No.492(Web版142号)3
SFが多いNHKドラマ
中村達彦
朝の連続テレビドラマも大河ドラマも60年近く続いてきたが、今一つ不調だ。昔は高視聴率であったのに(大河ドラマの方はもっと視聴率があっても良いような)。
同じNHKの月〜木までの午後10時45分から15分放送されている夜ドラや土曜午後10時から50分放送される土曜ドラマは、SF作品が多い。面白く話題になっている。
夜ドラ「カナカナ」は5〜6月まで放送された。「今日から俺は」でヒットを飛ばした西森博之のマンガをドラマ化した作品だ。
人の心を読む能力を持つ幼女佳奈花が、その能力を利用して金儲けを目論む叔父に捕われそうになる。
孤児の佳奈花は、ヤンキーの青年マサに助けを求める。
外見は怖く、喧嘩にめっぽう強いが、心は優しいマサは、佳奈花の能力を知らないまま(叔父以外、佳奈花の力を知らない)彼女を受け入れ、疑似親子の生活が始まる。
マサを演じるは千葉真一の息子眞栄田郷敦。佳奈花は子役で注目されている加藤柚凪。
海岸町で居酒屋を営むマサには、その人柄に惹かれていろんな人が集まる。皆が、佳奈花に親切にしてくれる。
だが叔父は佳奈花を諦めていない。マサに恨みを持つ警察署長も絡み、騒動が続く。
自分の力や孤独な境遇に悩む佳奈花と、ボケを見せながら一生懸命父親になろうと頑張るマサ、他の登場人物たちが織り成す芝居はほっこりさせられる。
土曜ドラマで5月に放送された「17才の帝国」は、よりSFぽい作品だった。
近未来、経済的にも国際社会的にも斜陽化の進んだ日本。政府は人材育成のため、政治AIと共に若者に地方都市を統治させるプロジェクト・ウーアを立ち上げ、地方都市青波が候補地に選ばれる。
政治AIに総理大臣で選ばれたのは、高校生の真木亜蘭。彼は他に選出された閣僚や官房長官と協力して、青波市の人々の幸福を上げようと努める。
真木と政治サロンで知り合い、彼の補佐官に抜擢された茶川サチがヒロインに。最初真木を応援するが、やがて彼の秘密を知り、立ち位置が変わっていく。
高校生ながら青波市の長となった真木。反対する者と対しながら、次々に新政策を実施。
プロジェクトを推進しつつ冷ややかに見守る日本国首相。かつて不正事件があり、それが真木の秘密と関わっている。
市民の声を分析、算出された支持率などを真木に伝える政治AIソロン(真木を総理大臣で選んだ)の報告を見て、政策を決めていく真木や閣僚たち。
真木役は神尾楓珠、サチは山田杏奈、他に星野源、染谷将太、柄本明らが出演している。ソロンの声は緒方恵美、ソロンを構成するのは3つの量子コンピューターで(どこかで聞いたことがあるような……)、山中にある3つの塔に据え付けられている。
真木は、閣僚たちからも、市民からも支持されていくが。彼の秘密が動き出し、それを知ったサチは、意外な方向へ動いていく。
ドラマ舞台も、音楽も工夫され、SFらしさが出ている。
脚本は近年話題のアニメ作品を複数手がけている吉田玲子。プロデューサーなど民放のスタッフが名を連ねた。
もっともドラマ放送直後に、現実の日本で、元首相が白昼銃撃されて亡くなる事件が起き、更にその余波が長く尾を引くなど予想もしなかっただろう。
「17才の帝国」の次に放送された土曜ドラマ「空白を満たしなさい」は、死んだ人間が次々に蘇る復生者が相次ぐ世界のドラマ。
3年前に死んだ土屋徹生は復生者として蘇る。当惑する妻子や会社の人々。
徹生は自分の死んだ時のことを覚えていない。自殺なのか他殺なのか、調べていくうちに自分に付きまとい、挑発していた警備員佐伯を知る。
世間は復生者について、冷たい視線を向け、保険や再就職でも制約が見える。復生者を拒む運動さえも。
やがて状況は大きく変化する。
原作は芥川賞作家平野啓一郎の小説。なぜ復生者が起こったか、その帰結についても劇中では説明されていない。
徹生は柄本祐、妻の千佳は鈴木杏、佐伯は阿部サダヲが熱演している。
「17才の帝国」も「空白を満たしなさい」も全5回の放送で説明不足。「?」のところが多く残念に思う。もう1,2回あれば。
他にBSプレミアムで、星新一のショートショートが「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」で4月から8月まで全20回ドラマ化され、一部は地上波でも放送された。
ショートショートの名手星新一の「ボッコちゃん」「生活維持省」「不眠症」「善良な市民同盟」「見失った表情」などの作品が、15分×1〜2本にドラマに。原作は50〜60年以上前の作品で、結末やアイデアに古さを感じるが、キャストや舞台は豪華で「えっ、この人が!」と驚き、見入ってしまう。
星新一は昔作品の「友好使節」が中学の国語教科書で取り上げられたり、手塚治虫のW3のキャラクターモデルになった。
自分の作品が映像化されるのを好まなかったそうだが、生前、何度もドラマ化された。
「世にも奇妙な物語」で「おーい、でてこーい!」をはじめ何作も取り上げられている。
以上、NHKは近年SF作品のドラマが目につくが、朝の連続テレビ小説や大河ドラマでSFアイデアを取り入れる日が来るのも近いかもしれない。
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