No.467(Web版117号)1
日に日に拡大する新型コロナウイルス
中村達彦
まさか去年の年末には、7か月後にこうなっているとは想像していなかった。
2020年は良い年になると予想していたが。
現在世界を席巻している新型コロナウイルスである。
最初に中国武漢でその第一報が流れた時、誰もがこれまでのウイルス同様、2、3ヶ月で収まると思っていたであろう。
しかし日に日に被害は拡大するばかりで、世界でも、日本でも感染者や、死者がうなぎ上りに増加するようになった。
朝も夜もそのニュースがトップを飾り、政府からの特別番組が流れることもある。
7月、日本でも感染者が2万近く、死者は千人を越えようとしている。
我々の生活にも、新型コロナウイルスの制約が降りかかっているに違いない。
つい最近まで、外へ出かけると、伝染を防ぐため買い物や散歩でさえ制限され、仕事も、自宅から会社と電話で結びついたテレワークが増えている。
各都道府県からの休業要請に伴い、映画館(公開目前、延期した映画も少なくない)や図書館などの施設、更に多くの店舗が閉ざされた。
TVも、プロ野球や大相撲などのスポーツが延期され、ドラマやバラエティも次々にストップし、スタジオでの収録も控えられた。
外では、人の姿はまばらになり、その多くがマスクをしているのが目につく。東京をはじめ都市圏では、これまで目まぐるしい人の流れが当たり前であったが、現在は、人の姿は信じられないほど少なくなった。
現在も、世界で産業が低迷し、経済は悪化するばかり。
交通機関も国内外の運用に支障が起こった。
出版物にも影響が出ている。
人が集まるイベントは中止を余儀無くされ、ご存知の通り。2020年最大のイベント、東京オリンピック、パラリンピックは来年に延期された。
コミケをはじめ同人誌イベントは次々に中止となり、今年のSF大会はやらないかも。
日本も、過去に疫病による被害を受け、ほぼ100年前にも世界で流行ったスペイン風邪が上陸し、大きな被害を受けている(ヨーロッパでは、古代よりペストが何度か発生し、大勢の死者を出している)。
中国などは被害が収まりつつあるが、日本を含め、世界ではまだ続いており、日本より大きな被害を出している国もあるが、それぞれの対応を行っている。
ウイルスは視認できず、空中を漂い、そっと人に感染し、発病するから厄介である。病院などで集団感染が相次いだ。
更に感染拡大を恐れ、国内外で人々の間に差別などの問題を起こしている。
混乱は続くばかり。
現在も一部の規制は解除されず、どう過ごすか、困っている人もいるだろう。
くどいが、昨年末には考えられなかった。正にSFで描かれた光景である。
こうしたウイルスの脅威を描いた小説や映画は、過去に何度も作品になった。
現在、ノーベル賞作家アルベール・カミュの「ペスト」が注目されている。
アルジェリアの港町でペストが発生する。町の人々は次々に死に、様々な人が協力して難病に挑む。ペストが収まるまでの話である。人々の心情や病に対する理不尽さが細かく描かれており、新型コロナウイルスに通じる所が多いらしい。
小松左京の「復活の日」も注目されている。
1964年、皮肉にも東京オリンピックの年に書かれたSF小説だが、東西冷戦でスパイが持ち出した細菌兵器が事故で外に漏れ、やがて南極を除く世界全土に広がる。
最初、中国や欧州で家畜の死や交通事故が起こり、やがてアメリカや日本でも風邪や急死があり、無視できないものに、春を過ぎ、夏には人類のほとんどが死滅する。
南極にいた人々は生き残り、存続を図るのだが……。
単なる風邪に思える脅威が、我々の日常にそっと侵入する恐ろしさが伝わってくる。
と言っても56年前の小説で、今回の新型コロナウイルスと比べてみると、書かれていないことも多々あるが。
他にも、高嶋哲夫の「首都感染」、小川一水の「天冥の標II 救世郡」がある。
我々はどうやってこの時期を過ごせばいいのだろう?
「良い」と言うまで、家に籠って、可能な限り他人との接触を断つ、現在はそれしかない。
しかしやれることはある。
溜まっている映像や書籍に目を通すとか、書けなかった原稿に手をつけるとか、時間はある。探せば見つかるはずだ。
一笑に伏されるかもしれないが、時間があるこの時を逆に利用して頑張ってもらいたい。
現在までに、日本内外で、新型コロナウイルスによる困難な状況下で、自分が出来ることをやっている人の話が聞こえてくる。
悪意もあれば善意もある。物資やお金を寄付する他にも、医療関係者にエールを送ったり、ネットで人々に励ましのメッセージや音楽を伝えたり。
「復活の日」でも、細菌兵器であるとウイルスに関する情報が、アマチュア無線の力で南極へもたらされ、後の伏線となる。
新型コロナウイルスの感染がいつまで続くのか、わからないし、これから世界がどのように変わるかもわからないが、いつかは終わりが来る。
その時に備えていこうではないか。
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