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2019年3月

No.450 (Web版100号)3

さよならヨコジュン先生!横田順彌を偲ぶ

中村達彦

1月から大河ドラマ「いだてん東京オリムピック噺(ばなし)」がスタートした。今度の大河ドラマは、オリンピックをテーマに明治末と昭和中期それぞれの時代を描く意欲作である。
 前半の主人公、マラソンランナーの金栗四三を主人公にした明治末の話には、日本初のSF作家押川春浪(おしかわしゅんろう)が中心となったバンカラのスポーツ振興集団天狗倶楽部(てんぐくらぶ)が絡んでいる。
 その型破りさは、第1話から劇中で語られており、また柔道の父であり、日本人のオリンピック参加に大きな影響を与えるレギュラーの嘉納治五郎を後押ししている。第3話ラストには、天狗倶楽部がいかに型破りであったか、現代の我々に現在も残る資料で解説されている。
 ドラマには、春浪も登場しているし、彼の親友で早稲田大学の野次将軍とその名を知られた吉岡信敬も姿を見せている。春浪が編集に関わった雑誌「冒険世界」も劇中に登場している。
 天狗倶楽部のメンバーもオリンピックに絡んでおり、今後しばらく金栗とのドラマで登場するはずだ。天狗倶楽部が大河ドラマのみならず歴史ドラマに登場したのは、本作が初めてであるはずだ。
 私が天狗倶楽部を初めて知ったのは、横田順彌(よこたじゅんや)の小説「火星人類の逆襲」(1988年刊行)である。明治末期の帝都東京に、かつてイギリスを襲った火星人が攻めてくる。日本の危機、押川春浪と天狗倶楽部の面々が迎え撃つ。
 また横田は、同書の少し前に會津信吾との共著で「快男児押川春浪」なるドキュメントを発表し、日本SF大賞を受賞している。
 同作の後も、横田は明治時代を舞台にした創作や研究を多数続けており、その中で天狗倶楽部を盛んに取り上げてきた。複数の出版社を通しており、一種のライフワークと言っても良い。
 もう1人の主人公で、鵜沢龍岳を登場させた別の明治SFシリーズもあり、春浪や天狗倶楽部はそちらでも登場し、龍岳の頼もしい協力者として活躍している。
 私はドラマを観ながら、横田を思い浮かべた。
 最近、氏は病になりがちで、著作は御無沙汰しているが、元気で「いだてん」を観て、春浪や天狗倶楽部が実写化された姿に感銘を受けていると思っていたが。
 しかし、第2話の後、手に取った新聞にて、今年の1月4日に病気で亡くなったとの訃報を知る。73歳の死。
 せめて、あと1ヶ月、長生きしていればと、残念に思えてならない。
 自分に影響を与えた人が、次々に亡くなっているが、新たに1人鬼籍に加わった。
 横田順彌は1945年に生まれた。ヨコジュンの愛称で慕われている。
 幼い時にSFを知り、法政大学の落語研究会に身を置きながら、有名なSFサークルの1の日会で活動した。横田をモデルにしたキャラクターが平井和正による「超革命的中学生集団」に登場している程である。
 その後、自身の手でSFファンジンを発行したり、独自の活動を続けてきた。
 このあたりは自伝の「横田順彌のハチャハチャ青春期」に詳しく書かれている。同書は2001年に東京書籍から発表されたが、落語研究会の活動や1の日会のこと、就職について、自分の創作や、大御所小松左京らSF仲間たちと付き合いについて、詳しく記されている。
 70年代に入ってから、創作でデビューを果たすが、当初は、落語の影響もあって、ハチャメチャな駄洒落を飛ばしたSFが中心となる。
 学生時代に押川春浪の「海底軍艦」を読んだのがきっかけで、以後、海外SFに力を入れる他のSF仲間とは一線を画し、古くからの日本の古典SFの収集研究にも力を入れてきた。
 それはSFマガジン誌上で「日本SFこてん古典」として連載され、好評を博し、単行本化されている。全3巻、日本のSFを知る上で貴重な研究であり、高い評価を得ている。
 その後、80年代後半から本格的に明治SFの創作に取りかかるが、併せて古書収集、明治研究家の顔を併せ持ち、それを題材にした作品作り、加えてSFの入門書の編集も行い、日本SFの興隆に一役買った。
 作品は、ハチャメチャな内容に笑ったが、明治SFについては当時の空気が出ており、考証や落ちの付け方についても工夫し、読後、読者にちょっと考えさせる余韻を与えている。明治時代を生きる人の息遣いが伝わってくる。
 横田は、日本SF大賞を受賞したり、95年に発表した「百年前の二十世紀 明治・大正の未来予測」が同年の高校課題図書に選ばれたりしている。しかし、著作は多いとは言え、全てが正しい評価を受けているとは言い難い。
 「火星人類の逆襲」は映像化の企画があったが実現に至っていない。鵜沢龍岳を主人公とするシリーズは、NHKの時代劇でドラマ化されても成り立つ内容である。
 作品が読継がれること、再評価されることを希望したい。そして横田の死はショックであるが、ありったけの感謝を込めて送り出したい。
 加えて、死後の春浪や天狗倶楽部をはじめ、親しい人たちとの対面を祈りたい。

