No.452(Web版102号)3
「幻魔大戦」
福田淳一
この作品は、『週刊少年マガジン』(講談社)に1967年の18号(4月30日号)から同年の52号(12月24日号)まで連載された作品で、宇宙の破壊を目的とする幻魔大王に、地球のエスパーたちが戦いを挑むというスケールの大きなSF作品になる。原作者にSF作家の平井和正を迎え、石ノ森章太郎と当時の『週刊少年マガジン』の編集長である内田勝との三人で練り上げ誕生した。
また、この1967(昭和42)年は永井豪がデビューした年であるが、この「幻魔大戦」の連載が開始された頃は、まだ石ノ森章太郎のアシスタントをしていた。よってこの1巻目には永井豪がバックを描いているページが多数ある。連載一回目のサイボーグ兵士ベガの背景に描かれている幻魔大王のアップの顔などがそれになる。また、東丈が漏れた野球部のメンバー表には、石ノ森の遊び心により当時のアシスタントの名前が使われている。
物語は、トランシルバニア王国のプリンセス・ルーナが遠い宇宙の彼方からのフロイのテレパシーにより“幻魔”の存在を知り、襲い来る幻魔の侵攻に対抗するため、サイボーグ兵士ベガとエスパー戦団を組織するため活動を開始するところから始まる。その中で主人公の東丈は、幻魔との戦いの中、やがて超一流のエスパーへと成長していくのだが、幻魔の力は強大で、地球のエスパー戦団は窮地に追い込まれてしまう。ラストでは、幻魔の地球司令官のシグが集結した地球のエスパー戦団に対し、月を地球に向かって落下させるという攻撃を開始する。不気味なドクロを浮かべ地球に接近する月と、エスパー戦団が対峙する場面で残念ながら未完となってしまった。
このままでは、月はロシュの限界を越えたとき砕け、地球も壊滅的な被害を受ける事になる。地球のエスパー戦団の敗北を暗示したラストシーンは、マンガ史上インパクトがある名場面となった。
石ノ森章太郎は、この「幻魔大戦」以前に「ミュータントサブ」を中心に超能力をテーマにした作品を多数描き、超能力を画として表現するテクニックを向上させていた。そして、この「幻魔大戦」では、テレパシーやサイコキネシスなどの表現方法をさらに向上させ、迫力ある超能力戦を描き出し、一級のSFコミックに仕上がっている。
この「幻魔大戦」本格的なSF超大作であるため、「残留思念」や「人間ノヴァ」「絶対0度」等のSF用語が飛び出し、当時の少年マンガ誌では難解であり、少し早すぎた作品であったことだろう。
そして、『週刊少年マガジン』での連載終了から4年後の1971(昭和46)年、SF専門誌である『SFマガジン』の11月号から「幻魔大戦」の続編になる「新・幻魔大戦」を連載することになる。物語は、幻魔の侵攻により壊滅した世界から始まる。生き残ったエスパーたちは幻魔に対抗できる強力な超能力者の家系を生み出すため、タイムリーパーのお時を江戸時代へと送る。それにより「幻魔大戦」は時空を超えた新たな展開を迎える事になる。この作品は、“劇画ノヴェル”と銘打たれ、小説と劇画をミックスした実験的な作品であったが、残念ながらこちらも未完になってしまう。
その後平井和正は「幻魔大戦」「真・幻魔大戦」などの「幻魔シリーズ」を次々と小説で発表し、また石ノ森章太郎は1979(昭和54)年、新創刊したSF専門のマンガ雑誌『リュウ』(5月20日発行)に、「幻魔大戦ー神話前夜の章」の新シリーズを描き、「幻魔大戦」はさらに大きな世界観を持つ超大作へと成長していった。現在、石ノ森章太郎の元アシスタントで弟子の早瀬マサトと、平井和正の信頼が厚い脚本家七月鏡一の手によって、過去の幻魔シリーズを包括し、「幻魔大戦」の完結を目指した「幻魔大戦Rebirth」をWEBにて連載中である。
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