No.478(Web版128号)3
今も続く藤子・F・不二雄のDNA
中村達彦
スタジオぬえのメカデザイナー宮武一貴の自宅が火事になり、夫人が亡くなられたとのこと。氏の回復を切望したい。宮武は半世紀にわたり、SFアートやメカデザインで活躍されたが、若い頃、氏が影響を受けた作品の1つに、藤子・F・不二雄のマンガ「海の王子」がある。
「海の王子」は1959〜61年に描かれた作品で藤子不二雄Ⓐとの合作である。海洋を舞台に、優れた文明を持つ海底王国の少年が、妹や友人たちと力を合わせ、様々な悪と戦い叩き潰す。小学館の少年サンデーで連載され、「おばけのQ太郎」や「ドラえもん」とは毛色の違った勧善懲悪のストーリーだ。
主人公の操る様々なメカやSF設定にはセンスがあった。
そして、自分のマンガに、当時ヒットしていたマンガやアニメのパロディやお遊びを入れている(アシスタントのものも多いが)。
藤子・F・不二雄は、恐竜やSFメカにも若い時から造詣が深く、77年にアメリカで「スターウオーズ」が作られた時は、自分の作品に何度も取り入れた。
当時、「ドラえもん」は「スターウオーズ」を扱ったエピソードがある。「天井うらの宇宙戦争」と言うその話では、未来のゲームで遊んでいたドラえもんやのび太が、小人の帝国軍と反乱軍の戦いに巻き込まれてしまう。帝国軍に追い詰められるが、帝国軍の宇宙船は野球の試合で飛んできたボールにあっけなくやられると言うおち。
ストーリーの中に、R2D2からレイアのホログラフィが現われる、本家と重なるシーンがある。
この他に、藤子・F・不二雄はSFの短編集を多数発表しているが、その中でも「スターウオーズ」は「ある日……」「裏町裏通り名画館」で、劇中劇が描かれた。
「ある日……」は、4人の映画マニアがそれぞれ作った映画の上映会の出来事であるが、1人が「STARWALK」と言う、帝国軍の一般兵士から観たストーリーを発表した。帝国軍は何キロもある巨大な宇宙船で宇宙を征くが、船内の移動手段は徒歩である。兵士たちの不満は次第にたまっていき……。
もう1本の「裏町裏通り名画館」は、さびれた映画館で上映されていた2本の映画のうちの1本(もう1本は「南極物語」)。「ヌター・ウオーズ」。主人公は安値で話題作が観られると喜んだが。
こちらも帝国軍の一般兵士から物語が描かれる。辺境の惑星で暮らしていた青年が帝国軍に徴用され、その後、友人の死から戦闘機隊に転属、反乱軍との決戦に出撃する。
作品はエピソード6が公開された1983年に発表された。
どちらもパロディ、ギャグを含んだ劇中劇だ。しかし本家「スターウオーズ」でも2016年にエピソード4前の名も無き戦士たちの戦い「ローグ・ワン / スター・ウォーズ・ストーリー」があり、「ヌター・ウオーズ」も名も無き戦士を主人公にしている。
藤子・F・不二雄は時代の先を行っていたと思う。自分の死後、続編が作られるとは予想しただろうが、まさかダースベイダー誕生の前史エピソード1・2・3が作られるとは思わなかっただろう。
時代の先を行っていたと言えば、1985年に封切られ、後に続編が2本作られた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は、タイムマシンで過去に行って、ダメ人間の父親の過去を改変する物語だが、「ドラえもん」は16年早く発表したと言えるだろう。
逆に1967年に発表されたアメリカの「スーパーマン」が元ネタの「パーマン」は子供を主人公にしたギャグだが、時には皮肉や風刺を交えながら、正義や力についてのメッセージを伝えている。それは子供のマンガながら、大人に対しても真摯なものだ。
「ドラえもん」でも、SF短編でも、時に大人向けの台詞が用意されたり、衝撃の展開や意外な結末が用意されている。
「スーパーマン」の映画がヒットした1978年には、漫画アクションで「中年スーパーマン左江内氏」が連載されている。
会社でも家庭でもうだつが上がらない中年男がある日スーパーマンに選ばれてしまい、彼は怪力など様々な超能力を発揮するスーツに身を包み、世のため力を尽くすが、平和や正義は見た目以上に大変であった。毎回降りかかるトラブルに四苦八苦。
ラスト、自分の抱く正義に行き詰まった彼が出会ったのは…‥。
藤子・F・不二雄が亡くなって25年になるが、「ドラえもん」のテレビや映画が続いているのをはじめ、作品は今も愛されている。「一人ぼっちの宇宙戦争」が森下一仁に。「ドラえもん のび太と鉄人兵団」は2011年にリメイクされた後、瀬名秀明にノベライズ化された(瀬名はロボットへの研究や創作でも知られ、手塚治虫作品や鉄人28号へのオマージュも強い)。
時折、SF短編がドラマ化され、「中年スーパーマン左江内氏」が2016年に日本テレビでドラマになり、2000年少年と未来から来たロボットの友情を描いたSF映画「ジュブナイル」も実は「ドラえもん」が下敷きになっているのだ。
2013年には、アシスタントえびはら武司の藤子・F・不二雄や作品を巡る思い出 藤子スタジオアシスタント日記「まいっちんぐマンガ道」が全3巻で描かれた。
そして2011年には、川崎市に藤子・F・不二雄ミュージアムが開館し、10年になるが、多くの客でにぎわっている。
藤子・F・不二雄のDNAは今も続いていると言っても良い。
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