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No.450 (Web版100号)2

SF essay (269回)

川瀬広保

 平成31年、2019年が明けた。新年は元号が変わるということと、消費税が10パーセントに上がるということが大きい。元号は昭和、平成を経てまだ未知の新元号であり、消費税は必ず上がるであろう。困ったことである。また、やたらと外国人を採用するらしい。
 最近、はまっているテレビ番組は「チコちゃんに叱られる」。言いたいことを言うところが面白い。CGだから、実在しているわけではないが、身近に感じてしまう。
 ぼーっとしていないで疑問に思ったら、いろいろ調べて考えてわからないときは、専門家に聞く。社会全体への「喝」である。難しく考えなくてもいいが、この番組は面白い。

 季節を感じるのは、スーパーとテレビだ。スーパーは季節を先どって、品物を陳列しているし、テレビは年末ともなれば、平成はどうだったかとか一年を思い出す番組を放映し続けている。「時は人を待たない」ということわざがあるが、まったくその通りである。"Time wait for no man"である。"Time flies like an arrow" ということわざもある。"Time flies" だけで載っている。時間は永遠なのであろうか。太陽は46億年の寿命だと言うし、人間はたかだか80年程度である。

 久しぶりにSFマガジンのてれぽーと欄へ投稿したら、載せてくれた。筒井康隆についてである。

 以下、SFMに送ったてれぽーと欄の全文を載せてみます。



 SFマガジンに連載された「筒井康隆、自作を語る」は毎回、興味を持って読みましたが、今度一冊にまとめられて、発行されたので、買ってきました。
 筒井康隆と言えば、日本のSF界を疾走してきたプロとして有名です。石川喬司の言葉によれば、星新一が開拓者として道を開き、小松左京がブルドーザーでならし、筒井康隆はさっそうと口笛を吹きながら、スポーツカーでSFワールドを疾駆するといった例えがありましたが、その筒井康隆ももう84歳だといいます。まだ新作を出そうだという意欲がラストのインタビューの答えに見えます。筒井康隆に昔サインをもらったとか、エレベーターで一緒になったというかすかな記憶があります。私はまだ学生でした。
 古きよき時代の記憶です。そのころは、臆せず、プロに会いにいきました。サインももらいました。星、小松、筒井、福島、クラーク等々です。ファンとプロの垣根がほとんどありませんでした。よい時代でした。

 この本は書誌学的な意味でも貴重です。筒井康隆のすべてを収めています。
 対話集だから読みやすいし、末尾には筒井康隆のビブリオグラフィがついています。
 日本SF界をその黎明期から知っている大物のこの本の内容は大いに気になるところです。貴誌にはこれからもこのような日本SF界に貢献された方々のインタビューや動向を載せていただきたいと思っています。



