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2024年9月

No.516(Web版166号)2

 名探偵登場(前編)

 中村達彦

 今回は、推理小説について、私個人を含め、あんな話やこんな話を書いてみたい。実は推理小説の大家は、SF小説も書いている。
 エドガ・アラン・ポーは推理小説とSF小説の原型を手がけているし、コナン・ドイルは「失われた世界」などで知られる。シャーロキアン(熱烈なホームズファン)で推理作家の北原尚彦は、日本SF作家クラブ会員で、スペースオペラを書いたことがある。
 私は小学校3年生の時、学研ムック本名探偵登場を読み、続いて世界少年少女名作文学全集と言う世界中の小説を収録した本があり、シャーロック・ホームズを知った。少し前、アメリカのエドガ・アラン・ポーが推理小説を何本か書いて原形を確立し、フランスで探偵シリーズ「ルコック探偵」があり、ホームズ前に、探偵小説の面白さを見せてくれた。
 難事件が発生し、ベーカー街の下宿でパイプをくゆらせ、退屈さを嘆いていた変人のホームズは行動を開始、犯罪真相を暴いていく。
 ホームズの活躍は、1887年から、「緋色の研究」「四人の署名」「まだらの紐」など60本の長編・短編小説があり、イギリスのみならず他国でも人気を博す。
 コナン・ドイルは、医者として開業するがうまくいかず、続いて歴史小説を書くが見向きもされず、それで若い人向けにホームズを書いたら大ヒット。
 ドイルはホームズに思い入れを持たず、大人向けの歴史小説で認められたかった。
 高まるホームズ人気にうんざりして、1893年に「最後の事件」でホームズを殺して、シリーズを終了させるも、多くのファンからの恐喝に近い抗議(昔からよくいるんだ)や出版社が高い原稿料を積んだことに、10年後ホームズを復活させる。(その前に書かれた長編「バスカヴィル家の犬」は、傑作)。
 死んだと言われたホームズが還って来る。今まで何をしていたのか?ドイル以外の作家が、パスティーシュで、空白の期間の物語を書いている。
 日本でも推理作家の大御所でSF小説、SFアニメ脚本も書いた加納一郎が、1984年「ホック氏の異郷の冒険」を書く。
 明治時代に日本政府とイギリスの外交機密文書が紛失、日本人の医師とS・ホックなる謎のイギリス人が捜索にあたる。
「ホック氏の異郷の冒険」から40年目の今年、松岡圭祐が「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」と言うパスティーシュの続編を発表した。「ホック氏の異郷の冒険」は、日本が舞台で、外交問題に伊藤博文や陸奥宗光と実在の人物がホームズ(ホック)に絡むが、「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」も同じで。
 フランスでも、1905年、怪盗紳士の活躍が注目され、人気シリーズになっていく。アルセーヌ・ルパン。世界少年少女名作文学全集でも取り上げられていた。
 泥棒が主人公と言うことで敬遠したが、読んでみると、その鮮やかな手口に拍手を。
 作者のモーリス・ルブランは、純文学作家を目指していたが、ドイル同様、鳴かず飛ばず止む無くルパンを書いたとのこと。ルブランもSFを書いている。
 シリーズが始まってから、早々にルパンはホームズと対決する。この時、ルブランは、ドイルにホームズ使用の許可を取っておらず、ホームズはルパンの引き立て役になり、1作目では引き分け、続く長編『奇岩城』では(これも世界少年少女名作文学全集に載っていた)、ルパンの妻を殺してしまう。
 読んで私は困惑したが、多くの抗議があったらしく(ドイルからもルブランに抗議があったと言われる)、ホームズではなく別の名前の探偵と改められている。
 ホームズもルパンも人気シリーズで続き、第1次世界大戦では、それぞれドイツの陰謀にあたるエピソードがある。
 ルパンのシリーズは、日本でも翻訳されたが、うち「ルパンの大作戦」は、フランス軍に医師で参加したルパンが、ドイツの女スパイに父を殺された青年を助け、祖国のため大活躍する話。私は好きだが、実は「ルパンの大作戦」の元になったルブランの小説では、ルパンはほとんど活躍せず、日本人の翻訳者が大がかりに加筆したそうで。
 ホームズの「最後の挨拶」は、イギリスに暗躍するスパイを、ホームズが相棒のワトソンと捕らえる話だが、ホームズの完結にしても相応しい(この後も10年もホームズの物語は書かれていくが)。
 ホームズもルパンも人気シリーズで、第1次世界大戦後も、更に作者や時代、国や性別も超え、小説のみならず、映画やアニメにもなって、現在も続いている。ジェレミー・ブレッドがホームズを演ずるドラマは一押し。
 石森プロ出身の石川森彦やJETに、ホームズはマンガ化され、原作のイメージを忠実に再現された。
 ドイルは30年に亡くなったが、晩年は心霊研究に力を入れていた(水木しげるが漫画を描いている)。ルブランは41年に逝去。
 一方で、イギリスでは女性作家のアガサ・クリスティー、フランスではガストン・ルルー(「オペラ座の怪人」などホラー小説で名高い)の「黄色い秘密の部屋」など新しい推理小説が登場する。
 アガサは、ポワロやミスマープルと言った複数の人気シリーズを書き、第2次世界大戦後まで長く現役で、ミステリーの女王と称された、日本にもファンが多く、作品は何度も映像化されている。
 推理小説はヨーロッパのみならずアメリカ、そして日本にも渡ってヒット。
 日本でも名探偵明智小五郎や金田一耕助が登場するが、それについては次号で。

