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No.456(Web版106号)1

「100分で名著」についてあれこれ

by 渡辺ユリア

 7月の初め、新聞の番組表を見て私は驚きました。<100分で名著>で小松左京「地には平和を」の文字を。予約しました。7月は小松左京スペシャルと題して 1地には平和を  2日本沈没  3ゴルディアスの結び目  4虚無回廊  が放送されるとの事です。司会は伊集院 光さんと安部 みちこさん。そしてゲストに評論家の宮崎 哲弥さん。「地には平和を」の内容とは・・1945年10月 15才の少年兵、河野康夫は長野県の山の中を歩いていた。その世界では、大東亜戦争は終わっていない。米英軍は飛行機で本土を爆撃している。8月15日の天皇陛下のお言葉の放送は阻止され、放送局は軍に乗っ取られ、日本政府は軍人が総理大臣になった世界。戦争はまだ続いている世界。そして10月、再び本土は飛行機などで爆撃されている。
 本土防衛隊の黒桜隊の一員、河野康夫は、本土決戦にそなえた大本営と皇居があるという信州をめざして山の中をずーっと歩いている。追手の爆撃機がもうじきやってくる。康夫は自決をしようと決めた時、そこにtマンと呼ばれる男が康夫の前に突然現れた。tマンは「いいかい、君。この世界は間違っている。戦争は終わったんだよ」と言う。そして康夫の前に白い大きな布を掲げ、そこに戦争の終わった世界の映像を映す。「これが本当の歴史なんだ・・・」とそして自分は時間管理局の捜査員だと告げる。だが、康夫は「お前らにそんな事を言う資格はない。」「もしそうなら僕たちは何のために戦い、そして死んでゆくのか」とtマンに問い詰める。・・・ここで作者の小松左京はSFでしか表現できないものを小説で私たちの前につきつけたのではないか・・・と私は思っています。それはヒストリカル・イフとパラレルワールド もし、1945年8月15日に戦争が終わらなかったら・・・と言うテーマ。そしてそこで人間はどんな事を想い、どう行動するのか・・・と言うモチーフ。
 ここで1945年8月15日当時、小松左京さんは14才で終戦を迎えたそうです。康夫とほぼ同じ世代。13才、14才の頃はいずれ自分も戦場に赴くことになるだろう、と言う予感をもっていたかもしれません。だからこそ康夫の心の叫びが生々しく読者に伝わってきます。この作品は1961年に発表されました。高度成長期の日本人にむけて。我々は戦後、何を手に入れ、そして何を失ったのか・・・それをSFの形で私たちの前に提示したのではないか、と私はおもいます。
 では、この辺で。                
             yullia 2019.7.10

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