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No.512(Web版162号)2

「大宇宙の魔女」のことなど

 中嶋康年

2021年に出た時に買ってあったC・L・ムーア「大宇宙の魔女」ノースウェスト・スミス全短編を読み始めた。日本で最初に出たのが1971年ハヤカワ文庫SFで、表紙が松本零士だった(カラー口絵と挿絵入り)ので、相当評判になった。当時は「大宇宙の魔女」「異次元の女王」「暗黒界の妖精」の3分冊、仁賀克維訳だったが、今回の創元SF文庫版は中村融と市田泉が新訳を起こしている。今月のPM表紙(印刷版PM参照)は当時の松本零士の「大宇宙の魔女」である。あの時出たC・L・ムーアの短編はもう1冊「暗黒神のくちづけ」というのがあったが、これは「処女戦士ジレル」という中世ヨーロッパのヒロイック・ファンタジー・シリーズだったので、これには含まれていない。
 さて、C・L・ムーアの短編というと一番有名なのが「シャンブロウ」だろう。かの野田昌宏大元帥が1964年「SFマガジン」の〈SF英雄群像〉で日本で初めて紹介してから反響が大きくなった。自分の愛車に「プリンセス・シャンブロウ」と命名したというくらいである。その野田さんが仁賀訳のハヤカワ文庫の解説を書いているが、「畜生め!なんだって俺ァ、他人の訳した、〈シャンブロウ〉の解説なんか書かなきゃならねェんだ!これじゃ蛇の生殺しじゃないか!畜生!くやしい!くやしい!」と綴っている。それでも、2005年、めでたく早川書房から「火星ノンストップ」という山本弘編集の短編集に野田昌宏訳の〈シャンブロウ〉が掲載された。この短編集、わたしは買ってあるはずなのだが、残念ながらちょっと見当たらない。新訳だとどれくらい違うのか冒頭2ページ目から書き出してみる。まずは仁賀訳。

「シャンブロウ! シャンブロウ!」
 ノースウェスト・スミスは、それがこちらへむかってくるのを察すると、手近な戸口に身を潜め、熱線銃のにぎりに油断なく手をかけ、透明に近い眸を細めた。」

続いて、中村訳。
「シャンブロウだ! おい…… シャンブロウだぞ!」
 その音が近づいてくると、ノースウェスト・スミスは手近な戸口に身を潜め、熱線銃の銃把に油断なく手をかけて色の淡い目を細めた。」

 並べてみると、語順も訳語の選択もかなり違う。翻訳ってこのくらいやってもいいんだなと参考になる。

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