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2023年2月

No.497(Web版147号)3

 ますむらひろし画のふたつの “銀河鉄道の夜” についてあれこれ

 by 渡辺 ユリア

 1983年初版発行の前者、その2年の後に描かれた後者。前者は112p、後者は198p。比べてみると色々な場面が前者よりもくわしく描かれ内容が深い。物語の導入部分が前者とは違っています。こちらのほうが物語りに入りやすい。夜のにぎやかな街の祭りの場面。人々は街の広場に集まって、一緒に “星めぐりの歌” を歌ったり、花火をもやしたりしている。ジョバンニの父さんと母さんの事情も描かれています。牛乳が買えなかった事。そして帰り道でザネリたちに酷い言葉をかけられたりした事。そして彼は山のほうへと走ってゆく。背の高い木立ちや真っ暗な草を抜けて、一本の道を辿って。にわかにがらんと空が開け、山の頂上に行く。そこで不思議な体験をするのですが、前者は光がまたたくといつの間にか列車の座席にいるのに対して、後者は光がまたたき、遠くからセロのような声が聞こえてくるのです。そして光がぐーんと伸びて広がり・・・何時の間にかジョバンニは列車の座席にいるのです。カムパネルラとの再会。そして列車での旅が始まる。北十字とプリオシン海岸、いろいろな人たちとの出会いと別れ。そしてカムパネルラとどこまでも行こう・・・と言った事。でも、不意にカムパネルラが消えた時、彼は大きな声を挙げて泣きました。前者はそこで目が醒め、元いた山の頂上にいる事に気ずいたのに対し、後者は、不意に「お前はいったい何を泣いているの・・」という声。その人物は説明する。それには原作者の賢治の想いが詰まっているように感じます。ではこの辺で。