 大げさに言えば、今、筒井康隆が熱い!老いてますます盛んと言う言葉があるが、筒井康隆の動向には目が離せない。

 「2001 キューブリック クラーク」というマイケル・ベンソンの大型本が出る。この本にも好奇心を持っている。一応、注文しておいた。5000円はちょっと高い。入手した。まず厚さに驚く。克明にこの名作映画「2001年、宇宙の旅」が世に出るまでのあれこれを書いてある。この映画が上映されたとき、私は大学生で早速見に行ったものだ。後半、20分ぐらいは一切セリフはなく、人によって感想や理解が分かれる画面が続いた。その後、「2010」が映画化されたとき、こちらはよくわかった。今回、いろいろなエピソードが明らかになっていて、興味深い。50周年だそうである。50年たってもまだこのような本が出版されると言うこと自体、この映画とその原作が永遠であることの証左であろう。

 さて、もう大晦日が過ぎ、2019年が始まった。人は暦によって支配されている。地球が24時間で一回転し、365日かけて太陽の周りを公転する。12で割って、ひと月がある。ひと月は30日か31日で調整されている。。こういった天体の動きによってわれわれは支配され、そこからはみ出ることはできない。うるう年で調整し、いやおうなく、歳をとる。春夏秋冬があるが、天候の異常は今に始まったことではない。後戻りはできない。Time flies.のことわざ通りだ。
「ブラックホールとは何ですか」とか、「ブラックホールと太陽はどちらが強いですか」という子どもの質問があった。ブラックホールは時空をまげてしまって、時間すら飲み込んでしまうという話を読んだ。
 こうなるとブラックホールの方が強いのかな?強いも弱いもないのだろうが、子どもの質問はいつも面白いものだ。「空はどこからが空ですか。地上1ミリでも上は空ですか」この質問の答えは、視線を上に上げたときに見えるのが空だということだ。先日、天文台へ行ったとき、「星はどこにあるの?」と4、5歳の子に聞いてみたら、「空にある」という答えが返ってきた。その通りだと思った。やれ、月は38万キロのむこうにあるとか、地球の隣は火星だとか金星だとか教えたくなるが、星も惑星もみな空にあるのだ。
 子供の素朴な疑問から、人類の科学の発展があったと言っていいような気がする。
 われわれ日本人は神仏混合の宗教を信じており、寺にお参りに行き、神社にもお参りに行く。英語のことわざに、You can live without father or mother but you can`t live without religion.というのがある。父や母がいなくても生きていかれるが、宗教がなくては生きていかれないという意味だ。正月に近くの神社に行けば、大勢の人が参拝に来て、祈祷をしている。
 未来はどうなっているのだろうか。クラークの有名な短編「星」は宗教が科学へとつながっていくのを示しているような気がする。「幼年期の終り」はオーバーロードからさらにオーバーマインドへとより進化した知性の発達を描いていて、昔、興味深く読んだものだ。レムの「ソラリスの陽のもとに」は海に知性があるという世界を描いている。心とは知性であり、真心であり、思いやりである。精神的なものすべてが含まれている。ソラリスの海には精神があるのだ。
 生命と非生命の間はどこにあり、どこから知性となるのだろう。猿人が骨を投げ上げたときには、知性はほとんどなかったが、モノリスを月に発見したあたりでは、人類は知性を発展させている。われわれはもっと進化しなければならない。未来のいつか、超知性が生命ともAIともわからない状態で出現しているのかもしれない。その一つがオーバーロードであり、さらにはオーバーマインドだと思われる。これはクラークが考えた言葉であり、〈上帝〉とか〈上霊〉と訳されている。あれこれ考えても難しいことはわからない。しかし、時には難しいことも考えなければいけないのだ。
 2019年はどうゆう一年になるのだろう。ますます混沌とした世の中になって行くような気がする。
                        (2019・1・14)

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No.450 (Web版100号)1

My BESTS 2018

中嶋 康年

1 「大東亜忍法帖」 荒山徹 Kindle
明治維新を阻止しようと陰陽師が「くとぅるー神」の力を借りて処刑された幕 末の剣豪を蘇えらせた。上巻を出版した版元が下巻の結末を書き換えさせよう として、著者が反発、出版中止に。別の出版社から Kindle で完全版として刊 行されたといういわくつき。

