No.439 (Web版89号)3
SF essay(258回)
川瀬広保
ボランティアで時々、天文台へ行く。曇ったり、雨がふったりしている時は行かないので、せいぜい月に一回あるかないかだ。先日行ったときは、寒波で屋上は寒くて大変だった。それでも、来る人は来るので、世の中には天文ファンも多いのだと思ったものだ。天文ファンとSFファンの接点はどこにあるのだろうといつも思う。完全に両立させている人はどのぐらいいるのだろう。クラークが大きな望遠鏡をのぞいていた写真をどこかで見た覚えがあるが、クラークなら両立させているのだろう。セーガンもきっとそうであろう。現実的な天体観測と数億年後の未来を想像力で描くSF作家とではやはり種類が違うのだろう。
さて、天体観測は現実であり、重い機材を運んで、組み立てたり、寒い戸外で腰をかがめて目標物を導入したりするのは現実である。接眼鏡越しに見るその遠い星にも生命はいるのだろうかと考え、想像するのがSFである。
さて、AIが進化発展して、AIBOの新製品が販売されたというニュースに接した。高額でも30分で完売したという。ASIMOはSF作家のアシモフ由来であると思うが、そのアシモフが創設したロボット三原則では、ロボットは、自分に危害がふりかからなければ、常に人間を助け、人間を守るという大原則がある。
しかし、人間にはそういった原則はなく、自分勝手でわがままなのが、人間である。
高齢になって、家族でさえ、人間関係が希薄になってしまい、人生の晩年は、AIBOと共に過ごすとしたら、何と寂しいことではないかと思う。
高齢夫妻が、我が子とではなく、ロボットのAIBOとともに生活する。そして、本来の家庭生活が十分にできないとしたら、おかしなことだ。SFの世界では受け入れられても、実際の生活ではどうだろうかと思わざるをえない。
それだけ、現代は家族の人間関係が希薄だということだ。ロボットに、その人間関係のための架け橋ができるならいいことかもしれない。しかし、AIBOはいうだろう。「どうして、人間の家族はそんなにお互いに相いれないの?」と。
ロボットが人間になりたいというアシモフ原作の映画を思い出した。「アンドリューNDR114」(The Bicenntenial Man)である。ロボットが人間化し、人間がロボット化する。その先は混沌である。人間もロボットもなく、人間はロボットのようになり、ロボットは人間のようになる。見分けはつかない。そんな時代がいつか来るのかもしれない。「ゼイリブ」という映画も思い出した。古いSF映画だが、「やつらは(この地球に)生きている」というわけだ。やつらとは人間そっくりの宇宙人であり、地球をのっとることを考えているのだ。ディックの作品にもその手の作品が多かったように思う。あなたの配偶者が宇宙人だとしたら?あるいはロボットだとしたら?AIBOがもっと発達して、人間と見分けがつかなくなり、人間だと思っていたら、実はロボットだったというような近未来の話はありうるだろう。ニュースはすぐ消えるが、AIBOの発達のこの手のニュースには考えさせられることが多い。
さて、ピョンチャン・オリンピックに特に興味はないが、羽生結弦の66年ぶりの二個目の金メダル獲得のニュースやまだ中学生なのに羽生名人に勝ったという藤井聡太棋士のニュースが大きく報道され、また新聞の一面に載っているのを見るとこれはすごい快挙なのだと目を身開かされる。
まだまだ寒い日々が続く。それでも午後6時近くまで日は延びた。3月になれば少しずつ暖かくなるだろう。冬の次は夏で、春や秋という季節がなくなってしまったかのような不順な最近の天候だが、ちょうどいい気候というのはいつでもないものだ。それは、天候だけでなく、宇宙のすべてに通じるものなのかもしれない。人間の心も極端だ。争いは二派に分かれ、いつまでも続く。スポーツでは、オリンピックの活躍が国や人々を結束させるもののようだ。
クラークの「太陽系最後の日」の冒頭部分に次のような文がある。
(宇野 利康 訳)
はたしてこれは、何人の責任であろうか?そうした問題が、たえずアルヴェロンを苦しめ続けた。三日のあいだ考えぬいたが、ついに結論に達しえなかった。かれがもし、もっと文明のおくれた種族に属し、もっと感受性のにぶい生物であったら、これほどまでに心を悩ませずにすんだかもしれない。運命の作用に生物が責任を持つ理由はないと、一言のもとにいいきることができたからだ。
「運命の作用に生物が責任を持つ理由はない」という文言に深みがある。クラークがただのSF作家ではないということがわかる。
優れたSF作家の金玉の文章が心に残る。クラークに限らず、ウェルズはもちろんのこと、ジョン・ウィンダムやフレデリック・ブラウンなど、名文を書く作家が多い。心に残る文や一節が光っている。SFを読む楽しみは、アイディアや奇想だけでなく、深みのある人類へのサタイヤや期待が描かれていると、強い印象に残っているものだ。
今回は、AIBOの進化・発展のニュースからあれこれ考えて見た。
(2018・2・24)
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