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No.497(Web版147号)2

 やはり続く不滅のまんが道

 中村達彦

 昨年、マンガ家の聖悠紀が亡くなった。
 マンガ同人集団作画グループで活動。少女マンガやアニメ・特撮のコミカライズマンガの活躍で注目され、「宇宙戦艦ヤマト」「忍者キャプター」などを手がけた。アニメでは「超電磁マシーンボルテスV」や「闘将ダイモス」のキャラクターデザインに参加した。
 少年マンガでも作品を発表。病気に悩まされながら、長く描き続けた。
 代表作「超人ロック」は作画グループで始まってから、雑誌を替えて50年も続いてきた長寿のシリーズだ。
 遥か未来に活躍するエスパーのロック、外見は緑色の髪が特徴の少年で、その超能力はサイコキネシスやテレパシーはもちろん、自らを不老不死に、惑星を滅ぼしてしまうほど、計り知れない。
 ロックは平穏に一人の人間として過ごすことを願うが、その超能力からいろいろな事件に巻き込まれる。ロックは普段善人だが、悪意には怒りをもってあたる。
 多くの人がロックとすれ違い、大小の時間を経て去っていく。
 人類はドライブ航法で他の天体へ。銀河連邦を築くが、長い時の後、大変動で崩壊、銀河帝国を樹立する。動乱は続き、再び銀河連邦へ、更に長い年月が流れていく。エスパー以外にクローン、アンドロイドなどSF小道具が多く登場する。
 ロックの物語は、80年代初頭から注目されアニメに、84年に映画化され、その後複数OVAになった。他のSFマンガ、SF小説にも影響を与え、「超人ロック」を題材にしたゲームも作られている。
 シリーズ中、「魔女の世紀」「ロード・レオン」「光の剣」と幾多の話がある。
 デザインやタッチは最初と大して変化が無いが、ストーリーは工夫されていた。あるエピソードのキャラクターが、後続のエピソードにおいて再登場をしたり、あるエピソードでロックが登場しなかったが、後半意外な姿で絡む、ロックが家庭を作るなど考えられ、マンネリを感じさせなかった。しかし長く話が作られた。最初ははまっていた自分もいつの間にか、長すぎる物語の追跡をあきらめた。
 そして作者の死と共に、物語は幾つかの謎を残して未完で終わった。
 聖は作画グループの活動でも、他のマンガ家たちと共作し、作品を生み出した。
 70年代半ばから80年代初めに一世を風靡した。同じ世代のマンガ家で、柴田昌弘、和田慎二、新谷かおるがいる。
 彼らは少年マンガのみならず少女マンガでも活躍、メカも可愛い女の子もうまく、ヒットしアニメになった作品を幾つも生んだ。
 彼らの描いた作品読みたさに、周囲の眼を気にしながら、少女マンガを読んだ記憶が。
 皆、逝去もしくは引退した。
 先日、マンガ家の桜田吾作が亡くなった。少女マンガからデビュー、幾つのオリジナル作品を発表したが、マジンガーシリーズのコミカライズで注目された。それはアニメよりハードな展開でやり過ぎの感があった。女性キャラクターも色っぽかった。
 多くのマンガ家は、先人の大御所マンガ家に大きな影響を受けた。聖も石ノ森章太郎(石森章太郎)の「マンガ家入門」を読んでマンガ家を目指したとされる。石ノ森章太郎も手塚治虫に大きな影響を受けた。
 昨年NHKで36年前にドラマ化された「まんが道」が再放送された。脚本を書いたのは、「純ちゃんの応援歌」「たけしくん、ハイ!」も手がけたヒットメーカー布勢博一。
 第二部の「青春篇」はトキワ荘が舞台になっており、若きマンガ家たちが描かれた。ドラマキャストには、もう亡くなられた方や、当時は脇役だったが後にブレイクし現在も現役の方があちこちに。
 87年、ドラマが放送された直後、作者の藤子不二雄はコンビを解散し、2年後には劇中で若手マンガ家を励ましていた手塚治虫が亡くなっている。
 昨年秋、藤子 不二雄Ⓐに続いて、「まんが道」にも出演した永田竹丸も亡くなった。
 児童マンガをメインに活躍、大ヒットは無かったが、70年代にテレビマガジンで「冒険コロボックル」「ジムボタン」「クムクム」とアニメ作品のコミカライズを手がけた。
 当時のテレビマガジンは仮面ライダーやマジンガーシリーズの特集で人気を誇ったが、石ノ森章太郎、赤塚不二夫、藤子不二雄も同誌でマンガを描いており、トキワ荘状態だった(桜田吾作も別冊で東映まんがまつりのマジンガー作品をやっている。多作だがよくやれたな)。
 トキワ荘のマンガ家たち、作画グループの活動、マンガ家たちの活動は時を経て続いていった。
 フィクションでも、マンガ「ケロロ軍曹」8巻に、「まんが道」オマージュのエピソードがあるし、コミックが長期連載され、アニメや実写映画になった「バクマン」も「まんが道」後継作品であろう。
 そう言えば、マンガ連載が続き、Eテレでアニメが放送されている大今良時の「不滅のあなたへ」はファンタジーだが、突然現れたものが動物や様々な人間に生まれ変わって、長い年月を過ごすのは「超人ロック」を連想させる。
 前にも言ったが、まんが道は続いてるのだ。

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No.497(Web版147号)1

 My BESTS 2022

 中嶋 康年

1「爆発処理班の遭遇したスピン」佐藤 究
昨年の直木賞「テスカトリポカ」の作者、佐藤究の短編集。爆発物の解除に量子論、例の「シュレーディンガーの猫」理論を絡めたミステリの表題作。CGクリエイターからクリーチャー・デザイナーになり、実物のキメラを創作してしまう「ジェリーウォーカー」など、SF作家としても通用する多彩な作家だ。もっとほかの作品も読んでみたくなる。

2「プロジェクト・ヘイル・メアリー」アンディ・ウィアー
一人になりながら、それでも頑張って事をなしていく。でも、ほんとは一人じゃない。背後には仲間たちのバックアップがついている。「火星の人」もそんな話だったが、今回は最後の最後が効いている。

