« No.498(Web版148号)1 | トップページ | 例会連絡4 »

No.498(Web版148号)2

 陰の実力者になりたくて! について 困田次郎 

(この文章にはアニメ「陰の実力者になりたくて!」のストーリー上のネタバレがあります)

2022年秋から放送され先日20話で終了したアニメ「陰の実力者になりたくて!」が話題になっている。普段は目立たぬ一般人だが実は強大な力で世界を暗躍する人物「陰の実力者」に憧れて、ひたすら強くなる修行をしていた高校生が、なんやかんやで異世界転生。普段はただの学生だが裏では闇の組織を率いて活躍する物語だ。

「陰の実力者」に憧れる高校生、影野実は山奥で修行中に走ってきたトラックに飛び込み、剣と魔法の異世界、ミドガル王国に。地方貴族の赤ん坊に転生した。名はシド・カゲノー。前世の記憶が残っていたので、そのまま強くなる訓練は継続された。少年に成長すると自分の実戦トレーニングを兼ねて、悪い盗賊を退治し捕らえられていたエルフを救った。そして自分は「シャドウ」という名でありディアボロス教団が諸悪の根源であると語ると、エルフはそれを信じ共に戦う仲間となり、ここにシャドウガーデンが結成された。ディアボロス教団は適当なでっち上げだが、たまたま偶然同じ名の極悪宗教団体があり、世界を裏から牛耳っていた。エルフは仲間を集め、組織を構築し、いつの間にかシャドウガーデンは巨大な闇の勢力となっていった。

やがて成長したシド・カゲノーは魔法と剣術を学ぶ魔剣士学園に入学する。そこで同じ学園の生徒、アレクシア・ミドガル王女と知り合う。アレクシアは親に決められた婚約者を誤魔化すために、シドと付き合っているふりをするのだが、そこで興味深い会話をする。アレクシアは王国最強と言われる剣士の姉、アイリス・ミドガルにコンプレックスを持っており、姉に比べて地味な自分の剣技を恥じている。基本に忠実なシドの剣技が自分と似ていて好きではないというアレクシアの言葉に「僕は君の剣が好きだ。普段は自分以外の物は割とどうでもいいと思っているが、僕が好きな物を他人に否定されると腹が立つ」シドの言葉に怒ったアレクシアは剣を向けるが、シドは無視する。たわいもない会話にも思えるが、シドという男の本質をよく表している。自分の美意識を何より優先している。それ以外の事には興味がないのだ。

シドは客観的にみると異常性格者である。目的の為ならばどんな行動もいとわない。自らの戦闘スキルを高めるためには殺人なども喜んでする。(後に自らに災いが及ばぬように、顔を隠して盗賊を襲ったり)戦いに勝つために美女の首の頸動脈を食いちぎって殺したり、(血に汚れた口でほほ笑む姿は明らかに狂人のそれ)自分の正体を隠すためなら、まともな人間ならとても耐えられない犬のような屈辱的な扱いも、三日三晩にわたる残酷な拷問も平気だ。人からどう見られているかより、今自分はこういう姿を人に見せたいんだ、という思いを優先させる。

こういうシーンがある。旅先で何かの間違いでアレクシアと大浴場で遭遇するのだが、悠然と誰もいないかのように湯船に入り鼻歌を歌ってくつろぐ。動揺するアレクシア(CV花澤香菜)が声をかけるが「温泉ではあまり人を見ないようにしてる。お互いに気持ちよく入るために。だから君も僕のエクスカリバーをチラチラ見るのをやめてくれないか」といなす。「それがエクスカリバー?ミミズの間違いじゃないの?」と言われると、彼はアレクシアの目前に立って「物事を見掛けだけで判断してはいけない。君がミミズだと思った物は、まだ鞘に入っただけかもしれないんだから」と言い放ち、大浴場を後にする。

この言葉は単なる浴場での下ネタ話と捉えることもできるが、後のエピソードで語られる彼の哲学「真の強さとは、力ではなく、その在り方だ」とも繋がる。

この作品は、巨大悪徳教団を想像ででっち上げた主人公が、自らの妄想に則って行動するが、たまたま実際に存在していたその教団との戦いの中で、部下が彼の妄想を深慮と誤解するコメディであり、中盤までは喜劇色も強いのだが、終盤になって物語は暴走し始める。

シドは王国の一大イベント「武神祭」に参加する。王国内外を問わず参加可能な剣士の試合のトーナメントだが、名を偽り「ジミナ・セーネン」として予選から勝ち上がる。決勝トーナメントでアイリス王女と対戦するが、王国最強のはずのアイリスは圧倒的な実力差の前に何も出来ず敗北する。敗れた彼女の眼にジミナからシャドウへと変貌する姿が映る。ディアボロス教団はシャドウガーデンの名で多くの悪事を働いており、シャドウはその汚名を放置していた。アイリスにとってシャドウはディアボロス教団同様、王国の平和を揺るがす「敵」。試合で敗れたとはいえ目の前のシャドウに挑まざるを得なかった。幸い、強力な破壊力を持つ「ミスリルの剣」を手にすることができ、招待客として来ていた武神祭5連覇のエルフ、剣聖ベアトリクスも共に戦ってくれた。しかしシャドウの力の前に二人は無残に敗れた。倒れたアイリスの「タダで済むと思っているのか。王都中の騎士に動員がかかっている、ミドガル王国の全てがお前の敵だ、もうお前にどこにも逃げ場はない」との言葉をシャドウは嘲笑する。「逃げる?誰が?何処へ?何故?」シャドウは自らの魔力を解放させ、二人の前で人類が手にした最強の力「核の光」をみせる。光は都市の空を覆う分厚い雨雲を全て吹き飛ばし、二人にまぶしい陽光が。シャドウはどこかに行ってしまっていた。完全な敗北にアイリスは号泣する。

彼女のこれまでの人生、王女としての誇り、責任、王国最強剣士としてかかる国民の期待、国の平和を守らねばならない義務感、愛国心、正義感、それら多くの背負ってきたものが、シャドウの個人的な美学の前に砕け散った。何故だろう?ここでまたシャドウのセリフが思い出される「真の強さとは、力ではなく、その在り方だ」そして全編に流れる魂を揺さぶるBGMは・・

この最終回「魔人降臨」をみて、皆が連想するのは、アニメ「コードギアス反逆のルルーシュ」の第1話「魔神が生まれた日」だろう。また主人公の人間性が次第に失われていく(ようにも見える)物語、アニメ「オーバーロード 」を思い出す人も多いらしい。4月からはBS等で再放送も始まる。また2期制作も決まり、おそらく来年以降に、シャドウの新たな冒険を目にすることになるだろう。

|

« No.498(Web版148号)1 | トップページ | 例会連絡4 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« No.498(Web版148号)1 | トップページ | 例会連絡4 »