No.469(Web版119号)2
時代を超えて読み継がれる「銀河英雄伝説」
中村達彦
NHKEテレで、月曜日夜11時にアニメ「銀河英雄伝説」が放送されていた。
同作は、田中芳樹によるスペースオペラで、徳間書店で発表され、87年に完結。本編10巻、外伝5巻で構成された(現在は東京創元社から刊行中)。88年から一度アニメ化され、今回は二度目になる。コミックやゲームにもなっており、出版社を超えて版が重ねられているヒット作品だ。
ストーリーは現在から1500年未来、人類は宇宙に広く進出したが、政体は銀河連邦からゴールデンバウム王朝銀河帝国に変わっており、これを良しとしない圧政からの脱出者や亡命者で民主主義の政体自由惑星同盟が樹立。1世紀以上、覇権をめぐって戦いを続けていた。
そんな時、銀河帝国では、姉を皇宮入りさせられた金髪のラインハルト・フォン・ミューゼルが武勲を重ね、頭角を現すようになる。彼の目的は、愛する姉を奪った王朝や権力への復讐であり、彼と志を同じにする人材が集まってくる。
一方、自由惑星同盟にも、黒い髪が特徴で、戦争は嫌いだが、無料で歴史を学ぶため、軍に入ったヤン・ウェンリーが頭角を現し、彼のもとにも人が集う。
ラインハルトとヤン、2人は戦場で出会い、互いを意識し合うようになる。2人により歴史は大きく動き出していく。更に、銀河帝国と自由惑星同盟に挟まれた自治領の暗躍や、かつて人類の活躍の場で、現在は忘れ去られた地球の存在も描かれていく。
「銀河英雄伝説」は、ワープ航法を可能にした宇宙艦船同士の艦隊戦がメインであるが、地表の陣形や補給が、宇宙でも反映されており、またサイボーグやクローン、超能力などの超技術も登場しないし、当時普及していなかったネットや携帯電話も描かれていない。
田中芳樹が精通していないこともあり、ハードウエアについても巻を重ねるごとに薄くなっていく。
そのためSF作家などから、「銀河英雄伝説」はSFではないと辛辣な声が発せられた。
しかしキャラクターの織り成す、采配や謀略を含むアクションや行動、交わされる台詞には、SF小道具を凌ぐ魅力がある。作品では長い宇宙史が語られており、民主主義にも多くの問題があり、両陣営に、良い奴もいれば、嫌な奴もいる。我々の生きる世界に相通じ、考えさせることが多々ある。
「銀河英雄伝説」が始まった82年頃、徳間書店では、荒巻義雄のスペースオペラ「ビッグウォーズ」があった。
未来、太陽系に広がった地球人類が神を名乗る敵と神人戦争になるストーリーで、本編4巻、外伝3巻が発表された。
また鶴書房から出たスペースオペラで、ベンボバの「星の征服者」がある。私は何度も読み影響を受けた。
「星の征服者」は、宇宙人ベーカーマンの1人称で語られる。未来の宇宙で、爬虫類型の種族ソウリア人に地球は攻められ、劣勢に陥る。しかし地球人の青年ノーランドは、新しい地球軍を編成し、反撃を開始する。
司令官に就任したノーランドは、実は超能力者のアランや他の新進気鋭の若者を友とし、他の星々の種族と同盟を結び、ソウリア人と戦い版図を広げていく。次第に銀河帝国を巡る壮大な秘密が眼の前に明かされていく。スケールが大きい物語だ。
「ビッグウォーズ」や「星の征服者」のような作品と思ったが、「銀河英雄伝説」は独自の面白さを持つ物語であり、3巻が出た後に徳間書店並びにSFアドベンチャーでも看板作品となり、87年に本編終了。翌年、アニメ化され、本編外伝併せて100巻以上の大作になっている。
Eテレで放送された二度目のアニメは、スタッフ・キャストが違うが、ストーリーの流れは87年の原作通りであり、大まかな変更は無い。ちなみに9月までEテレで放映されたアニメは原作の2巻までの分だ。
「銀河英雄伝説」は、その面白さから多くのファンを得た(私もその1人だ)。
最初1巻が出た時、ヒットするかわからず、2巻が出た時、10巻の構成が決まったそうだ。最初から10巻の構成でスタートしていたら物語はどう違っただろうか?
また様々な登場人物がドラマを演じるが、対立の焦点とでも言うものを感じさせる。
ラインハルトには幼い時から付き従う腹心の友キルヒアイスがおり、ヤンには養子になった少年ユリアンがいるが、2人は、主人公に忠誠を尽くし、非凡な才能を持つが、その運命は対照的である。キルヒアイスはラインハルトに疎まれたことが間接的になり、2巻で退場となるが、ユリアンはヤンから多くを学び、後半では第3の主人公といえる存在になっていく。
田中芳樹は、マンガやアニメのファンである。「銀河英雄伝説」完結後のあとがきで続編は書かないと明言した上、執筆中に来た読者からの「キャラの誰々を殺さないでくれ」との助命嘆願についても丁寧にコメントしており、読者と真摯に向き合っている。
「銀河英雄伝説」が完結した後も、南アジアをモデルにしたファンタジー戦記「アルスラーン戦記」や現代日本を舞台にした伝奇「創竜伝」、性格が悪い美貌の女性警察官僚が怪奇生物を叩きのめす「薬師寺涼子の怪奇事件簿」などのシリーズを書き、ヒットを飛ばしている。キャラクターは魅力的で、文章は字でマンガを読んでいるといっても良い。
他にもヨーロッパや中国を舞台にしたり、新たにSF世界観を構築した小説なども発表しており、「銀河英雄伝説」1本のヒットに終わっていない。他にもアニメ化された小説は多くあり、その影響を受けた後続作家は少なからずいる。
現在、田中は執筆途中の作品について、続編を書いている。いつまで書くか不明だが、「銀河英雄伝説」はこれからも読み続けられていくだろう。
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