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No.461(Web版111号)2

 SF作家大御所の死を偲ぶ

 中村達彦

 前号でも書かれていたが、SF作家の眉村卓が亡くなった。享年85歳。その少し前に、イラストレーターの和田誠が亡くなっている。
 和田は、様々な著名人とのイラストや映画監督、対談や映画評など多種多芸であるが、亡くなるまで現役であった。
 星新一らのSF作品イラストを手がけた。
 一方、眉村は大阪出身。会社勤めをしながら宇宙塵でのファンジン活動を経て、1961年に早川書房のコンテストで佳作入選デビューする。
 以後、ラジオパーソナリティや句作家の顔も持つ他に、亡くなるまでSFを中心に専業作家として創作を続けた。
 初めての単行本「燃える傾斜」、以来、星雲賞を受賞した79年の「消滅の光輪」。他にも「夕焼けの回転木馬」「引き潮のとき」などの受賞作品がある。
 氏の代表作と言えるのが、1971年から発表された司政官シリーズ。
 遥か未来、地球人類が多くの植民地惑星を収めていた時代を舞台にしており、軍に代わって惑星を統治する官僚の物語。
 配下のロボットを操り、植民地の住人と融和を心がけるが、植民地惑星は星ごとに異なり、司政官は様々な問題に悩まされる。この体制は150年以上続き、スケールの大きなシリーズとして成立した。
 それぞれ司政官の物語があり、特定の主人公は登場しない。
 95年までにSFマガジンで長編2本と中短編7本が書かれ、「消滅の光輪」や「引き潮のとき」も含まれる。
 80年代に、ツクダ・ホビーからシミュレーションゲーム化されている。
 眉村の最も有名な執筆活動は、少年ドラマシリーズの原作を手がけたことであろう。
 少年ドラマシリーズは、1970年代に平日の夕方、NHKで20分〜25分、日本の小説、時には海外ドラマも放送され、SFも取り上げられている。
 平凡な少年が主人公で、常識では考えられない怪奇な事件に巻き込まれるストーリーだ。
 毎日、刻々と変化するドラマの展開に釘付けになり、「さあ次はどうなる」と次回が待ち遠しかった人もいるだろう。影響を受けたクリエーターもいる。
 うち74年「まぼろしのペンフレンド」、75年「なぞの転校生」、77年「未来からの挑戦」「幕末未来人」の4本が眉村の原作による(ちなみに池上季実子、紺野美沙子、古手川祐子が出演。ドラマの中で重要な役を演じている)。
 もう40年以上前の作品であるが、少年ドラマシリーズを扱ったムック本が出たり、NHKアーカイブスで「なぞの転校生」「未来からの挑戦」が特集放送されている(7年くらい前に放送された「未来からの挑戦」の回には、紺野美沙子も出演し、当時のことを語ってくれた)。
 2000年のSF大会では、少年ドラマシリーズの部屋と言う企画が催され、「なぞの転校生」のキャストが出演し、思い出を語っている。
 また、「なぞの転校生」などは、少年ドラマシリーズ以外でも設定の一部を変えて、TVドラマや映画化された。
 眉村は、他にも「地獄の才能」「天才は作られる」「二十四時間の侵入者」「白い不等式」「ねじれた町」「とらえられたスクールバス」「侵入を阻止せよ」などの多くのジュブナイル作品を手がけた。
 大筋は、主人公の少年が、未来やパラレルワールドからの非日常な世界にはまりながらも、状況を脱するため行動を起こす様子が丁寧に描かれ、終わりには、主人公を通して、読者にテーマが投げかけられる。
 うち「ねじれた町」は、不思議な力が蔓延する城下町に転校した少年が、ある日、超能力に目覚め、その力を使うものと対決する物語。映像化されたことはないが、少し設定を変えれば、現在でも通用すると思う。
 他にも眉村作品で、86年「時空の旅人」、87年「迷宮物語」、2012年「ねらわれた学園」がアニメ化された。
 最近の執筆活動でよく知られているのに、夫人とのショート・ショートのやり取りがある。
 夫人は眉村の創作活動の理解者であり、読者であった。眉村が作家になってしばらくして、不治の病に侵された。眉村は夫人のために毎日ショート・ショートを書き続け、一時、回復の兆しを見せた。
 夫人は2002年に亡くなったが、その話は美談となってTVなどで紹介された。
 また書かれたショート・ショートは「僕と妻の1778話」「妻に捧げた1778話」で取り上げられ、2011年には夫婦の物語が映画化され、ヒットしている。
 前述したように、眉村は亡くなるまで創作を続けた。うち2013年に書かれた「自殺卵」は印象深い。
 短編集で、タイトルの自殺卵は、孤独な男性を主人公にした近未来の話。ある日、男に「死んでください」と書かれた手紙と針を刺すと即座に死ぬことのできる卵が届けられる。町の人口は急激に減っていく。変化する社会。男の選択は?読み終えて、現在の高齢化社会に有り得るかもしれないと思った。
 他にもショート・ショートや企業を舞台にした小説を発表したり、SFアニメのシナリオを書いたり、幾多の小説コンテストの審査員を務めている。
 審査のコメントは常に辛口で、特にSFに厳しい目を向けたことが印象深い。
 突然、別れが訪れるとは……。また一人、日本SFを支えた大御所が世を去った。
 今年は、眉村以外にも、SF関係者が亡くなっており、それも含め哀悼を述べたい。

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