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No.516(Web版166号)1

「サイボーグ009トリビュート」「デッドプール&ウルヴァリン」のことなど

 中嶋康年

 福田さんを差し引いて「サイボーグ009」の記事を書くのは恐縮だが、今月の表紙として採用した河出文庫の「サイボーグ009トリビュート」、書店で新刊として並んでいるのを見てその場で即購入、先日読了したが、なかなかいいアンソロジーになっているので僭越ながら紹介させていただく。
 作品を寄せたのは、辻雅樹、斜線堂有紀、高野史緒、酉島伝法、池澤春菜、長谷敏司、斧田小夜、藤井大洋、円城塔の9人。それぞれの作家の得意分野を生かした作品が集まった。なかでもよかったのが、ゼロゼロナンバー・サイボーグ開発中のジェット・リンクはいかにして複数の候補の中から002になったのかという酉島伝法の「八つの部屋」という話。改造されてから60年後、メンテナンスを受けながらも老境の域に達してきたサイボーグたちにも忍び寄る敵の姿。初老のフランソワーズというのも新鮮というか、なんというか。(「wash」長谷敏司)。火星往還船の隔壁の水に満たされた区域で人知れず活躍する、白髪になり007から「爺さん」と呼ばれるピュンマ(「海はどこにでも」藤井大洋)。バレリーナとしてのフランソワーズを描いたのは斜線堂有紀、高野史緒、池澤春菜の3人。ロシアのバレー界の描写はさすがにロシアに詳しい高野である。007と中華飯店を営む張々湖が改造される前の中国での貧しい時代のことを知っている男と出会う斧田小夜の「食火炭」。ギルモア博士が亡くなり、「システム・ギルモア」としてよみがえる円城塔の「クーブラ・カーン」など、これほどまでに広い世界を構築できる設定を生み出した石ノ森章太郎はやはり天才である。
 さて、「デッドプール&ウルヴァリン」を観てきた。公開から1か月は過ぎたので【ネタバレ】を含みます。公開前は監督が「この映画は以前のマーベルを見てなくても楽しめます」とか言っていたようだが、なんのなんの、バリバリ以前のキャラクターが出てくる。私はよく見ている方だからわかったけど、マーベル初見の人は(そもそも見ないだろうが)どうだっただろうか。もう、冒頭からウルヴァリンの前の映画「LOGAN」観ていることが前提だからね。ディズニーのドラマ「LOKI」のTVA(時間変異取締局)も出ているし。この手の映画の楽しみ方としては、映画を見た後にネットのネタバレ記事をいろいろ思い出しながら読むことだなと思う。映像としては、見どころがたくさんある映画だったというのが私の評価です。

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No.515(Web版165号)2

 セーヌ河の浄化

 加藤弘一

昔、天龍の知り合いから聞いた子供のころの夏の遊びといえば、仲間と共にふんどし一丁になり帯の隙間に50銭銀貨を押し込み、天竜川に飛び込む。
そのままドンブラコッコと下流まで流れ、岸に上がりふんどしを乾かしてからバスに乗り50銭銀貨をバチッと渡して上に戻ったそうである。
例えは悪いかも知れないが、まるでリフトに乗ってから下るスキーみたいだと思った。
自分も子供の頃大井川で泳いだものである。
勿論、東海パルプの上流の方でだが。
今では、大井川も天竜川もあんまり泳ぐ人はいないだろう。
一方、パリのセーヌ川は100年前から汚染の為遊泳禁止になっているらしいが、オリンピックのトライアスロンの会場にするために水質改善にやっきになっているらしい。
しかし、コスモリバースでも不可能と言われる(冗談)セーヌ川の浄化は一向に進まない様である。
浄化が上手くいったら自ら泳ぐと言っていたマクロン大統領だが、今泳げば御陀仏だろう。
セーヌ川の岸に停めている沢山の船舶は一定の料金(税金)を支払って人が暮らしているらしいが、ウ○コとかはどうやって処理をしているのだろう。
間違いなく暗い夜中にドボンと投棄しているにちがいない。
こうして、汚染は解決せずトライアスロンの選手に危機は迫っているのである。

 

トライアスロンは、水質が基準外のため延期されたが…

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