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No.517(Web版167号)2

 名探偵登場(後編)

 中村達彦

 明治後半、黒岩涙香が海外のSF・推理小説を次々に翻訳、のみならずオリジナルの小説を書き、日本初の探偵小説と言われる。
 大正時代、医学博士小酒井不木が推理小説の評論や翻訳を手掛け、良質な少年探偵小説も創作。多くの人と親交を結んだ。病弱で40歳で亡くなったのが惜しまれる。
 黎明期で忘れてはならないのが森下雨村。1920年に翻訳探偵誌「新青年」の編集長となった森下は、7年も務め、翻訳だけでなく、新人の創作にも力を注ぐ。
 小酒井と親交があり、自身も少年探偵ものを書いている。
 ちなみに、森下雨村の親戚は、SF作家森下一仁で、その子孫は今年のSF大会でピアノを披露した森下唯(ピアニート公爵)。
「新青年」には甲賀三郎、大下宇陀寺ら推理小説に留まらない優れた才能が集まる。少し遅れてSF作家でもある海野十三も。
 雨村の次の「新青年」編集長は横溝正史。甲賀三郎より少し早くデビューしたのは江戸川乱歩。この2人が、日本推理小説の大家で、100年に渡り影響を及ぼす大探偵を生み出すのは言うまでもない。
 まず江戸川乱歩、エドガ・アラン・ポーの名前からペンネームを引用し、1923年に「二銭銅貨」を発表。「心理試験」「黒手組」次々に推理小説を手がけ、更にエログロな倒錯の「淫獣」「人間椅子」「押絵と旅する男」「芋虫」「孤島の鬼」「パノラマ島奇談」などが大きな反響を呼ぶ。
 また明智小五郎が活躍するシリーズが注目。大正後半から昭和始め、「一寸法師」「蜘蛛男」「黒蜥蜴」「魔術師」「吸血鬼」と巧妙なトリックや難解な暗号を用い、探偵やか弱い女性が真犯人と言う意外な筋の作品続く。
 1930年の「黄金仮面」は、明智がアルセーヌ・ルパンと対決するが、「奇岩城」のシャーロック・ホームズみたいに、ルパンの名前を語ってはいるが、ルパンに非ず、よくルブランから抗議が来なかったものだ。
 黄金仮面と恋仲になる令嬢の名前は、不二子。「ルパン三世」の峰不二子の元ネタか?
 昭和60年代、現在は歴史研究家として名をはせている井沢元彦が「ダビデの星の暗号」「義経幻殺録」と言う大正時代の殺人事件に芥川龍之介が挑む話を書いたが、江戸川乱歩と明智小五郎が絡む。
 乱歩の作品は、エログロや残酷なシーンが検閲を受けたり、発禁になることも。1936年に「少年倶楽部」が少年向けの小説を依頼。書かれたのが「怪人二十面相」。
 明智や小林少年ら少年探偵団と怪人二十面相の捕物は、大ヒット。少年探偵団のシリーズは、26年に及ぶ。
 怪人二十面相は殺傷を好まず、愉快犯的な一面がある。SF小道具や衣装を用いる。
「宇宙怪人」では、宇宙人が飛来し、パニックに陥るが、二十面相の仕業。最後に明智や警察に二十面相が行った演説は、唯の泥棒に思えず、理にかなっている……。
 乱歩はSFにも理解が深く、作家陣と親交があった。
 ポプラ社の少年探偵団シリーズは全26巻。次に大人向けの小説も修正されて収録され、私はそれを知らず読み、大きな違いにショックを受けた。
 2014年、別の作家パスティーシュ、みんなの少年探偵団全5巻が刊行されている。
 少年探偵団や明智小五郎は昭和40年江戸川乱歩が亡くなってからも、小説のみならずマンガや映画、TVでも発表された。江戸川乱歩の美女シリーズやマンガの山口譲治作「江戸川乱歩異人館」がアレンジ加えられているもお勧めである。
 乱歩と親交があった横溝正史も、戦前から推理小説を書いていたが、戦争が終わってから本格的に創作に取り組み、昭和23年に金田一耕助が活躍する「本陣殺人事件」を発表。「犬神家の一族」「獄門島」「悪魔の手毬唄」なども注目される。
 金田一耕助の名前は、言語学者の金田一京助から採っており、横溝は、勝手に引用したことで恐縮していたが、当の金田一京助は「名前が憶えられた」感謝しているとのこと。
 なお横溝は、金田一以外の探偵、人形佐七捕物帳などの捕物、冒険譚、SFも書いた。小林少年のような少年探偵御子柴進が活躍するシリーズを書いている。
 70年代初め、横溝作品の人気はなかったが、角川春樹が金田一耕助の映画を企画、了承をもらうため、訪れる。その時、横溝はもう亡くなっていると思っていたそうだ。
 76年に映画「犬神家の一族」は大ヒット。翌年「悪魔の手毬唄」も映画化、同年「八つ墓村」も映画で大ヒット、TVでは「横溝正史シリーズ」が放送され、高視聴率。
 石坂浩二や古谷一行演じる金田一は独特な風貌で人気を博す。横溝の原作にアレンジが加えられている上、ホラー要素が強い。
 影丸穣矢、つのだじろうにマンガが描かれ、近年はJETが手がけている。
 再ブレイクに触発され、高齢であった横溝は新作を書き出し、81年に亡くなるが、幾つも構想があったそうだ。
 横溝正史も、死後も、金田一耕助をはじめとする作品群が影響を与え、明智と金田一が共闘するパスティーシュもある。
 現在、江戸川乱歩賞、横溝正史ミステリ&ホラー大賞が。「名探偵コナン」アニメはロングラン重なり、TVドラマも推理ものが多い。
 東野圭吾、米澤穂信と面白い推理小説を書く作家が現れている。最近、米澤穂信の小市民シリーズがアニメ化された。岐阜を舞台にした高校生男女の物語。幾つも事件が絡み、面白かった。来年第2期が予定と。
 推理小説は全盛だが、SFも負けずに。

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