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No.446 (Web版96号)1

「確率」

立原透耶

そうさ、聞きたいなら教えてやろう。
 おれは拳銃だ。それもかなりの骨董品で、今はやりのオートマチックでもマシンガンでもない。由緒正しいリボルバーで、弾を一つずつ薬莢に詰め、決まった回数だけしか発射できない。
 なんだって?それじゃあ使い物にならない?まあそうだろう。現代なら何十、何百だって一気に撃ち続けられるからな。だけど、昔は一発で十分だった。医術だって発達していない。貴重な一発が当たりさえすれば、割と高い確率で相手は死んだし、生きていたとしても動きを止めることはできる。もちろんベレッタみたいなハンドバックに入る小型の銃はご婦人向きで、なかなかちょっとやそっとでは人を殺せやしない。よほど当たりどころがよくないと、仕留めることはできない。まあ護身のためだから、あれは小さくても命中率が低くても、それなりに用途はあるらしいがね。
 大きな声では言えないが、共寝している男が熟睡している時なんか、動かないし、的を外すこともないから、ベレッタでも十二分に……夫、これは内緒にしておこう。
 で、おれがなぜこうやって大切に金庫に保管されているかということについて、聞きたいんだろ?そりゃまあ当然だな。特別な飾りがあるわけでも高価なわけでもなければ、貴重な種類でもないし、数が少ないわけでも名機というわけでもない。
 ただ、おれにはちょっとした「いわく」というのがあってね。それで珍重されたんだろう。
 聞きたいかい?いいとも、こんな金庫に閉じ込められていては退屈なだけだ、ちょっと昔語りをしてやるとしよう。
 おれはスタームルガー・セキュリティシックスという種類で、357マグナム弾を使用する。頑丈で手入れも簡単、安定した拳銃として、大いにもてはやされた。たぶん、今もおれの後継種が世界中で活躍しているだろうよ。1968年に誕生した割りには息の長いタイプだ。
 で、大量生産された仲間たちとは違って、おれには一つだけ特別な点があった。6発のうち1発しかまともに発射できない。残り5発は全部、不発ってわけだ。普通ならとんでもない欠陥品だ。だけど、世の中にはこういう拳銃をありがたがる奴が出てくるってのも、皮肉な話だよな。
 ある男がいた。酔っ払って酒場で大げんかした。その時、持っていたのがおれで、男は殴り合いで劣勢になった時に、おれを使おうとした。だけど3発とも不発だった。そいつ?当然喧嘩相手に撃ち殺された。
 男の女房は嘆き悲しんで、3発も弾が出なかったおれを罵った。飲んだくれのロクでもない亭主の死を心の底から願っていたのに、いざおっ死んでしまうと惜しくなるのかね。それで奴の女房は考えた。貧しくて葬式をする金もない。売れるものはおれだけだ。女房は賢かったね。散々考えてから、警察にその銃を渡し、喧嘩相手に売ってくれと頼んだ。喧嘩相手は金持ちだったし、殺した男の女房に恨まれ続けるのも嫌だったので、幾らかのはした金を払い、おれを引き取った。そしてメンテナンスに出して、入念に修理した。そのあと、何回か試し撃ちをして、おれが正常になったのを確認した。
 喧嘩相手が老衰で死んだ後、孫がおれを見つけた。鍵付きの引き出しに保管されていたおれは、さぞかし魅力的に見えたんだろう。孫はおれを丁寧に手入れして、いつも仕事場の机の引き出しに入れていた。そうしたらある日、強盗が入った。孫は慌ててこんな時のためのおれを取り出し、引き金を引いた。
 当然、不発だった。おれは6発のうち5発が不発になるように念入りに設計された銃だったんだ。孫は強盗に撃ち殺された。長い年月を経て、酒場で殺された男の女房の恨みがやっとはらされたってわけだ。
 強盗はもちろんおれも盗んだ。こんなにかっこいい外見だから、誰もがおれに魅せられるんだろう。一ヶ月後、強盗の幼い子供がおれを見つけた。ニコニコしながら引き金を引いた。こんなに重いのに、よくおもちゃだと間違えたものだ。そしてそれは6発目だった。
 飛び出した1発は子供の頭を砕き、背後にいた親父の強盗を貫いた。

 それで?おれはこんなところにしまわれている。だが、時々、来るんだ、あんたみたいな奴がね。そしてなんだか複雑なことを考えておれを使いたいって言うんだ。そうそう、よくロシアン・ルーレットにも使われるな。
 ところで、昨日はあんたの女房が来たが、不発だったようだな。さて、次は何発目になるのかな?




 旧知の作家、立原透耶さんが自作の短編1編の拡散を許していたので、送ります。
 17年前に書いた『中国科学幻想文学館』の中国語訳が正式に出版されました。わざわざ取り寄せて読む人はいないと思いますが、表紙を掲げておきます。(印刷版の先月号掲載)しかし何ともインスタ映えしませんな。詳しくはフェイスブックにもアップしてあります。

                    岩上 治

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