« No.456(Web版106号)3 | トップページ | No.457(Web版107号)2 »

No.457(Web版107号)1

アニメが日本でもっとも知られた2つの出来事

中村達彦

 ルナティックの次の号は、アニメを特集するとのこと、楽しみである。
 NHK朝の連続TV小説はちょうど100回目になる現在放送中の作品は「なつぞら」。戦災に遭った少女が北海道の牧場に引き取られ、成長後、「ポパイ」や「ファンタジア」と言ったアメリカの作品を観て、アニメに興味を持ち、東京のアニメーション会社に入って奮闘する物語である。
 NHKは、100回目となる朝の連続TV小説ということで、キャストにこれまでの朝の連続TV小説で主演した人を多数充てている。6月からはアニメーション制作現場が舞台であり、それを反映して、OPや劇中のそこかしこにアニメを用いている等の試みを行っている。
 当時の、昭和30年代の東京街並みも再現されている。
 主人公の奥原なつ(演・広瀬すず)が東京の東洋動画の入社試験に合格、同社が手がける漫画映画に関わり、仕上げから動画、作画を任されるようになっていく。ドラマでは、声優が声を吹き込む部分も描かれている。
 また、なつの面倒を見た北海道牧場の家族の話が出て来たり、戦争で散り散りになった実の兄妹の話があったりして飽きさせない。現在、視聴率は20パーセント前後。
 なつが最初に手がける漫画映画は「白蛇姫」。彼女が勤める東京のアニメーション会社、東洋動画は東映動画(現・東映アニメーション)、「白蛇姫」は「白蛇伝」がモデルである。彼女を温かく見守る先輩、同僚や後輩には、森やすじ、大塚康生、高畑勲、宮崎駿等がいる。彼らは、東映動画にいたが、やがて活躍の場を外に見出し、幾つかの傑作アニメに関わっていく。彼らをモデルにしたアニメーターが登場している。名前こそ違うが、言動やアニメに対する姿勢から、誰が誰だかわかる。
 他に小田部羊一は、OPでアニメーション時代考証に名前を出している。なつにも、モデルになった女性アニメーターがいるらしい。
 これまで、東洋動画は劇場作品を手がけていたが、7月下旬の放送からTVアニメにも関わっていく。舞台は昭和38年。ちょうど手塚治虫の虫プロ「鉄腕アトム」がヒットした頃だ。
 なつたちは、虫プロと同じ低予算かつ限られた時間で済むTVアニメ作りを余儀なくされる。劇中で、「鉄腕アトム」の映像と共に同作に対抗する企画が提案される。
 「なつぞら」は9月末まで放送されるが、当時の作品をモデルにしたアニメがまだ描かれるであろう。
 そう言えば、NHKの「歴史秘話ヒストリア」では1月放送の回で、虫プロを立ち上げた話や「鉄腕アトム」の放送を取り上げ、アニメーションスタジオを立ち上げた手塚治虫の苦悩が特集されていた。
 昭和30年代、アニメ会社を舞台にするなど「なつぞら」は思い切った試みに見えるかもしれない。しかしNHKは昔から漫画やアニメに一定の理解があった。朝の連続TV小説やその他のドラマで漫画家やそれを見守る人を主人公にした作品は、前から幾つもあった。
 「なつぞら」で描かれた時代から数十年後の現在、様々なアニメ作品がTVや映画館で上映され、ヒットが続いている。
 作品が多い割に、アニメーターの生活が改善されない等の問題もあるが、ジャパニメーションという言葉が出るほど、日本はアニメ大国である。
 しかし、7月18日、凶報が襲った。京都にある京都アニメーションのスタジオが放火され、大勢の死傷者を出した。アニメスタジオが放火されるとは、これまで無かった前代未聞の事件であり、死傷者の数も桁違いである。
 京都アニメーションは、京都から始まった異色のアニメーション会社である。80年代に下請けから始まったが、2005年から、オリジナル制作を手がけるようになった。
 2006年には、ライトノベルのSF「涼宮ハルヒの憂鬱」をアニメ化させている。以後、「けいおん」「響け!ユーフォニアム」等のヒット作を生み続けて来た。
 その丁寧な作品作りから、TVや劇場作品で多くの作品を手がけており、京アニファンは少なくない。
 京アニは、魅力あるキャラクター作りに定評がある。更に細部や背景美術に力を入れ、地元やその周辺を舞台にした話題作を念頭に入れ、その結果、聖地として扱われている場所も少なくない。
 ここ数年の間、手がける作品も多かった。来年以降の新作も準備中であった。
 しかし今回の事件で、新作の予定は未定になり、何より死傷したベテランアニメーターは、20代の若手から60代まで膨大な数になる。京アニが、日本のアニメ界が蒙った被害は計り知れない。
 亡くなった人を悼む声、事件に荒げる声は各地から寄せられている。
 突然の事件、何と言っていいか。未だ詳細や事件の動機が明らかになっていないとは言え、理不尽である。
 しかし事件の後、東京や他の地方、外国からも、大勢の人が京都を訪れ、弔問や献花を行ったり、ネットで会社や亡くなった人のために使って欲しいと資金集めが続いていると言う。アニメを愛する者の良心の表われではないか。
 何より、京都アニメーションとこの事件で傷を負った人の回復を心から祈りたい。

|

« No.456(Web版106号)3 | トップページ | No.457(Web版107号)2 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« No.456(Web版106号)3 | トップページ | No.457(Web版107号)2 »