No.473(Web版123号)2
55年目のウルトラマン
中村達彦
昨年2020年は、新型コロナに苦しめられた1年で、他にアメリカ大統領選挙や香港民主化の問題があり、騒動は現在も続いている。また多くの方が亡くなった。ご冥福を祈りたい。11月23日にSF作家で小林泰三が亡くなった。58歳。
1995年に「玩具修理者」でデビュー、以後創作活動を続け、SF以外に「アリス殺し」など推理小説や「脳髄工場」などホラー小説も多数発表した。短編から長編まで幅広く、残酷で猟奇的描写や記憶を巡る作品を書いた。1998年「海を見る人」、2004年「AΩ超空想科学怪奇譚」、2010年「天体の観測について」、2012年「天獄と地国」などの作品があり、2度星雲賞を受賞している。
まだまだ活躍してもらいたかったが。
亡くなる前に「ウルトラマンF」と言う作品を発表していた。2015年にSFマガジン誌上で連載され、翌年単行本化され、2018年には文庫化、また2017年に星雲賞を受賞した。
物語は、「ウルトラマン」の世界観で語られ、ゼットンとの戦いが終わってから、科学特捜隊を中心にすすむ。
世界各国は、怪獣の残骸から各々兵器の開発にしのぎを削った。科特隊は、未知の技術メテオールを用いて、ウルトラマンをベースにした強化服ウルトラアーマーの開発を進め、かつてウルトラマンだった科特隊員早田進は人体実験に従事させられていた。
実験に異議を唱える科特隊の富士明子は、かつてメフィラス星人に仕掛けられたナノシステムの仕組みが作動、巨大化してしまう。また外国の天才学者インペイシャントが行う巨人兵士計画研究からの圧力、次々に世界を超えて来襲する侵略者と凶事が相次ぐ。
物語の主人公科特隊の井出光弘は苦渋の決断で、ウルトラアーマーを武装強化し、巨大化した富士隊員に装備することに。
ウルトラマンFの誕生である。
人類の生み出した科学技術がきっかけで生まれた侵略者が街を襲い、科特隊やウルトラマンFは立ち向かう。ウルトラマンに似た敵、通常世界を超えた敵との戦い。
最後、ハイパーゼットンとの対決。戦いが終わってから、井出に送られるウルトラマンからのメッセージとは?
イラストは円谷プロの後藤正行が担当。
読んでみて、残酷的な描写があり、それは「ウルトラマン」の世界観とそぐわない。
しかし、後に作られる「ウルトラマンネクサス」や「ウルトラマンメビウス」の敵や登場人物も絡んでくる。キャスト的にもニヤリとさせられる設定もあり、ウルトラシリーズへの深い想いを感じてしまう。
最後まで面白く読ませてもらった。
小林泰三は、円谷プロとSFマガジンが2015年にコラボしたが、そこでも「ウルトラマンギンガS」の外伝「マウンテンピーナッツ」と言う小説を書いている。その時、他にも複数の作家がウルトラシリーズを舞台にした作品を発表し、「多々良島ふたたびウルトラ怪獣アンソロジー」で書籍化された。
ちなみにウルトラシリーズの第1作「ウルトラQ」もSF作家クラブが企画に協力し、ストーリーを提供したりしている。
承知の通り「ウルトラQ」と続く「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」は高視聴率の大ヒットとなったが、昨年亡くなったマンガ家の桑田二郎や一峰大二は、放送当時、雑誌でウルトラシリーズのマンガを描き、両氏の代表作の1つになった。まだビデオソフトが普及する前で、読んだ人もいるだろう。
TVの作品をベースにしているが、ストーリーや怪獣のデザインで独自のアイデアを入れることもあった。
昨年の初めに、脚本家の上原正三も亡くなった。上原は「ウルトラQ」以来、ウルトラシリーズの脚本を多数書き、他にも東映などの多くの特撮・アニメ作品を手がけた。傑作と言われる脚本が多くあるが、没になった話も少なくない。
その中には「ウルトラセブン」のエピソードで、「宇宙人15+怪獣35」がある。視聴率もブームも下降気味な時、盛り返しを目指した。「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」の宇宙人・怪獣が大挙して攻撃、ウルトラセブンやウルトラ警備隊が迎え撃つ。監督は実相寺昭雄を予定していたが、没になった。
映像化されていれば注目のエピソードになったであろう。
40年後の2007年、一峰大二に「宇宙人15+怪獣35」はマンガ化された。一部絵柄、設定が合っていないところもあるが、昔の一峰のマンガを思い出してしまう。
円谷プロは一時経営が困難になったものの、持ち直し、近年は「ULTRAMAN」「SSSS.GRIDMAN」と話題作のアニメを発表し、特撮のウルトラシリーズも新作が続いている。現在は半年間の放送だが、2013年から連続している。もっとも「ウルトラマン」と比べ、デザインが用途に応じて次々に変わるなど設定やストーリーフォーマットが昔とは異なるが。
去年放送された「ウルトラマンZ」も話題作となった。
ウルトラQやウルトラマンの怪獣が登場する世界で、Zと言うウルトラマンが活躍する話だが、防衛隊は、セブンガー、ウインダムなどのロボット怪獣を操縦して戦っている。劇中いろいろアイデアで工夫しているので、一度観ていただきたい。
スタッフで脚本・構成で貢献した吹原幸太と言う方がいたが、「ウルトラマンZ」放送開始前に逝去した。
このように昨年はウルトラマン関係のクリエイターが次々に亡くなったが、今年はウルトラマン誕生から55年。
初夏には、庵野秀明企画脚本、樋口真嗣監督の映画「シン・ウルトラマン」が公開されると言う。
ウルトラマンの物語は続いていく。
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