No.447 (Web版97号)3
劇場版「若おかみは小学生!」をみたか? 新村佳三
10月29日現在、全国の映画館で上映されている「若おかみは小学生!」というアニメ映画が話題になっている。
内容は元々は東京で暮らしていた小学生の女の子が、諸事情で祖母が経営している伊豆の温泉旅館の若女将として生きていく、という話である。
この舞台になっている伊豆の温泉街(架空の街で、実はモデルとなっているのは関西の有馬温泉)は、少し奇妙である。
古くからある温泉街という設定になっていて、たしかに伝統ある有名温泉地っぽい雰囲気があるが、どこかしっくりしない。まるで巨大な「温泉街」のアミューズメントパークのような人工的な雰囲気がある。街全体で「温泉街」を演じている感がある。
この温泉街を走り回るタクシーや旅館の送迎車両も変わっている。外観は昭和30年代の温泉街からやってきたような懐かしのクラシックカーだが、エンジン音がない。EVである。
ますます、アミューズメントパーク的だ。
この作品のジャンルがよくわからない。
この物語には、生きている人間と、幽霊と、魔物と称している存在と、死んでいるはずの人間が、登場する。
ファンタジーのように思えるが、リアリティのある丁寧な生活描写が骨格としてストーリーを支えている。
不思議なシーンもある。
特に、主人公と、幽霊と、死んでいるはずの人間が、同時に登場するシーンは、混乱させる。
登場人物のカテゴリーの基準が曖昧なのに、このシーンはリアルな描写なので、戸惑う。
混乱した絵面の中で主人公が、ハキハキと、迷いなく喋ることに、さわやかではあるが奇妙さも感じる。
また、死んでいるはずの人物(作品中では幽霊とも、単なる幻覚とも、想像した人物とも、特に説明はない)が登場する(夢の中とかではなく)シーンでは必ず、「生きている人物」が、鏡やガラスの反射像という形で映っている。何の比喩だろうか?
この作品には温泉街を訪れる客と、それをもてなす旅館側が描かれているが、主人公の小学生が、普段の小学生としての生活描写と、若女将としての描写に違いがある。若女将として「演じている」感が強い。これは、この温泉街の成り立ちとも相まって、まるでディズニーランドのように住民皆が自らの役を「演じている」世界、と考えれば良いのだろうか?
制作スタッフは、かつてスタジオジブリの作品などに参加していた方も多く、「この世界の片隅に」(この作品も、日常生活の中にファンタジー的な奇妙な要素が紛れ込む、という描写があった)と同様に、ポストジブリ系作品ということになるのか?「この世界の片隅に」も、そうであったように、画像だけでなく音響効果にも大変力を入れており、とても丁寧な仕事だと感心する。
9月末から公開が始まって、10月になってからは公開終了する映画館もあったのだが、口コミで評判が伝わり、10月末現在、公開終了を取りやめて延長公開をしている館も多数現れた。
古典的なサイエンスフィクション作品とは少し違うかもしれないが、鑑賞後の、奇妙だが爽快感のする不思議な味わいは、味わって見ても悪くないと、オススメする。
4回見ました。
来週5回目の鑑賞に行こうと思っています。
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