあとに、残された子供だけで生きていくという思考実験だけでなく、あちらの世界では、ある日、12歳以下の子どもが突然消えてしまっている。これは人類の発展のための〈お召し〉ではないだろうかと高山長官はこの短編の最後でふと思うのだ。深みのあるSF短編であるということを再認識した。

 傑作選1は筒井康隆であり、2がこの小松左京、3は眉村卓とのことだ。ここで、星新一が入っていないことに、版権の問題があるにせよ、違和感を感じる。
 日本SFの傑作というなら、星、小松、筒井、光瀬、半村が全部入っていなければいけない。第一世代以降の作家は別としてだが、すべてを網羅するわけにはいかないだろうから、致し方ないとは思う。

 さて、SFマガジンの最新号はSF映画総解説 part3である。これで、SF映画はほとんど完全に網羅されたことになる。
 ハヤカワ文庫SF総解説もやったし、次は何をやるのだろう。

 さて、思い出の一冊について書いてみよう。ご存知の方も多いと思いますが、まだの方にはお勧めの一冊です。

 SFマガジン初代編集長、福島正美の「未踏の時代」がSFマガジンに連載され始めて、SFがまだ日本にあまり根付かなかったころの様子がよく描かれていて、私は夢中になって読んだ。彼の書く文は名文と言っていいだろう。表現力が豊かという簡単な言葉ではない。なかなかあんなふうには書けない。数々の訳文も彼の訳だからこそ、名訳として原文の雰囲気がよくわかって、夢中になって読んだ。「幼年期の終り」「夏への扉」等々である。夏への扉では、献辞にすべてのaelurofileにこの書を捧げるとあって、この英語が〈病的に猫好き〉という意味だと知り、またその逆のaelurophobiaという語も知った。この語は、〈病的に猫嫌い〉という意味である。また、主人公が、冷凍睡眠で未来に行く前に、医者に腰に注射を打たれる場面で、例の英語の早口言葉、peter piper picked a peck of pickled peppersを言う部分など、ハインラインのストーリーテリングのうまさだけでなく、それを名訳にしたためた福島正美という人のすばらしさは、どんどん膨らんでいった。
 そのいわば自叙伝(または、SFを社会に受け入れさせようとした戦いの本)であるこの「未踏の時代」は、後に一冊の単行本にまとめられ、またさらに後に文庫本に収められた。
 私は大学生の時、厚かましくも手紙を出して、明治大学で講演会をしてくれないかとお願いしたとこがあった。後に、断りの手紙が来て、逆にほっとしたのだが、この「未踏の時代」の中の数々のエピソードはどれも興味があり、まるでそのころがよみがえってくるように生き生きと読ませるものがある。
 一介のファンであり、一読者でしかすぎないが、3回ぐらいは読んだ。もし、まだ未読の方がいらっしゃったら、ぜひ読んでいただきたい。

 もう12月も終りである。今年は、天候も不純でおかしかったし、今も相撲界は揺れ動いている。まとまらないまま、2018年へ突入するのだろうか。
             (2017・12・21)

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No.437 (Web版87号)1

My BESTS 2017

 中嶋康年

1「LOGAN」 ジェームズ・マンゴールド監督
X-MENのウルバリンが年老い、ミュータント能力である瞬時の治癒能力が衰え、父と慕うエグゼビア教授も認知症を発症して介護をしているが、能力が強力なだけに行く先々でトラブルを起こしていく。そんな時ローガンの能力を研究していたグループがローガンの遺伝子を使って同じ能力を持つ少女を「製作」したが脱走。自分の衰え、父の介護、子供の保護に直面する姿に感銘を受ける。

2「TIMELESS」AXN/SkyPerfecTV
国土安全保障省から盗まれたタイムマシンを追って、歴史学者とエージェントとメカニックの3人が歴史上の事件があった時代へタイムトラベルして行く。「タイムトンネル」のような趣もあり、秀逸。番組の後ミニ番組「そのとき何が起きたのか」も歴史の裏側を扱っていて面白い。

3「ブラックミラー」NETFLIX
発達した情報化社会での悲劇を描いた平均60分ぐらいのオムニバス。SNSでの評価が日々の生活を支配する世の中で、些細なことで評価を落としてしまうとどうなるかという「ランク社会」が後味が悪い作品のなかで、唯一救いがあるような話。最近、新エピソード6話が配信された。

4「月の部屋で会いましょう」レイ・ヴクサヴィッチ
書店で偶然見つけた短編集でいいのが多かった昨年だったが、本書もその1冊。

5「3%」NETFLIX
PM3月号にも書いたが、ブラジル製作のドラマ。豊かな世界と貧しい世界に二分された近未来。選ばれた豊かな者となるには、たった一度の”選定プロセス”で自らの価値を証明しなければならない。合格の確率は3%。

6「スタートレック・ディスカバリー」NETFLIX
こちらもPM11月号に書いたばかりだが、全9話でシーズン終了。例によって後を引く終わり方をしているが、次シーズンも製作中とのこと。

7「巨神計画」シルヴァン・ヌーヴェル
ケベック出身のカナダ人作家の巨大人型ロボットSF。全編がインタビュー報告や通信などでの会話で構成されているという特異なスタイル。日本アニメの影響も受けているようで、続編も本国では出版済み。

8「スパイダーマン・ホームカミング」ジョン・ワッツ監督
数多く製作されているスパイダーマンもので、今回のはどうかと思ったが、なかなか面白かった。アイアンマンが絡んできて、シネマティック・ユニバースに取り入れられた。

9「口のなかの小鳥たち」サマンタ・シュウェブリン
2015年のBEST1に選んだ「バイクとユニコーン」の東宣出版からの「はじめて出逢う世界のおはなし」シリーズの1冊。アルゼンチンの新世代幻想文学の旗手。

10「グウェンプール」グリヒル他
ヴィレッジブックスが邦訳した新世代マーベルヒロインのうちの一人。日本人アーティストユニットのグリヒルが制作に参加している事がポイント高い。

その他、印象に残った作品は 夢見る葦笛/燃える平原/ローダンNEO/筺底のエルピス/(以下映像作品)インゴベルナブレ/幼女戦記/FLASH/オートマタ/エージェント・オブ・シールド/Re:CREATORS/エクスマキナ/文豪ストレイドッグス/Re:ゼロから始める異世界生活/けものフレンズ/エージェント・カーター(順不同)

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