No.450 (Web版100号)3
さよならヨコジュン先生!横田順彌を偲ぶ
中村達彦
1月から大河ドラマ「いだてん東京オリムピック噺(ばなし)」がスタートした。今度の大河ドラマは、オリンピックをテーマに明治末と昭和中期それぞれの時代を描く意欲作である。
前半の主人公、マラソンランナーの金栗四三を主人公にした明治末の話には、日本初のSF作家押川春浪(おしかわしゅんろう)が中心となったバンカラのスポーツ振興集団天狗倶楽部(てんぐくらぶ)が絡んでいる。
その型破りさは、第1話から劇中で語られており、また柔道の父であり、日本人のオリンピック参加に大きな影響を与えるレギュラーの嘉納治五郎を後押ししている。第3話ラストには、天狗倶楽部がいかに型破りであったか、現代の我々に現在も残る資料で解説されている。
ドラマには、春浪も登場しているし、彼の親友で早稲田大学の野次将軍とその名を知られた吉岡信敬も姿を見せている。春浪が編集に関わった雑誌「冒険世界」も劇中に登場している。
天狗倶楽部のメンバーもオリンピックに絡んでおり、今後しばらく金栗とのドラマで登場するはずだ。天狗倶楽部が大河ドラマのみならず歴史ドラマに登場したのは、本作が初めてであるはずだ。
私が天狗倶楽部を初めて知ったのは、横田順彌(よこたじゅんや)の小説「火星人類の逆襲」(1988年刊行)である。明治末期の帝都東京に、かつてイギリスを襲った火星人が攻めてくる。日本の危機、押川春浪と天狗倶楽部の面々が迎え撃つ。
また横田は、同書の少し前に會津信吾との共著で「快男児押川春浪」なるドキュメントを発表し、日本SF大賞を受賞している。
同作の後も、横田は明治時代を舞台にした創作や研究を多数続けており、その中で天狗倶楽部を盛んに取り上げてきた。複数の出版社を通しており、一種のライフワークと言っても良い。
もう1人の主人公で、鵜沢龍岳を登場させた別の明治SFシリーズもあり、春浪や天狗倶楽部はそちらでも登場し、龍岳の頼もしい協力者として活躍している。
私はドラマを観ながら、横田を思い浮かべた。
最近、氏は病になりがちで、著作は御無沙汰しているが、元気で「いだてん」を観て、春浪や天狗倶楽部が実写化された姿に感銘を受けていると思っていたが。
しかし、第2話の後、手に取った新聞にて、今年の1月4日に病気で亡くなったとの訃報を知る。73歳の死。
せめて、あと1ヶ月、長生きしていればと、残念に思えてならない。
自分に影響を与えた人が、次々に亡くなっているが、新たに1人鬼籍に加わった。
横田順彌は1945年に生まれた。ヨコジュンの愛称で慕われている。
幼い時にSFを知り、法政大学の落語研究会に身を置きながら、有名なSFサークルの1の日会で活動した。横田をモデルにしたキャラクターが平井和正による「超革命的中学生集団」に登場している程である。
その後、自身の手でSFファンジンを発行したり、独自の活動を続けてきた。
このあたりは自伝の「横田順彌のハチャハチャ青春期」に詳しく書かれている。同書は2001年に東京書籍から発表されたが、落語研究会の活動や1の日会のこと、就職について、自分の創作や、大御所小松左京らSF仲間たちと付き合いについて、詳しく記されている。
70年代に入ってから、創作でデビューを果たすが、当初は、落語の影響もあって、ハチャメチャな駄洒落を飛ばしたSFが中心となる。
学生時代に押川春浪の「海底軍艦」を読んだのがきっかけで、以後、海外SFに力を入れる他のSF仲間とは一線を画し、古くからの日本の古典SFの収集研究にも力を入れてきた。
それはSFマガジン誌上で「日本SFこてん古典」として連載され、好評を博し、単行本化されている。全3巻、日本のSFを知る上で貴重な研究であり、高い評価を得ている。
その後、80年代後半から本格的に明治SFの創作に取りかかるが、併せて古書収集、明治研究家の顔を併せ持ち、それを題材にした作品作り、加えてSFの入門書の編集も行い、日本SFの興隆に一役買った。
作品は、ハチャメチャな内容に笑ったが、明治SFについては当時の空気が出ており、考証や落ちの付け方についても工夫し、読後、読者にちょっと考えさせる余韻を与えている。明治時代を生きる人の息遣いが伝わってくる。
横田は、日本SF大賞を受賞したり、95年に発表した「百年前の二十世紀 明治・大正の未来予測」が同年の高校課題図書に選ばれたりしている。しかし、著作は多いとは言え、全てが正しい評価を受けているとは言い難い。
「火星人類の逆襲」は映像化の企画があったが実現に至っていない。鵜沢龍岳を主人公とするシリーズは、NHKの時代劇でドラマ化されても成り立つ内容である。
作品が読継がれること、再評価されることを希望したい。そして横田の死はショックであるが、ありったけの感謝を込めて送り出したい。
加えて、死後の春浪や天狗倶楽部をはじめ、親しい人たちとの対面を祈りたい。
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