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No.477(Web版127号)3

 1989年のアニメからSFを視る

 中村達彦

 コロナ下、映画「シン・エヴァンゲリオン」がヒットしていると言う。「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」と言った作品も注目されているが。
 NHKでは、番組プロフェッショナルで庵野秀明を取り上げて、彼の作品に対する凄まじい、締め切り目前になってもまだ続ける取り組みの姿勢を、スタッフ、キャストからも見せてくれた。
 エヴァンゲリオンは、1995年にTVアニメでスタート。使徒と呼ばれる怪物を迎え撃つロボットで戦う少年碇シンジの物語で、そのリアルな演出で次第に人気を博するようになった。しかし最終回はちゃんとした結末やそれまでの謎解きの無い、シンジの思考ばかりを描いたラストであり、視聴者の顰蹙を買った。庵野も悩み、自殺することも考えたとプロフェッショナルで語られている(東海SFの会でも当時、同人誌を作った)。
 映画化され一応の結着を見た映画はヒット。一旦、1997年に完結し、アニメ以外にも大きな影響を与えた。
 10年後、庵野は製作会社カラーを興し、2007年に再度映画化、4部作で新たにエヴァンゲリオンはスタートした。
 「序」は第1話から第6話をリニューアルした内容で新規に作られており、続いて2009年の「破」、2012年の「Q」は旧作と異なる完全なオリジナルが展開された。
 それから9年、長くかかったが、2時間半という長い上映時間で紡ぎ出された映画の内容は、全ての謎解きが完全にされた訳ではなかったが、概ね多くの人を納得させる結末になっている。
 庵野は、特撮やアニメから大きな影響を受け、大阪芸術大学生時代にSF研究会に所属。そこで複数の自主制作映像を手がけ、爆発などの効果エフェクトで注目された。
 続いて「風の谷のナウシカ」「超時空要塞マクロス」と言ったアニメ作品に関わり、その作画で名を知られる。
 1987年、仲間たちと作ったアニメ会社ガイナックスの映画作品「王立宇宙軍オネアミスの翼」でも作画監督を務め、迫力あるエフェクトを手がけた。
 1988年から1989年には、再びガイナックスのアニメ「トップをねらえ!」、1990年には「ふしぎの海のナディア」で注目された。2作ともパロディ要素が強かったが、SF作品でも高い人気を誇り、ガイナックスや庵野監督は注目されるようになった。
 1989年は、OVA(オリジナルビデオアニメーション)という媒体を中心にそれまでTVや映画で展開していたオリジナルのアニメ作品が公開し、注目の作品が相次いだ(ビデオでオリジナルの作品が展開されるのはその前からあったが……)。
「トップをねらえ!」同時期に、ロバート・A・ハインラインの「宇宙の戦士」もOVA化され、1989年春には、安彦良和のマンガ「ヴィナス戦記」が映画化されている。
「宇宙の戦士」は、異星人との戦争で軍に入隊、パワードスーツで戦う主人公の物語で、「ヴィナス戦記」は、大氷塊の激突で環境が激変、その後、複数の移民国家が抗争を繰り広げる金星が舞台で、戦争に巻き込まれたレーサーの少年をメインに話は進む。もっとも安彦が脚本や監督、キャラクターデザインを手がけ、内容的には面白かったが、興行的に悪かった。
 安彦は、以後、アニメの現場から遠ざかり、マンガやイラストに活動の重きを置く(まさか21世紀に「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」を描き上げ、そのアニメで総監督をやるとは)。
 実は「トップをねらえ!」も「宇宙の戦士」も、「ヴィナス戦記」も共通のストーリーでまとめられる。
「遥か未来、地球から離れた宇宙で戦争が勃発、巻き込まれた若い主人公は、戦いの中で家族や友人を失いながら成長、最後の戦いで主役メカを乗りこなして、勝利に貢献する」
 他にも1989年は、OVA「機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争」や前年に発表され続いて映画化された「機動警察パトレイバー」があり、どちらも映像やストーリーで人気を博し、他に週一で「銀河英雄伝説」のビデオアニメが発表されていた。
 SFでは無かったが、夏にスタジオジブリの「魔女の宅急便」が映画化大ヒットした。監督の宮崎駿は「風の谷のナウシカ」以来、以後も庵野と公私にわたり長く付き合う。なお「オネアミスの翼」には宮崎をモデルにしたキャラクターが登場し、そのドラマも描かれている。
 1989年は、かつてのブームはなかったが、新たな媒体ビデオを使って、新作を発表し続けていた。もっともこの年、起こったあの事件によってアニメやビデオの愛好家は少なからぬ迷惑を蒙るのであるが……(それを意識して91年にガイナックスは、「おたくのビデオ」と言うOVAを作っている)。
 エヴァンゲリオンが大ヒットしたが、庵野は次に何を撮るのであろう?
 庵野は、監督として映像制作に関わる以外に、「特撮博物館」「アニメーター見本市」などの企画に携わっている。
 2016年に「シン・ゴジラ」を監督し、大ヒット。「シン・ゴジラ」で描かれた日本の状況は、現在、コロナ下の日本に相通じるものがあると思う。
 コロナで公開が延期したが、「シン・ウルトラマン」が控えている。その後、「仮面ライダー」を撮る予定と言われている。
 他にもアニメ作品を撮らないかとか、本人は円谷プロで作った「マイティジャック」を撮りたいと言っていたが、身体を大切に1つ1つの作品に丁寧に取り組んでもらいたい。

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