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No.506(Web版156号)1

 あばよ寺沢武一

 中村達彦

 前号でも取り上げたが、マンガ家の寺沢武一が亡くなった。前号記事と重なってしまうが語ってみたい。
 代表作「コブラ」。遙か未来西暦4900年頃の世界で、うだつの上がらない三枚目のサラリーマンが、娯楽で脳を刺激して想った通りの夢を観させるトリップ・ムービーを利用したところ、二枚目の宇宙海賊コブラで活躍する映像を観る。
 実は正夢で、かつてコブラは殺し合いに嫌気がさし、整形手術をして自らの記憶を封印していた。トリップ・ムービーで記憶が覚めた。そこへ昔戦った追手が(1990年の映画「トータル・リコール」と重なる)。
 勃発した戦いから、コブラは、再び冒険と刺激の世界へ身を投じていく。
 女性型アーマーノイドのレディを相棒に、左腕に強力なサイコガンを持ち、万能宇宙船タートル号で宇宙を往く。
「コブラ」は1978年から少年ジャンプで連載が始まる。シンジケートで非道の数々を行う海賊ギルドとの戦いが多いが、他に様々な事件に出くわす。
 私は、最初タイトルから何の話かわからなかったが、途中からスペースオペラの話とわかり、面白さに引き込まれた。
 超未来でアメコミ的描写が多く、SFだがファンタジーの色合いも強く、半裸の美女が乱舞するシーンも。
 複数単行本に及ぶ長いエピソードもあれば、短い読み切りの話も。
 作品でコブラとレディ以外にも、コブラが信頼を置く老名医や情報屋が複数回登場する。ギルドの刺客で、身体を透明なガラスで構成した無慈悲なクリスタルボーイが幾度も立ち塞がる。また地球より遙か前に火星に超文明があり、その名残も度々登場する。
 様々なストーリーは、アメリカSFのカラーが強く、劇中のそこかしこにアメリカカルチャーを感じる。その頃、主流のSFアニメのカラーとは完全に一線を画していた。
 コブラは赤タイツに葉巻をくわえ、三枚目の白人男性、それまでのマンガやアニメのキャラクターとは異なる。
 当時宇宙海賊と言えば、キャプテンハーロックだが、その人格は異なる。快活でよくしゃべり、行動し、どんなピンチにもくじけず、ユーモアを吐き続ける。読みながら台詞に笑ったものだ。
 その奥底に、決してあきらめない不屈の闘志が、不可能を可能に。どんな困難も切り抜けていく。口にする台詞はジョークを含みつつも、我々読者にも向けられ、元気づけられる名言も飛び出す。
 自分を正義の味方と称しないが、弱い者いじめをせず、仲間を大事にする生き方をし、三枚目の容姿だが女性にはもてる。
 アーマーノイドのレディはコブラをよく助け、コブラが親しくする女性にも普通に接する出来た人。コブラもレディを大切に想っている。実は、彼女にはある秘密が……。
 宇宙海賊と言っているが、盗みや略奪の話はあまりなく、ギルドや他の強敵との戦いがメインに。宇宙はおろか、ファンタジーのパラレルワールドも舞台になる。
「コブラ」は85年まで断続的に続いたが、細かいアクションと背景、コブラをはじめとするドラマ、アメリカカルチャーが織りなし、意外な顛末の筋書きなどに圧倒された。
 後半のエピソード六人の勇士、地獄の十字軍などは最高潮に達した。夢中になり、何度も読み返したものだ。
 82年には「スペースコブラ」のタイトルでTVアニメ化され、コブラの声は野沢那智が、演技はキャラクターのイメージにピッタリ。アニメストーリーは、一部変更されたが、マンガを踏襲したものでおおむね好評を博した。女性のボーカルが唄う主題歌は声高く、ストーリーをよく表していた。
「コブラ」は高い人気で、海外でも名が知られている。人気マンガ「ケロロ軍曹」でも、ケロロたちの宿敵でヴァイパーと言うキャラクターが登場するが、これはコブラのパロディーだ。
 寺沢武一は、デビュー前、手塚治虫のアシスタントを務めた。詳しい話は「ブラック・ジャック創作秘話〜手塚治虫の仕事場から〜」に載っているが、当時、寺沢の感性を新しいと手塚は喜んだそうだ。
 手塚のアシスタントや虫プロアニメーターから、SF以外にも、多くのマンガ家が育っているのは述べるまでもない。
「コブラ」後、寺沢は「BLACK KNIGHT バット」「ゴクウ」「鴉天狗カブト」と言うSFファンタジーの作品を手がけた。これらの作品も「コブラ」同様のアメコミ調スタイルで、アニメ化されたものもある。
 マンガ執筆にいち早くパソコンを導入し、彩色やグラフィックスで用いている。
 前世紀末から、再び「コブラ」新作が作られ、21世紀も続いたが、「あれっ?」いつの間にか昔に比べ、絵の迫力が落ち、まるで紙芝居を観ているようだった。
 寺沢は難病にかかっており、戦いながらの執筆であった。2019年にはウエブ上で発表するも、完結せぬまま逝去。惜しまれる。
 物語は続き、クリスタルボーイとの因縁を含む昔のコブラや、火星の古代文明のことを描く構想を語っていたが。
 同じSFマンガの聖悠紀、松本零士訃報がSF大会で取り上げられたばかり。
 現在、AIで「ブラック・ジャック」の新作を作るプロジェクトが進行中で。「コブラ」も同様に新作が作られるかもしれない。
 コブラに聞いたらどう答えるだろう。おそらく「止めとけ、そんなコンピューターに任せたって」と言うだろう。

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