No.445 (Web版95号)1
『鶴書房のSF作品群』について
中村達彦
戦後から1979年頃にあった出版社に鶴書房があった。マンガを中心とした書籍物を幅広く手がけていたが、
その中には藤子不二雄の「UTOPIA最後の世界大戦」がある。
そこからSFベストセラーズと銘打たれて、第1線で書いていたSF作家たちによる、ジュブナイルSFの単行本が発売された。
矢野徹、小松左京、中尾明、眉村卓、筒井康隆、豊田有恒、福島正美、光瀬龍等々。
実は盛光社と言う出版社から1967年に刊行された10冊のジュニアSFシリーズが始まりである。
もっともSF作家たちは書き下ろしで作品を提供したのではなく、連載で別紙に書いていた1〜3作の読み切り作品を提供したらしい。
同シリーズの作品は、市民図書館や学校の図書館に置かれたものも少なくない。
それを読んで、SFを好きになった者もいるはずだ。
作家ごとのカラーが出ており、国家規模から学園内輪まで様々な事件が発生する。また共通のテーマとして、事件に巻き込まれた主人公(大半が学生)の葛藤や読後読者に考えさせられる課題が描かれている。
作家たちは映像化を念頭に置いて、書いたのであろう。
その通り、NHKで70年代に夕方、TVドラマ化された少年ドラマシリーズの原作になった話が複数ある。
少年ドラマシリーズは、その良質なドラマ作りから、過去に何度か書籍で取り上げられてきた。SF以外の作品もあるし、海外の作品を取り入れたものもある。
この少年ドラマシリーズでドラマ化された場合には、原作と比べてみると、細部に違いがある。
初期に発表された作品と作者は以下の通りであるが、知っている作品もあるだろう。中には、少年ドラマシリーズの後に、現在まで何度も映像化されているものもある。
光瀬龍「夕ばえ作戦」
眉村卓「なぞの転校生」
矢野徹「新世界遊撃隊」
中尾明「黒の放射線」
福島正美「リュイティン太陽」
筒井康隆「時をかける少女」
豊田有恒「時間砲計画」
北川幸比古「すばらしき超能力時代」
内田庶「人類のあけぼの号」
小松左京「見えないものの影」
このうち眉村卓の小説は、鶴書房以外のSF作品も少年ドラマシリーズになっており、「まぼろしのペンフレンド」「未来からの挑戦」「幕末未来人」があげられる。また、79年にドラマ化された筒井康隆の「七瀬ふたたび」は、ある超能力者一団の運命を扱っているが、傑作の声が高い。こちらも少年ドラマシリーズの後、現在まで何度も映像化されている。
78年に入ってから、当時のSFブームの流れに乗って、以下の続刊が追加されていく。
石山透「続・時をかける少女」
福島正美「異次元失踪」
眉村卓「ねじれた町」
光瀬龍「明日への追跡」「消えた町」
石川英輔「ポンコツタイムマシン騒動記」「ポンコツロボット太平記」
宮崎淳「学園魔女戦争」
今日泊亜蘭「怪獣大陸」
瀬川昌男「眠りの星レア」
豊田有恒・石津嵐「続・時間砲計画」
荒巻義雄「五万年後の夏休み」
中尾明「いて座の少女」
携帯電話もネットも実用化される前に書かれた話ばかり。当時と現在とは、科学技術に格差があり、学生の好みも雰囲気も違いが多い。
中でも、印象深い作品は、「異次元失踪」と「ねじれた町」の2本。
「異次元失踪」は、学生が行方不明となった顛末を担任の教師の視点で描いた話。福島正美は日本SFの普及に努力したが、その事実も踏まえた上で、他の本と異なる意外な結末が待ち構えている。
「ねじれた町」は、城下町に転校した少年がその町を支配するものに不思議な力を与えられる。その力を頼りとする人々に担ぎ出されるが……。力作だが、今まで映像化されたことはない。
鶴書房は諸般の事情により、79年に倒産した。
だが同年。
高千穂遥「異世界の勇士」
川又千秋「夢の戦士」
石川英輔「ポンコツUFO同乗記」
の3冊を発売した。
お三方とも、当時、新進気鋭の作家であり、SFベストセラーズがこの後も書き進められれば、更に新人の発掘が進められたかもしれない。
SFベストセラーズは、以前から海外SFにも眼を向け、海外の作品も和訳出版されている。中でもベン・ボーヴァ作「星の征服者」は、銀河帝国に地球を盟主とする国家連合が戦いを挑む、壮大なスペースオペラとして注目される。
鶴書房から発表された作品の大半は、角川、朝日ソノラマなどの他社の文庫から、他の作品と共に再度出版され、日本SFの一翼を担った。
SFも冬の時代が続いているがSFベストセラーズの次作に相当するシリーズは、生み出されている。
5年ほど前、岩崎書店から21世紀空想科学小説というSFジュブナイルの読み切り(全9巻)が発表されている。
第一線で書いている作家たちの力作揃いであるが、SFファンには、是非一読を願いたい。
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