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No.460(Web版110号)2

 人気漫画家の死に伴う、チャンピオンを支えた人たち

 中村達彦

 前号後記にも書いてあったが、漫画家の吾妻ひでおが亡くなった。享年69歳。
 北海道出身。板井れんたろうのアシスタントを経て、秋田書店の雑誌まんが王でデビューし、以後、少年チャンピオンを中心に70年代に秋田書店の雑誌で活動を続け、代表作に「二人と五人」「チョッキン」などがある。
 石ノ森章太郎から影響を受け、その作品のTV化ではデザインなどを提供している。
 私は、少年チャンピオンで、「チョッキン」を読んだことがある。大富豪の息子が更にお金を手にいれるため、日常生活でいかにお金を使わないか、せこい生活を描いた作品である。
 その後、吾妻は秋田書店以外の出版社に活動の幅を広げ、78年には不条理をテーマにした「不条理日記」を発表し、同作がSF大会で星雲賞を受賞。
 以後、SF誌から作品を依頼されるようになり、「パラレル狂室」などの作品もある。新井素子の「絶句」などSF作品のイラストも手がけていく。SF作家やイラストレーターの友人も多く得ている。
 そのタッチは独創的で、美少女、ロリコンの作品でも注目され、固定のファンがつき、何冊かの雑誌で特集が組まれた。
 彼の作品、「おちゃめ神物語コロコロポロン」「ななこSOS」がアニメ化されている。また彼のキャラクターをゲストで使った他作家の作品もある。
 しかし80年代末に入ってからは活動が低迷期に入り、作品の締め切りに、アルコール中毒が加わり、逃亡してしまう。
 1989年から92年にかけ、二度も漫画からも家族からも逃亡し、ホームレス生活を過ごす。結局、見つかって、連れ戻されてしまう。その後、重度のアルコール依存症になり、三鷹の施設でリハビリを受ける。
 私も90年代半ばに、友人から吾妻秀夫の近況を聞かされ、「そう言えば、最近、作品見ないな」と思っていたが……。
 2005年にイースト・プレスから「失踪日記」を発表した。
 自身のホームレス生活が描かれているが、街の中をうろつき、雪中の山中で、ビニールシートを使った即席の毛布で寝た。シケモクを集めたり、酒瓶の底に残った残り酒を集めて飲んだり、コンビニの裏口から賞味期限の切れた料理の入った袋を集めるなどをおくった。
 一度目は警察に職務質問された後、漫画に詳しい警官に素性を知られ、二度目は街をふらついていた時に手配師に声をかけられ、ガス管工の仕事に就く。仕事をしながら描いた漫画を描き、社内報に載るなどしたが、手配師にもらった自転車が盗難車であり、家族に連絡される。その後もガス管工の仕事は続けるが、人間関係により、結局、辞めてしまう。
 しかし劇中に、悲壮感は漂ってこない。描かれているホームレス生活はどこか楽しんでいるように感じられる。
 「失踪日記」が話題になり、2013年にはアルコール依存症を治すため、入院した施設とそこで出会った人々との顛末を描いた「失踪日記2アル中病棟」を発表した。
 また2009年には、若い頃、板井れんたろうにアシスタントで入ってから、秋田書店でデビューするまでを描いた自伝的作品「地を這う魚ひでおの青春日記」を角川書店から発表している。吾妻以外にも漫画家を志した者が何人か登場し、その顛末も描かれているが、吾妻以外の登場人物は、動物擬人化され、名前も伏せられている。
 「失踪日記」以外に、イラスト付きで日記をHPで書いたり、時々、漫画を雑誌に載せたりして、最近も活動を続けていたのだが……。
 吾妻をデビューさせたのは、
秋田書店の壁村耐三である。
 壁村は、少年チャンピオンの編集長に就き、200万部を超える70年代のチャンピオン全盛時代を築いたことで知られる。常識を嫌い、強面の性格で知られ、アルコールを手放さないなど独自の編集生活を貫いた。吾妻は「失踪日記」他の著作で、その人柄について、触れている。
 壁村の元には、いろいろな編集者や漫画家が集まっていたが、その中から、優れたヒット作を排出させた。
 他漫画家の「ブラックジャック創作秘話」や「激マン!」「愛ー…しりそめし頃に…満賀道雄の青春」といった作品にも、壁村は登場している。
 70年代に、チャンピオンで「エコエコアザラク」で、ヒットを飛ばした古賀新一も、怪奇漫画家の証言集「怪奇まんが道」で語っているが、壁村に強引に連載をさせられたそうだ。
 吾妻ひでおがチャンピオンに描いていた時期に、萩尾望都(この原稿を書いている時、文化功労者として表彰されるとの噂が)に光瀬龍原作の「百億の昼と千億の夜」を漫画化させている。その後も、光瀬龍の原作で、SFではないが「ロン先生の虫眼鏡」を漫画化している。作画は後にグルメ漫画の大ヒット作「ザ・シェフ」を手がける加藤唯史。
 70年代当時、私は小学生〜中学生であったが、最も熱心に読んでいる漫画雑誌は、チャンピオンであった。SF、スポ根、医療、ギャグ、怪奇、友情など様々なテーマの作品があった。
 98年に壁村も、光瀬龍も亡くなり、板井れんたろうも、古賀新一も、加藤唯史も吾妻の前にこの世の人では無くなった。
 チャンピオンは、部数が落ちたものの、現在も続いている。
 最近では、チャンピオンREDが、昔の漫画を次々にリメイクさせて注目されている。その中に松本零士作品があるが、この原稿を書いていると、松本零士が病気で倒れたとの報が。

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