No.476(Web版126号)5
軍艦島の話
加藤弘一
長崎県の近海に浮かぶ端島。人はその形状から軍艦島と呼ぶ。
土砂の流失を防ぐためのコンクリートの護岸。島の中央にそびえ立つ高層アパート群という姿は正に巨大戦艦と言っていいだろう。
島は海底の炭鉱開発の基地として大正時代から開発が始まった。そして大東亜戦争後は国の基幹エネルギー生産地となり、海底への高速エレベーター(当時)や高層アパート(当時)が整備され、危険だが高収入の仕事に人々は集まった。
当時、一般の人たちが街頭テレビの空手チョップに熱狂していた頃、既に三種の神器と言われたテレビ、冷蔵庫、洗濯機を軍艦島の人は所有していたのである。
朝鮮からも出稼ぎの労働者もやって来て、しっかり神器を手に入れて帰って行った。
その軍艦島も、石炭から石油のエネルギー政策変換でその役割を終え、数千人の人々はそこを去り、島は廃墟となった。
「進撃の巨人」の実写映画の撮影現場として使われ、今も見学者が押しかける観光地である。
その軍艦島の最盛期の姿が昭和30年NHKのドキュメンタリーで紹介された。
アパートは台所と8畳間ーいわゆる1Kだがテレビ冷蔵庫洗濯機完備で、床屋や映画館スナックもあり、当時としては豊かな町の様相を映していた。
ところが、鉱山の採掘のシーンになるとフンドシ一丁の男がつるはしを持って狭いトンネルの中で裸電球の灯りを頼りに這いずりながら鉱石を採掘する悲惨な映像になっていた。
これに当時の軍艦島の元鉱夫達が声を上げた。
当時の坑道の高さは最低で1.2mに定められ、制服も支給されていたので半裸で坑道を這いずることはなく、つるはしではなく削岩機で岩を掘っていたと。
さらに、軍艦島では坑道内にガスが溜まる事があるので裸電球ではなくキャップランプを使用していたので、別の鉱山のシーンが使われていたのではないかという声が上がった。
悪いことに、この映像が朝鮮に流れ半裸の男は朝鮮からの徴兵された労働者で過酷な労働を強いられた、あれは地獄島だったという話になってしまった。
今も韓国で行われている裁判にはそんな根も葉もない話が根底にあるようだ。
ちゃんと丁寧に映像を作っておけばこうはならなかったのに、とんだとばっちりをくらった軍艦島である。
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