3「三体 X」宝樹
SF作家の宝樹が「三体」ファンとして、原作者も描かなかったあんなことこんなことを書いてしまったという「公式外伝」。宝樹自身の短編も邦訳されているが、なかなか面白い話を書く人だと思う。

4「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」マーベル・スタジオ(映画)
前作「ファー・フロム・ホーム」でスパイダーマンの正体はピーター・パーカーだと暴かれてしまった。これを何とかしたいと思い、ドクター・ストレンジに人々の記憶から自分の正体の記憶を消してもらうように頼みに行くが、友人には覚えていてもらいたいと思って呪文の邪魔してしまう。その結果、魔法は失敗、多元宇宙に穴をあけてしまうことになった。この3部作最終作のキモはその多元宇宙から別のスパイダーマンが来てしまうところ。スパイダーマンは過去2回映画化されており、違う役者が演じていたのだが、その二人が別次元のスパイダーマンとして共演した。

5「サイバーパンク エッジランナーズ」(アニメ)TRIGGER NETFLIX
2020年のアクションRPG「Cyberpunk2077」のアニメ化。ゲームの方は知らなかったのだが、鮮烈な色遣い、大胆なアクションが素晴らしい。人体改造を繰り返すアウトローの傭兵団に加入することになった、人体改造に耐性のある若者の物語。

6「黒衣の聖母」山田風太郎
2022年は山田風太郎生誕100年ということで、数多くの出版があった。山田風太郎というと、忍者物だが、これは太平洋戦争の時代の推理短編集。「戦艦陸奥」「潜艦呂号99浮上せず」「裸の島」「腐乱の神話」など全10編はどれもすごい。

7「兎の島」エルビラ・ナバロ
〈スパニッシュ・ホラー文芸〉がブームと帯には書いてあるが、実はこれが最初の1冊。ピラール・キンタナ「雌犬」、グアダルーペ・ネッテル「赤い魚の夫婦」もその系列といわれるが、「スパニッシュ・ホラー」とは銘打っていない。ネッテルはメキシコ人だし。今どき珍しい函入りで装丁に凝った短編集。

8「リコリス・リコイル」(アニメ)A-1Pictures NETFLIX/AmazonPrime
今年のアニメは?と聞くと、「リコリコだね」という声が聞こえたほどだった。

9「極めて私的な超能力」チャン・ガンミョン
今年は韓国のSFが数多く紹介され、何冊か読んでみてどうもあまりピンとくるものがなかったが、この短編集はちょっとハード系ですごいと思った。ごく短い短編とちょっと長めの短編が混じっている。「定時に服用してください」「アラスカのアイヒマン」「極めて私的な超能力」「データの時代の愛」がよかった。

10「ブラックアダム」ジャウマ・コレット=セラ監督(映画)
興行的には失敗とされ、続編は制作されないことに早々と決まったそうだが、個人的には、かなり楽しめた。最近DCではスーパーマンの俳優がまたもや変わることになりそうだとか、興行的にも成功したワンダーウーマンの続編は作らないことに決まったり、撮影も終わっていた「バットガール」は公開しないことになったり、あまりいいニュースはない。

その他、印象に残った作品(順不同)
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SFマンガ傑作選、半鐘の怪・半七捕物帳、文豪たちの怪しい宴、獣たちの海、メキシカン・ゴシック、疫神記、雌犬、怪物のゲーム、マルドゥック・アノニマス7、赤い蝋人形、スターシェイカーマーベル・グラフィックノベル・コレクション(以上、書籍)
ジョジョの奇妙な冒険:ストーン・オーシャン、イン・フロム・ザ・コールド、ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪、サマータイム・レンダ、シーハルク:ザ・アトーニー、シン・ウルトラマン、ウェンズデー、BLEACH 千年血戦篇、ソー:ラブ&サンダー、ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー、ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス、攻殻機動隊 SAC-2045、サンドマン、ムーンナイト、MSマーベル、すべて忘れてしまうから、ペリフェラル〜接続された未来〜(以上映像作品)

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