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No.516(Web版166号)2

 名探偵登場(前編)

 中村達彦

 今回は、推理小説について、私個人を含め、あんな話やこんな話を書いてみたい。実は推理小説の大家は、SF小説も書いている。
 エドガ・アラン・ポーは推理小説とSF小説の原型を手がけているし、コナン・ドイルは「失われた世界」などで知られる。シャーロキアン(熱烈なホームズファン)で推理作家の北原尚彦は、日本SF作家クラブ会員で、スペースオペラを書いたことがある。
 私は小学校3年生の時、学研ムック本名探偵登場を読み、続いて世界少年少女名作文学全集と言う世界中の小説を収録した本があり、シャーロック・ホームズを知った。少し前、アメリカのエドガ・アラン・ポーが推理小説を何本か書いて原形を確立し、フランスで探偵シリーズ「ルコック探偵」があり、ホームズ前に、探偵小説の面白さを見せてくれた。
 難事件が発生し、ベーカー街の下宿でパイプをくゆらせ、退屈さを嘆いていた変人のホームズは行動を開始、犯罪真相を暴いていく。
 ホームズの活躍は、1887年から、「緋色の研究」「四人の署名」「まだらの紐」など60本の長編・短編小説があり、イギリスのみならず他国でも人気を博す。
 コナン・ドイルは、医者として開業するがうまくいかず、続いて歴史小説を書くが見向きもされず、それで若い人向けにホームズを書いたら大ヒット。
 ドイルはホームズに思い入れを持たず、大人向けの歴史小説で認められたかった。
 高まるホームズ人気にうんざりして、1893年に「最後の事件」でホームズを殺して、シリーズを終了させるも、多くのファンからの恐喝に近い抗議(昔からよくいるんだ)や出版社が高い原稿料を積んだことに、10年後ホームズを復活させる。(その前に書かれた長編「バスカヴィル家の犬」は、傑作)。
 死んだと言われたホームズが還って来る。今まで何をしていたのか?ドイル以外の作家が、パスティーシュで、空白の期間の物語を書いている。
 日本でも推理作家の大御所でSF小説、SFアニメ脚本も書いた加納一郎が、1984年「ホック氏の異郷の冒険」を書く。
 明治時代に日本政府とイギリスの外交機密文書が紛失、日本人の医師とS・ホックなる謎のイギリス人が捜索にあたる。
「ホック氏の異郷の冒険」から40年目の今年、松岡圭祐が「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」と言うパスティーシュの続編を発表した。「ホック氏の異郷の冒険」は、日本が舞台で、外交問題に伊藤博文や陸奥宗光と実在の人物がホームズ(ホック)に絡むが、「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」も同じで。
 フランスでも、1905年、怪盗紳士の活躍が注目され、人気シリーズになっていく。アルセーヌ・ルパン。世界少年少女名作文学全集でも取り上げられていた。
 泥棒が主人公と言うことで敬遠したが、読んでみると、その鮮やかな手口に拍手を。
 作者のモーリス・ルブランは、純文学作家を目指していたが、ドイル同様、鳴かず飛ばず止む無くルパンを書いたとのこと。ルブランもSFを書いている。
 シリーズが始まってから、早々にルパンはホームズと対決する。この時、ルブランは、ドイルにホームズ使用の許可を取っておらず、ホームズはルパンの引き立て役になり、1作目では引き分け、続く長編『奇岩城』では(これも世界少年少女名作文学全集に載っていた)、ルパンの妻を殺してしまう。
 読んで私は困惑したが、多くの抗議があったらしく(ドイルからもルブランに抗議があったと言われる)、ホームズではなく別の名前の探偵と改められている。
 ホームズもルパンも人気シリーズで続き、第1次世界大戦では、それぞれドイツの陰謀にあたるエピソードがある。
 ルパンのシリーズは、日本でも翻訳されたが、うち「ルパンの大作戦」は、フランス軍に医師で参加したルパンが、ドイツの女スパイに父を殺された青年を助け、祖国のため大活躍する話。私は好きだが、実は「ルパンの大作戦」の元になったルブランの小説では、ルパンはほとんど活躍せず、日本人の翻訳者が大がかりに加筆したそうで。
 ホームズの「最後の挨拶」は、イギリスに暗躍するスパイを、ホームズが相棒のワトソンと捕らえる話だが、ホームズの完結にしても相応しい(この後も10年もホームズの物語は書かれていくが)。
 ホームズもルパンも人気シリーズで、第1次世界大戦後も、更に作者や時代、国や性別も超え、小説のみならず、映画やアニメにもなって、現在も続いている。ジェレミー・ブレッドがホームズを演ずるドラマは一押し。
 石森プロ出身の石川森彦やJETに、ホームズはマンガ化され、原作のイメージを忠実に再現された。
 ドイルは30年に亡くなったが、晩年は心霊研究に力を入れていた(水木しげるが漫画を描いている)。ルブランは41年に逝去。
 一方で、イギリスでは女性作家のアガサ・クリスティー、フランスではガストン・ルルー(「オペラ座の怪人」などホラー小説で名高い)の「黄色い秘密の部屋」など新しい推理小説が登場する。
 アガサは、ポワロやミスマープルと言った複数の人気シリーズを書き、第2次世界大戦後まで長く現役で、ミステリーの女王と称された、日本にもファンが多く、作品は何度も映像化されている。
 推理小説はヨーロッパのみならずアメリカ、そして日本にも渡ってヒット。
 日本でも名探偵明智小五郎や金田一耕助が登場するが、それについては次号で。

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