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No.441 (Web版91号)1

 水色のリボン

 福田淳一

 5月、石ノ森章太郎の幻の単行本「水色のリボン」が、復刊ドットコムから復刻される。この本は現在数が極めて少なく、私は発行されなかったのではないかと推測している。この本が古書やオークションなどで登場した場合、美本ならば50万円は下らないだろう。
 「水色のリボン」は、石ノ森章太郎が上京後の連載2作目として描いた作品である。
 石ノ森章太郎は、1956年(昭和31)3月佐沼高校を卒業と同時に上京し、本格的なマンガ家生活に入った。上京後の初仕事は『少女クラブ』(講談社)1956(昭和31)年7月号の別冊付録として描いた「まだらのひも」になる。上京直後はこの『少女クラブ』が作品発表の中心になっていった。続いて8月号に短編「黒猫」を発表し、上京後初の連載作品「幽霊少女」を1956(昭和31)年9月号から57(昭和32)年10月号まで1年あまり連載する。それに続けて11月号から58(昭和33)年3月号までの5回この「水色のリボン」が連載されたのである。
 石ノ森章太郎の初期作品には、映画作品の影響が随所に見られる。本作の「水色のリボン」もフェデリコ・フェリーニ監督のイタリア映画「道」を取り入れて、石ノ森流に仕上げた作品になっている。この「道」は、旅芸人をしている粗暴な男が、とある街で頭の弱い女を安い金で買い、イタリアの田舎町を巡業して歩くというもので、日本では1957(昭和32)年5月25日に公開された。この「水色のリボン」の連載開始の少し前の事になる。
 フェデリコ・フェリーニ監督は、映像の魔術師の異名を持ち、この「道」では物語の叙情性とヒューマニズムが溢れる名作で、フェリーニ監督の代表作の一つである。
 石森作品の多くに流れるリリカルで叙情的な描写は、このような映画作品を観る事から育まれていったのではないだろうか。
 「水色のリボン」の中でも、雨や枯葉、吹雪、月などの自然や風景を取り入れた場面を描くことで場面転換をしたり、情緒感や余韻を残す演出をしている。当時まだ発展途上であった少女マンガの中では、このような映画的な演出をした作品は画期的であった。前作の「幽霊少女」のラストシーンなども同様に、主人公が枯葉の舞う中を走り上空を飛行機が通り過ぎて行くという風景で締めくくり、余韻を残す演出で終わっている。
 この「水色のリボン」を単行本化したものが、『わかば書房』版の「水色のリボン」である。石ノ森章太郎にとって初めての単行本は、『曙出版』から1957(昭和32)年1月18日発行の「火の鳥風太郎」(B6版)で、こちらは書き下ろしの単行本になる。そしてこの「水色のリボン」(A5版)は雑誌に連載された作品をまとめた初の単行本である。
 しかし、『わかば書房』版の単行本「水色のリボン」には奥付が無い為、正確な発行年月日が不明である。だが、加筆された部分をよく見ると、瞳の中に大きく十字の星が描かれている事が多い。この様な描写は主に「水色のリボン」の後に連載された「三つの珠」1958(昭和33)年4月〜59(昭和34)年3月号に連載のヒロイン深雪の瞳の描写で使われている。
 この「水色のリボン」の連載が終了して間もない1958(昭和33)年4月4日、石ノ森章太郎のマンガの最初の読者であり、最大の理解者であった姉の由恵が亡くなった。その時のショックは計り知れないものがあったことだろう。
 その失意が癒えぬ頃、わかば書房から石森章太郎少女漫画珠玉選集の企画が持ち込まれた。そして、その1冊目として「水色のリボン」が発行されることになったのである。
 この「水色のリボン」には「ちりぬるを」という短編が併録されている。この「ちりぬるを」は、「少女クラブ」の1958(昭和33)年お正月増刊号に掲載された作品になる。
 また、この「ちりぬるを」に加筆した「白いばらの物語」の扉には「亡き姉にこの一編を捧ぐ」と記載されている。それは「亡き姉に捧ぐ」思いで編集した単行本「水色のリボン」が発行されなかったことから、その直後にこの「ちりぬるを」に加筆した「白いばらの物語」を描き、扉にその思いを記載したのではないだろうか。
 この様に、石ノ森章太郎にとって、「水色のリボン」は初めて連載作品をまとめた単行本であるが、余りにも現存数が少なく、かつ正確な発行年月日も不明で謎が多い為、ファンの間ではまさに“幻の単行本”を今回石ノ森章太郎の生誕80周年を記念し、カラーページやカバー、折り込みの「漫画寸感」や「僕のスター達」を掲載した特別ページまでも、完全復刻して特別出版として刊行される。

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