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2021年4月

No.475(Web版125号)1

 アナザーストーリーズに見るSF

 中村達彦

 3月11日、東日本大震災から10年が経つ。その前後にテレビで取り上げたが、また昨年以来、新型コロナが今でも猛威を振るい、ニュースで毎日取り上げている。ワクチンが届いているがまだ収まりそうにない。
 東日本大震災も、コロナがまさか起こると思わなかったが……。
 NHKBSで、2015年からスタートし、火曜日の午後9時から放送しており、木曜午前8時から再放送の番組「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」がある。
 世の中を騒がせた事件を取り上げる内容だが、事件や、余談や後日談について存命者に語ってもらう、3つの視点で語られる異色の構成が目につく。
 取り上げるのは、戦前から最近まで様々な日本内外の事柄で、事件だけでなく、時代を騒がせた出来事やブームなど幅広い。
 太宰治心中やネルソンマンデラ釈放、金大中拉致、東京マラソン、オールナイトニッポン、八時だよ全員集合、「ロッキー」「犬神家の一族」映画化など、いろいろユニークな題材を取り上げている。
 手塚治虫やさいとうたかおと言ったマンガ家も扱い、時折SFの事柄も含まれ、「2001年宇宙の旅」は、キューブリック監督の映画への情念、当時の反響、現在の宇宙開発に与えた影響が伝わって来た。
 去年の9月に取り上げられ、最近再放送されたのが、小松左京の「復活の日」だ。
 番組では、1964年に刊行された「復活の日」について、コロナを先取りした予言の書として取り上げた。当時、小松と共に日本SFを引っ張り、存命の豊田有恒や筒井康隆にも語ってもらい、1980年の映画のシーンも入れている。
 乗客の減った通勤列車、戦場の如き病院と「復活の日」で取り上げられている光景は、現在、新型コロナで眼にする光景だ。
 ウイルスに襲われた世界の様子は、56年後、実際にコロナに見舞われたそれを先取りしたものと語られている。
 伝染病はそれまでも小説を書く背景で、取り上げられていたが、「復活の日」は未来へ向けてのSFの重要な道具で扱われた。
 番組では、ロンドンでペストが発生のニュースに執筆の着想を得たと語られ、そこからウイルスの設定を作っていく。
 小松の創作についての力の入り用は、番組で語られており、執筆時に、アメリカの雑誌を扱っていた施設へ通い、ウイルスに関する資料を集めたそうだ。ただ学ぶだけでなく、独自に設定を作り上げる。
 書かれた小説は、当時のウイルスを先取りしたと小松と親交を結んだ細菌学者は言う。
 その後、「日本沈没」を発表、当時大ヒットし、同作も小松の代表作となるが、95年の阪神淡路大震災は「日本沈没」と同様の光景があり、再建に臨む人々から取材を続けたが、その取材と執筆は長く苦しめる。小松の秘書を務めた乙部順子から様子が語られる。
 また幼少の時の戦争体験が、潜在的に創作の始まりとも言っていた。
 小松は「さよならジュピター」「首都消失」のようなスケールの大きい作品、現在のアメリカを先取りした「アメリカの壁」などの作品を書き続けた。
 東日本大震災の直後、逝去。
 アナザーストーリーズは、他にも首長竜のフタバスズキリュウを扱った回が印象深い。
 1968年に福島県で化石を発掘していた鈴木直少年が新種の化石を発見。その報は、国立博物館にもたらされ、化石は新種の首長竜のものであることが判明。発見者の名をとってフタバスズキリュウと命名され、同時に発掘ブームをもたらした。
 7年後、藤子・F・不二雄はマンガ「ドラえもん」を連載していたが、増刊のエピソードで「のび太の恐竜」を30ページ(他のエピソードは10ページだが)描く。
 のび太は、卵の化石からドラえもんの助けを借りて、フタバスズキリュウの子供をかえし、育てるが、大きくなったフタバスズキリュウを隠すことが出来なくなり、中生代へ連れていくというストーリーである。
 藤子・F・不二雄は恐竜が好きで、その趣味を活かした作品だ。正確にはフタバスズキリュウは恐竜とは異なる首長竜に属するが。
 4年後「ドラえもん」はアニメ化ヒットし、映画化の企画が起こり、「のび太の恐竜」が注目される。藤子・F・不二雄も乗り気で、一度完結した物語の続編を描き、1980年3月に映画が封切られた。
 タイムマシンでフタバスズキリュウが送られたのは、同族のいない土地で。のび太やドラえもんは再び中生代へ。同族のいる日本へフタバスズキリュウを連れて行こうとするが、タイムマシンは故障する、未来人の恐竜ハンターが絡んでくるとトラブル相次ぐ。
 いろいろアイディアを入れており、加筆延長されたストーリーに思えない。
 封切り当日朝はお客が来なかったが、昼から学校から帰った子供が続々とお客で訪れ、大ヒットとなった。
 更に時代は流れ、子供の時に、フタバスズキリュウや「のび太の恐竜」の洗礼を受け、現在、首長竜の研究を続ける女性が現れる。
 そう言えば、豊田有恒の小説「時間砲計画」の続編で主人公たちが中生代末期にタイムスリップさせられ、フタバスズキリュウの肉を食べるシーンがあるが、あとがきで鈴木直に詫びており、また藤子・F・不二雄は76年に「みどりの守り神」と言うSFマンガを描いているが、「復活の日」に相通じているところがあちこちあり、結末も救いで締めくくられている。
 NHKやBSは3月いっぱいで終了する番組が多く、アナザーストーリーズも3月で終わるが、これからもSFを取り上げた番組は幾つもあるはずだ。
 アナザーストーリーズの他にも、SF作家や作品が取り上げられる番組は複数ある。

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