2「ニンジャバットマン」 (映画)水崎淳平 監督
バットマンやジョーカーをはじめとしたゴッサムシティのキャラクターが戦 国時代の日本にタイムスリップする劇場版アニメ。静岡では、清水と磐田で の上映だった。城が巨大ロボットに変形するなどのイメージが素晴らしい。 人物や背景などの描き込みが凄まじくて、「クレージー」との評もあったほど。

3「宇宙探査艦オーヴィル」 FOX/SkyPerfecTV
主役のセス・マクファーレンがコメディアンなので、コメディドラマ と観られがちだが、実際は人種差別や社会制度の批判などを描いた しっかりとした SF ドラマになっている。

4「海王星市から来た男 / 縹渺譚」 今日泊亜蘭
2017 年 9 月の刊なので、今年のというわけではないのだが、感銘を受けたので。歴史的かな づかいが使われているところがあるので少々読みにくいところはあるが、慣れてしまえばそ の語り口の調子の良さは絶品。声に出して読みたいくらい。

5「わたしたちが火の中で失くしたもの」 マリアーナ・エンリケス
アルゼンチンの女流作家の短編集。「ラテンアメリカのホラープリンセス」というキャッチ フレーズをつけられている。いわゆる「イヤミス」ふうのテイストだが、インパクトは強い。 冒頭の「汚い子」で衝撃を受ける。そのテンションを全 12 作中ほとんど維持しているのも すごい。

6「折りたたみ北京」 ケン・リュウ編
現代中国 SF アンソロジー。ケン・リュウ自身は「序文」しか書いてないが、7 人の中国作家 の短編を収録している。圧巻は「三体」で世界的に有名な劉慈欣の「円」。

7「波乱のスペイン女王 イサベル」 銀河チャンネル /SkyPerfecTV
1474 年から 1504 年にわたってスペイン女王となったイサベル 1 世が女王になる前から逝去 するまでを描いた物語。全 39 話。スペイン統一、レコンキスタ完成、新大陸発見でコロン ブスに援助など数々の偉業を成し遂げたが、ドラマ形式で観ると背景などが見えて面白かっ た。続編として娘の「フアナ 狂乱のスペイン女王」孫の「カルロス 聖なる帝国の覇者」 も見た。

8「刻刻」 Amazon Prime
堀尾省太のマンガのアニメ化作品。ほぼ全編が時が止まった世界で、そのなかを動くことが できる主人公の家族に新興宗教の信徒たちが襲ってくる。時が止まった世界とのかかわり方 が普通のアニメ作品にないものがあって面白かった。

9「オルタード・カーボン」 NETFLIX
2002 年フィリップ・K・ディック賞受賞で確か箱入りで出た本だったかと思うが、当時はあ まり面白くなさそうに思えて読まなかった SF のドラマ化。デジタル化した精神を肉体に移 植し次々と変えることができる世界の話で、NETFLIX オリジナルの製作。ドラマはなかなか 良かった。

10「デビルマン crybaby」 NETFLIX
こちらも NETFLIX オリジナルの製作。湯浅政明監督ということで、普通のアニメとは一味違 うどこかアーティスティックな作風で、エログロもありという感じ。見る人を選ぶ作品かも。

その他、印象に残った作品(順不同)

ネクサス、天才感染症、われらはレギオン、六つの航跡、そしてミランダを殺す、誰がスティー ヴィ・クライを造ったのか、巨神覚醒、狼眼殺手(以上、書籍) レゴバットマン・ザ・ムービー、ダーリン・イン・ザ・フランキス、アベンジャーズ・インフィニティーウォー、ペーパーハウス、ミス・シャーロック、LAST SHIP、マジンガー Z インフィニティー、ブラックパンサー、レディプレイヤー・ワン、ハンソロ、BLEACH、アントマン &ワスプ、カメラを止めるな、ヴェノム、ボヘミアン・ラプソディ(以上映像作品)

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